第2話

「ねー、ヒロ、起きた?」


 聞き覚えはないが、かわいい声が、ドアの外から俺を呼ぶ。


 ま、まさか。


 俺、無意識のうちに彼女でも作っていて、部屋に転がり込んでた?


「かわいいって思ってくれてありがとう。でも、彼女じゃないよ、もうっ.....。


 な、何。心、読まれている?


「そうだよ、うん。入るよー」


 ドアの隙間から見せる、大きな青い瞳をたたえた、あどけない笑顔。色白のほおと、それ以上にき通った長い銀髪が足もとまで垂れていた。


 誰?


「はいっ! ボクは神さまだよ」


 神?


 古代ギリシャかローマかといった感じの大きな布を一枚、羽織はおっただけの姿はソレっぽいが、自分から「神さま」なんて言うヤツがいるのかよ。


 ま、目の前にいるのだが。


うたがっているの? ひど~い!」


 いくらなんだって、神さま、はないだろ。もっともらしいこと言えよ。


 う~ん、何というかな、二次元ヒロイン……。


 とにかく、手にした杖が違和感バリバリなんだよ。なんていうか、魔法少女的な、メルヘンチックな感じのやつ。ピンクなんだよ、柄がピンク。その先端部には羽を広げ、深紅しんく宝玉ほうぎよくをくわえた青い鳥の彫像ちょうぞうくびをもたげる。


 そんなことを頭に思い浮かべると、その、自称「神さま」は、まっすぐこちらへ駆け寄ってきやがった。壁を通り抜けて、床の位置を無視して宙を進む。


「これでも信じてくれないのかなぁ?」


 俺に覆い被さんばかりに、真上からこうべを垂れる、自称・神さま。


 ちかい、近すぎるって。


 彼女(彼神?)の吐息といきが吹きかかる。視界が彼女の顔と垂れた銀髪でおおくされる。


 俺の見ている世界の、その全てを支配される。


 み、認めた。あんた、神!


「ありがとっ!」


 彼女はまるでお伽噺とぎばなしの妖精のようなイタズラっぽい笑みを浮かべながら、小躍りを披露する。一通り踊ると、スカート状になっているすそを持ち上げてお辞儀じぎをする仕草しぐさが、なんともかわいくて、つい見とれてしまった。


 そして、俺のほうに向かって右手を差し出す。


「あ、ゴメン。一緒に踊って欲しかったんだけど、無理だよね」


 そーですよ、俺にダンスは無理。っていうか、動けない。どうなってんだよ。

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