第弐刀〜新撰組の日常と双子〜

暑苦しい陽射しが照りつける夏が終わり、涼やかな風が吹き始める秋の初旬の事。

双子こと神月椿こうづき つばき雛罌粟鷗瑕ひなげし おうかは縁側で二人揃って何とはなしに蒼空を見上げていた。見上げると言っても、二人には単なる天気を予測する暇潰しの様なモノであって、癒されるとかそういう感情はないのだ。……そんなモノ、遠い昔に棄ててきた。双子である自分達には必要の無い代物だったのだから。

暫くボーッと蒼空を眺めていると、廊下からトテトテと近付いてくる足音が耳に入ってきた。

その足音は二人のすぐ後ろで止まったので、二人は無表情で顔を上に上げて背後に立つ人を見上げた。其処には新撰組一番組組長・沖田総司がニコニコしながら二人を見下ろしていた。

「二人共おはようございます」

「「…………おはようございます、沖田さん」」

「ふふふ……息ピッタリですねェ」

「「…………まァ血肉を分けた分身ですから」」

「……血肉って……」

爽やかな笑顔で朝の挨拶をする沖田に、双子は無表情で挨拶を返す。

息がピッタリだと言う沖田に双子が返した返答を聴いて、沖田は苦笑を浮かべる。

此処新撰組では双子も身分も関係無い。只能力だけが評価される社会で、双子は沖田や斎藤、土方に続く猛者として名を連ねていた。

「……ところで椿さん鷗瑕さんは何してたんですか?」

「「…………非番だったんで蒼空見てました」」

「蒼空? ……確かに今日は一段と綺麗ですね」

「「…………雨も降らないみたいです」」

「雨? ……もしかして只蒼空を眺めてたのではなくて、天気を読んでたんですか?」

「「…………俺等が蒼空見る理由なんざ、其れ以外無いでしょう」」

双子の素っ気ない返しに沖田は苦笑する他無かった。

「……と、そうだ。二人とも暇なら、土方さん弄りに行きませんか?」

「「…………ハイ?」」

「だから暇でしたら土方さん、弄りに行きませんか?✨」

「…………沖田さん遂に思考回路が壊れました?」

「…………若しくは遂に腐り果てて蛆でも湧いてきました?」

「二人とも酷いです!?(汗)」

沖田が提案した暇潰しを聴いて双子がサラッと毒を吐く。ソレを聴いて沖田は汗を流しながら苦笑する。

「おいコラ総司ィ! テメェ仕事は如何した油売ってねぇでさっさと仕事行きやがれ!」

「ぷぅ〜嫌だなぁ土方さん、なんて無粋な発言するんですかァ〜✨」

「「……………………騒々しいのが来た……」」

「うるせェさっさと仕事行け! 後双子サラッと毒を吐いてんじゃねェよ!」

「ハイハイ行きますよ〜(笑)」

「「……………………毒なんて吐いてません〜(棒)」」

「笑いながらと棒読みで言ってんじゃねぇよ!」

土方は沖田を蹴り飛ばして双子を睨みながら言った。

「ァ痛ッ!? 土方さん乱暴過ぎますよ……」

「「……………………五月蝿いです……」」

沖田は笑って立ち上がり巡察の準備をしに部屋に戻った。

「ったくお前らは此処で何してんだ?」

「「……………………天気観測」」

「…………お前ら少しは餓鬼らしい事しろよ……」

「「……………………餓鬼である前に新撰組隊士ですから」」

「なら総司の悪戯止めろよ……」

「「……………………嫌です、面倒な……」」

双子の返事に副長土方歳三は呆れたように双子を見た。そして溜息を吐いた。

「「……………………何です?」」

「イヤ……」

副長は言い掛けて気まずそうに口を閉じる。その仕草を見て、何となく言い掛けた言葉が想像出来た。

ソレは今迄掛けられる事も無く、掛けられるとさえ思っていなかった言葉。

『辛かったな』『可哀想に』『我慢するな』

そんな言葉は自分たち双子には一生縁の無いモノだと思っていた。

自分たちはただーーーーーーーーー……

「…………ぃ……ぉいおいどうした?」

「「………………………………………………ハイ?」」

「イヤ急に黙るからどうしたのかと思ってだな……何回呼び掛けてもボーッとしてるし」

「「…………………………考え事してただけです」」

「そうか? 辛くなったら遠慮無く言えよ?」

そう言って双子の頭を軽く撫でて廊下の奥に消えた。

双子は頼もしい背中が消えるのを見届けて呟いた。








「……………………………辛いなんて」

「……………………………言える訳が無いのにな……」









二人の呟きは誰に聴かれるまでも無く、風に溶けて消えていった。

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