第肆刀〜双子の過去・後編〜

双子は交互にポツポツと身の上を話し始めた。……双子として生まれてきた事に対する、苛立ちと憎悪を混じえながら。

「…………………………俺達は奥州の山の中にある、とある集落に産まれました」

「…………………………その村では双子は『忌わしき子供』として扱う、因習があったんです」

「…………………………どんなにその子たちが才能に溢れていようがいまいが、所詮双子なので人の子としての扱いを受ける事は絶対に▪▪▪ありません」

「…………………………双子は生まれついた時から地下牢に入れられ、其処で暮らす事を強制されました」

「…………………………毎日地下牢の中で拷問やキツい修練を強制し、徹底的にその身に叩き込まれました」

「…………………………時には出来損ないの双子のなれ果てを見せて、しくじったらこうなるって言い聴かされました」

「…………………………俺たちがもっと強ければ、救えたかもしれない生命いのちです」

双子が話したのは壮絶な過去だった。けれどコレはほんの序章にしか過ぎなかった。

「…………………………けど此処までなら、普通の事でした」

「…………………………あの日引き剥がされなければ、俺たちは殺そうとは思わなかったかもしれません」

「…………………………双子は二人で一人、それなのに事もあろうかあの人たちは……」

「…………………………双子俺たちを引き離したんです……」

「…………………………俺たちが八つの時に……」

双子はゆっくりと昔話を歌って聴かせるように話し始めた。今までとは違う、まるで引き込むような話し方で……。


アレは……そう、雪が舞ってキラキラと輝くような日とは正反対の、真っ黒な雲に覆われた雷雨の夜の事でした。

夜がけて皆が『さァ寝ようか』と布団を敷いて横になるような夜更けの事でした。

俺たちも連日の任務しごとで疲れ切っていて、その日はグッタリと重い身体を互いに寄せ合いながら、とこについた所でした。身体は傷だらけ、酷使した手脚はギシギシッと痛みを訴える。そんな時の事でした、双子俺たちにとって地獄の苦しみが始まる密かな合図が鳴ったのは……。

『……ぃ……ぉぃ、おい起きろこの糞ゴミ共!!』

『ぅ……い、たい…………ッ!』

ドガッと音がして眠っていたオウカは蹴り起こされた。そして長い髪の毛を引っ張って無理やり立ち上がらさられると、そのままズルズルと物を運ぶようにして引き摺られる。

『痛い……ッ……』

『五月蝿い喋るんじゃねぇよ、生きてる価値も無いゴミ屑のクセに……』

遠慮容赦無く髪を引き抜く勢いで引っ張られる。人権などまるで考慮されていない。……イヤ最初から無いのかもしれなかった、忌まわしき『双子自分たち』には……。

『…………離、せ……鷗瑕、鷗瑕……ッ!』

『…………つば、き……ッ!』

椿は物音に目を覚ましたらしい。鷗瑕を連れ去ろうとする、村人たちに対して抵抗しながら鷗瑕に近付こうとするが全く許されない。村人たちが椿を押さえ付けて行く手を阻む。

『鷗瑕、鷗瑕ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

椿の声が辺りに虚しく響き渡る。椿の声が届くこと無く、俺たちは引き剥がされた。

そしてその日を境に椿も鷗瑕も壊れ始めた。

椿は元々の身体の弱さが顕著になり、それに伴って時々魘され精神に異常をきたした。

鷗瑕は今まで以上に他人ヒトを信用する事を忘れ、これまで以上に人を殺す事を厭わなくなった。椿という引き止め役ストッパーを無くした狂人は止まらない。

四年後鷗瑕は大量虐殺を起こす。他ならぬ椿を穢れた世界から引き離す為に。

血塗れた世界で双子は再開を果たした。

椿は涙でクシャクシャの顔で鷗瑕を抱きしめる。鷗瑕は血に塗れた両手で椿を抱き返す。

そこにあるのは確かな絆だった。

山奥にある辺鄙な一集落が消えた所で誰も怪しみはしない。

それが有名な異能の一族であったとしても。

…………双子は村を離れて自由気ままに旅をした。初めて見る景色や食べ物、文化や人に双子は目を向いた。

旅費は用心棒として働く事で何とかやっていけた。

鷗瑕が大量虐殺をおこなって開放されて更に三年後、二人はある転機を迎える。それは『新撰組隊士』として働く者を求める、現代的に言う求人だった。

──自分たちのような者でも受け入れて貰えるのだろうか?──

双子はその立て札を見て疑問に思った。この時代、双子は忌み嫌う因習が普通だったのだ。

──幾ら強かろうが双子である自分たちは受け入れて貰えないのでは無いだろうか?──

心に凝り固まった疑心の念が存在を否定した。

『今まで受け入れられた事があったか?』

『忌み子は消えろと何度も石を投げられたでは無いか』

『止めておけ、どうせ門前払いされるのがオチだぞ』

『どうせ……信じられるのはお互いだけなのだから』

何度も何度も存在を否定されてきた自分たちはお呼びじゃない事は理解していた。




だけど……妙に惹かれるんだ。妙に気になるんだ。まるで異世界の扉を開くかのように、新撰組の門戸を叩いてみたいんだ。

そうしたら────────…………

此処に居て良い存在の証明になるんじゃないかって、心の何処かで思うんだ。




二人は最初で最後であろう人生の賭けをした。新撰組の門戸を叩いて受け入れられるか、そうでないか。

そうやって賭けを投じた結果、二人は新撰組隊士として招き入れられる事となる。

それも居合の達人斎藤一や、無類の天才剣士沖田総司と並ぶ、剣の使い手として。

双子は今日も新撰組の為に、お互いの為に、その剣を奮うだろう……。

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悲劇の双子と新撰組物語。 幽谷澪埼〔Yukoku Reiki〕 @Kokurei

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