Episode 03
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月のヴァルキュライド
Episode 03
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少女はなぜ自分がそこに在るのかわからなかった。
自分が生み出された意味を、少女は知っている。自分が存在する理由は。しかし、ならば、存在理由を果たしたあとはどうなるのだろう。
たとえば人間は?
ある目的を持って産み落とされた人間が目的を達したとき、その人間はどうなるのだろう。死ぬのか。それとも塵となって消滅するのか。跡形もなく消え失せるのか。ただ、生き続けるのか。目的もなく。生き続けるとはどういうことだろう。
生とは死の一形態にすぎない。
死もまた、生の一形態にすぎない。
それらは互いに補完し合い、ひとつの生命の環を構成する。
死なき生はなく、生なき死がないなら、生き続ける、というのは本来的に不自然な状態にちがいない。
生あるものは同時に死につつあるものだ。生あるものは毎秒死を蓄積していく。蓄積された死がその当人の限界値を超えたとき、ひとは死ぬ。
死なない生物はない。もしそんなものがあるとすれば、それは毎秒新しく生まれ変わるのだろう。生まれ変わり続けるかぎり、死の蓄積は起こらない。
ならば目的もなく生き続けるものは、常に生まれ変わり続けるもの、ということになる。なんのために生まれ変わるのだろう。新しい目的を探して? そうにちがいない。すべてのものには存在理由がある。産み落とされた目的が。
生とは目的なのだと少女は理解した。
生物は、子ではなく、目的を産み落とす。目的を達したものが生き続けるというのはある意味で当然のことだ。目的を失ったものは、生きていないのだ。だから死なない。新しい目的、新しい生を探し、生まれ変わり続けている。新しい目的を獲得したとき、それは再び生き、そして死ぬのだろう。
少女はちいさな町のなかを彷徨っていた。
目的はなにもなかった。ただ死んでいないから、生きている。
なぜ自分はここに在るのだろう。理由もわからず、ただ風に吹かれるように少女は歩いていた。やがてだれかが見つけてくれるのを辛抱強く待っているかのように。
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