6. 対面
名前は、オダショウゴと言った。
マサシに返信して2日後の週末。
彼からメッセージの返事が来たのだった。
『明日、“クックファーム”でヤツに会わせてやる』
そして日曜日。
“クックファーム”とは地元のファミリーレストラン。
商店街の大通りに面したそのお店に自転車で向かった。
秋の空は変わりやすい。朝は快晴だったのに。
お店がみえてくると、雨がぽつりぽつりと降り出した。
周囲の通行人が、いかにも面白くなさそうな表情で足を早める。
マサシは、互いの近場のお店を指定してくれた。
だからすぐに目的地に着いた。
すでにマサシの中型バイクがあった。
社会に対していかにも突っ張っているかのように、彼の愛車は堂々とお店出入り口の前に停められていた。
だがそのど派手な改造バイクは、雨に濡れてバカ丸出しの状態だ。
こんなヤツと待ち合わせする自分に嫌気が差す。
だけど、真実を知るためには仕方がない。
お店の専用駐輪場に自転車を停める。
小狭い屋根の下でなんとか隙間に入れることが出来た。
入り口に小走りで向かっている最中に、清佳と最後に別れた際、彼女が乗り込んだスポーツカーを確認出来た。
店内。ハンドタオルで少しだけ濡れた髪を拭きながら、マニュアル通りに話す店員を掌で遮った。
ツレがいることを丁寧に告げる。
店内はバスケットコート程度の広さ。彼等のいる場所はすぐに分かった。
歩いてすぐの窓際の席に座っている。
よお、とマサシは右手を挙げた。
スカジャンを着た金髪ピアスのこの男に眉根を寄せる。
だけど。
マサシが私を待っていた場所は、奥に設けられているガラスに仕切られた喫煙席じゃない。
彼のことを少しだけ見直した。
二人の前にはそれぞれアイスコーヒーが置かれていた。
マサシのグラスの中身は半分ほど飲まれているが、向かいの男はストローの袋を破ってすらいない。
私はアイスココアカフェオレを注文した。
店員が一礼して足早に去っていく。
すかさずマサシが開口一番、まず名乗れよ、と男に向かってそう言った。
すると彼はぺこりと頭を下げて自分の名を名乗った。
オダショウゴ。私立大学の2年生。
黒髪を逆立てた髪型は数日前に目にした時と同じ。
彫りの深い顔立ちが意外とイケメンだったことに気づく。
小麦色のカラダ。
半袖の白のポロシャツ姿ががっちりした体型を表立たせている。
銀のネックレスが胸元でやたらとキラキラしていた。
清佳の好みの男なのかどうかは知らないけれど、モテるタイプであることには違いなかった。だが少なくとも私の好みではない。
私の好きな人は、変わらず毎朝、居てくれる。
最近は、彼が私を待っていてくれるかのように錯覚してしまう。
そんなんじゃないことぐらい知っているけれど。
オダショウゴと、朝の彼は見た目は対照的かもしれない。
オダショウゴが体育会系の快活な男子なら。
朝の彼は、縁なしの眼鏡が似合う、気品のある、まさに貴族的なひと。
小風に揺られた少し赤らんだ彼の髪を思っていると、隣のマサシに思い切り肩を叩かれた。
「いったーい! ちょっと! 何すんのよ!」
私が怒りにまかせて声を上げると彼はにやつき顔で口を開いた。
「バーカ、なにコイツに見とれちゃってんだよ」
「は? わ、私、そんなこと……」
「ぼぅっとしてないで、コイツに聞きたいことを聞けよ」
向かいのオダショウゴは、まだマサシのことを恐れているのか肩を小さくしていた。
少しばかりうつむき加減だが、左目の下の皮膚の色が紫色に変色しているのは見て取れた。どうしてそうなっているのかはすぐに察しがつく。
「お前も、正直に答えろよ」
マサシの敵対心丸出しな口調に、男は無言で頭を上下に振る。
その時、少しばかり甘い香りが漂ってきた。マサシのどぎつい香水のにおいじゃない。
今時分、香水つけた男なんて珍しくもなんともないのだが、私は香水なんか使用したことがない。
なのでにおいに慣れてない。
男二人の香水のにおいに目眩がしそうだ。
「あのね、清佳のことだけど」
ショウゴは私の言葉に顔を上げた。
目の下はやはり、殴られた痕にしかみえない。
「俺は知らないから、本当に。警察にはちゃんと裏はとってもらってるし」
裏? アリバイのことか。
マサシが口を挟む。
「悔しいけれど、清佳の死亡推定時刻にコイツがコンビニにいたことを店員がちゃんと憶えてたんだってよ」
は? マサシの口から“死亡推定時刻”なんて言葉が飛び出るなんて。
私の思いを無視して彼は続けた。
「警察は自殺の可能性も捨てきれないって言ってるらしい……だけどよ、どこをどう考えたって清佳が自分で山の中に行くかよ、それに、自分で自分を切り刻むなんて考えられねえ」
「だけど、カッターナイフが遺体の近くに落ちていた」
ショウゴがぼそりと呟いた。
突然、マサシが、てめぇ! とテーブル越しに相手の胸ぐらを掴む。
私は驚き慌てて立ち上がった。
「マサシ!?」
「清佳はなあ! 可哀想な運命を辿ってたけど自分で人生を捨てることなんてしねえんだよ!」
実の親に捨てられた、清佳。血の繋がらない家族にも冷たくされて。
ショウゴは目を見開いているままで何も言い返さない。
「やめてよ!」私はマサシをなんとかショウゴから放すことが出来た。
恋人を失った地元の不良は目に涙を溜めていた。
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