kor
みなみ嶌
ep.1 Bray & Socalo
ep.1-1 ブレイという少年
穏やかな昼下がり、一羽の白い鳥が
遠くの空には薄い雲。天上からは爽やかな水色の中で日輪なさんさんと光を降り注いでいる。
白い鳥は高度を落とし、翼に風を受けながら眼下に見えてきた港町へと近づいていく。
港には大小の漁船が停泊しており、町の活気が
その先、海に近い緩やかな
城のすぐ下には白い海岸が広がり、そこでは釣りを楽しんでいる一人の人影が確認できた。
釣り人のところへ舞い降りてみるのも良いかと、白い翼をひと羽ばたきしてみたものの、距離を縮めて釣り人――男の足元に置かれた
当初からの目的地へと再び進路を取り、一直線に城の大きなバルコニーを目指すのだった。
そこに行けば、先ほどの釣り人の成果を掠めるよりは上等であろう食事にありつけることを、彼女はよく知っていた。
◇
城の
部屋の中は落ち着いたボルドー色のカーペットが広げられており、窓と反対側の壁面には重厚な
背の高いダークブラウンの棚には分厚い本が隙間なく並んでおり、部屋の奥にはアンティーク調の見事な机が、そこにあるのが
しかし、残念ながらその机の上には高く積まれた書類の山や、ぞんざいに置かれ散らばり重ねられた本たち、その上にも横にもインクや万年筆が転がっており、その価値を
その机上の山々の間に突っ伏している一人の少年がいた。
ぴくりとも動かず、死んだように時を止めている。寝ているわけでもなさそうで、勿論、死んでもいない。
その少年の髪は積み上げられた書類や本の隙間から差し込んだ光を受け、春の若葉のように淡く輝いていた。その光景は絵画になりそうな完璧な美しさを保っていた。
そう、彼が地獄からの使者が
「あいつめ、殺すだけじゃまだ足りぬ……」
◇
「ッだあぁっ!あいつはまったくどこへ行ったぁぁ! こんなにたくさん書類を溜めおって!なぁにが『うん、ばっちり片付けてるよ☆』だ! 嘘八百じゃないか!」
少年は
少年の
「大体、よく考えてみればあいつ、なにか言いながら不自然に口角が上がってたな……。くそ、僕も疲れてたとはいえ、見過ごすとはなんたる
呟きながら滑り落ちた書類の端を掴んだ少年は口の端を歪めたが、グッと強い表情に引き締めなおす。
「しかし、とはいえ! この
「その後は一週間の食事抜きだ……」とか、「ははは、奴の
「なんだ? 一体……」
窓辺に近づき、あ、と声を
「すまない、忘れていたようだ。すぐ向かおう」
少年は先ほどの修羅のような
視線の先には、カモメに比べればゆうに二倍はある大きさの白い鳥が、少年に向かい長い
◇
少年は自室から出てすぐ隣の階段を駆け上がり、展望バルコニーの扉を勢いよく開く。
扉の向こうから差す眩しい光に視界を一瞬奪われるも、全身に浴びる日の光の心地よさにゆっくりと目を開いた。
バルコニーの
「すまない、無能な部下のことを考えていたらお前がくるのをすっかり忘れていた。……そんな目で見るな、お前だって毎日来るわけではないくせに」
言いながら少年は
「さあ、どうぞお召し上がりください、と」
言葉を待たずして鳥は勝手にマメやら、小麦やらをつついていた。
少年は友人から目を離すと
今日は本当によい日だ。きっと城下の民も過ごしやすいはず。
「今日は洗濯物がよく乾きそうだ」
昔よく母が「こういう日はお洗濯したくなっちゃうわね」と嬉しそうに話していたのを思い出す。そして父が
しかし回想はそこで途切れる。
背後でバルコニーの扉が勢いよく開かれたからだ。
「すみません、失礼を。ブレイ様、ソカロ様がお戻りになられましたのでご
少年――、ブレイがあまりにも無反応なので兵は
少々の間をおいて、ブレイはご苦労、と一声掛ける。いつもなら、「あの大馬鹿者めがぁ~!」と怒りをあらわにする主君の異変に兵は背中に寒いものを感じた。
――間違いない、今日は嵐だ。
バルコニーを後にした兵は、扉を閉め、重苦しい気持ちを吐息と共に吐き出した。そして
ソカロさん! 逃げてーーーー!!
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