第5話

 それにしても、初めて入ったユキの部屋。同じ家の中なのに「恥ずかしいからダメ」なんて言われて入ったことなかったな。


「電話忘れてたんだよね。あっ、あった♪」


 そう言って、ユキは俺の横に置いてあったスマホに手をかける。スイッチが入り、画面に描画レンダリングされたのは、


 お、俺?


「お兄ちゃん、大好き!」


 というと、ほおを電話機にすり寄せる。が、間もなくそこからそっぽを向く。


「って、人前……お兄ちゃんの前では言えないよね」


 ツンデレかよ!


 それにしても、いつもは下僕のようにぞんざいな扱いなのに、まるで妹系萌えアニメのメイン・ヒロイン・キャラクターばりのブラコンだったとは。


 お兄ちゃん、アニオタでよかったよ。


 じゃ、お兄ちゃんと結婚……ってリアル妹、ちょっとダメだな。実際、法的に無理だし。


 とにかく、ユキに欲情よくじょうなんてしないぞ、うん。


「あ、メール、メール」


 さすがイマドキの女子校生。ユキは細い指を、スマートフォンの画面を流れるようになでていく。


「えーっと、なになに? 『今日のスケジュールについて』」


 ユキは本を読むときも、手紙を読むときも、音読するスタイルだ。


 ここだけの話、妹の声がロリ系声優みたいにかわいくて、それはそれでいいのだが、まるでオレに当てつけのように恋愛小説ばかり音読するのはやめてほしい。今度からは妹ものラブコメにしてくれ(それも恋愛といえば恋愛だが)。

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