第73話 間抜けなライオンと鶏の記憶力
リアルア王城の地下に造られた王家の墓へと続く扉には、大きなライオンの顔が描かれ、然も迷惑そうにこちらを凝視していた。
それを書いたのは、勿論、海底神殿から付いてきたナナミだ。
本人は、良く出来たと嬉しそうにしているが、壁の封印を上書きするくらいなら、普通の扉にして欲しかったと思うのが人情というものだろう。
まあいい。取り敢えず。ナゾナゾを解こうではないか。
いや、その前にやるべき事があるんだった!
「サクラ!口を閉じるんだ!俺が良いと言うまで、一言も話すなよ」
そう、迂闊な回答をしてしまうサクラの口止めだ。
こんな所で時間を食う訳にはいかないんだ。
すると、それを聞いたサクラが不服そうに返事をしてくる。
「わ、解ったわよ~!」
「だから、喋るなって言っただろ!」
行き成り喋りやがった! こいつは本当に分かっているのだろうか......
サクラに不安を感じつつも、扉に描かれたライオンに告げる。
「よし、じゃ~ライオン!問題を出してくれ」
その言葉でライオンの目が輝いたのだが、その時、ライオンの顔が少し笑ったように思えた。
『では、参るぞ。貝は貝でもお風呂にある貝はなんだ』
おい! この前と同じ問題かよ! 完全にワンパターンじゃね~か!
真剣に考えていた俺が馬鹿だったよ。流石に糞ゲーだけのことはある。
ライオンから出題されたナゾナゾの内容に悪態を吐いてると、予想外の者から声が上がった。いや、予想外というよりは、想定外と述べた方が良いだろう。
「わ、解ったわ~~!」
場の空気も読まずに、ピョンピョンと飛び跳ねながら騒ぎ立てたのは、サクラだった!
そう、こいつは何も理解していなかったのだ。
「お前は喋るなって言っただろうが!」
俺に怒られたサクラが首を窄めて両手で口を塞ぐ。
更に、サクラはやっちまったという表情でマルカの背に隠れる。
そんな彼女に睨みを利かせながら、ゆっくりとライオンに答える。
「あったかい」
『な、なぜ、何故解ったのだ!』
答えを聞いたライオンが驚きの表情となる。
いやいや、既知の問題だからな。
というか、俺からすると、扉の絵が驚きの表情に変わる方がびっくりだぞ!
「えっ!?」
だが、後方でも驚愕の声が上がっている。
もう、言わずとも知れているだろう。そう、天然素材のサクラだ。
そんなサクラに、俺は目の前の扉が重々しい音を立てて開くのを眺めつつ、思い付いたであろう答えを尋ねてみる。
「サクラ、お前の答えは何なんだ?」
「えっと......ハマグリ」
「お前もかよ......」
結局、この扉の問題で、サクラは天然という事だけでは無く、学習能力も無いという事が判明したのだった。
扉が開くと、そこには更に地下へと降りる階段があった。
その階段を物思いに耽っている状態で降りて行く。
というのも、俺の脳内では、サクラがどうやって会社勤めをしていたんだという疑問でいっぱいだからだ。
「なあ、日本の会社って、そんなんで遣っていけるのか?」
如何でも良い事だが、思わずサクラに尋ねてみると、彼女は頬を膨らませて反論してくる。
「何を言ってるのよ。こう見えてもバリバリのオフィスレディだったのよ」
俺の言葉に、サクラは憤慨して答えてくるが、それに異議を唱える者が現れる。
「オフィスレディが何かは分らないけど、サクラって抜けてるよね?」
「ぎゃふ」
サクラの反論の言葉を耳にしたマルカがツッコミを入れると、彼女はギャフンと言わされる。
しかし、更に追撃の攻撃が炸裂する事となる。
「サクラは、頭悪いニャ~よ」
「ぎゃう」
マルカに続いて、悪気は無さそうなニアが、サラリと言葉の刃で突き刺す。
「そうだな。確かに考え無しだよな」
「うぐっ」
オマケに、エルまでもが自分を棚上げして、サクラにダメを炸裂させる。
俺から言わせると、「エルよ。それはお前の事だ」と言いたいのだが、エルの発言でサクラは思いの外にショックを受けたようで、その場で足を止めてしまう。
「ん~、記憶力も悪いわよね。それに普段は食っちゃ寝だし。ソウタの嫁には無理じゃない?」
「......」
凍り付いているサクラに、ミイがとうとう止めの杭を打ち込んでしまった。
その時点で、サクラはボロボロとなり、灰のように崩れ落ちる。
しかし、それを見て、流石に可哀想だと感じてしまう俺がいる。
まあ、ことの発端は俺だし、やはりフォローすべきだろうか。
そんな想いから周囲を見回すと、その視線は何故か俺が悪いと言っているように見える。
というか、これはお前等にも責任があると思うのだが......
まあいい。なんとかしないと進めないし...... それに俺は大人だからな。事無かれ主義に徹する事にしよう。
「さ、サクラ、悪かった。悪気は無かったんだ」
「......」
俺は思いっきり優しく声を掛けてみたのだが、彼女は唯の屍と化していた。
駄目だ。これは全く復活する兆しが無い。
仕方ない。究極奥義をだそう。てか、ここ最近は奥義を連発し過ぎのような気もするけど。
「サクラ、今夜は蒲焼なんてどうだ?うまいぞ~~!」
その言葉に、俯けていたサクラの顔がハッと上がる。いや、何故かニアまでもが尻尾をピンっと張ってこちらを注視している。
「タレは俺の自作だが、割といいのが出来たんだ」
「か、か、蒲焼?タレ......蒲焼、タレ、美味しそう......」
そう、俺はラミアの蒲焼を食べてからというもの、蒲焼のタレが無いことに不満を感じ、人知れずひっそりとタレの実現化を図っていたのだ。
「ほら!俺の傑作品だぞ!」
「ううう、食べたい......」
アイテムボックスからタレの入った容器を取り出して匂いを嗅がせてやる。
すると、今の今まで死んだサバのような目となっていたサクラの瞳が、一瞬で輝きを取り戻す。
「じゃ、サクッと遣る事を終わらせて、今夜は蒲焼にしようぜ!」
「そうね。早く終わらせちゃう~!」
「そうニャ~の!早く終わらせるニャ~よ!」
俺の掛け声に合わせて、サクラが片腕を宙に向けて掲げると、何故かニアまで一緒になって腕を上げていた。
よし、これで大丈夫だ。
「じゃ、先に進むぞ」
その掛け声で、全員が再び歩き始めたのだが、何故かその足取りが軽いような気がした。そう、黒猫のカオルまでもがリズミカルに歩いている。
口には出さなかったが、きっと、カオル達も喜んでいるのだろう。
一気に和やかな雰囲気を漂わせ始めた仲間達に安堵しつつ、本当に食物が全ての奴等だと、今更ながらに思い知らされるのだった。
意気揚々と陰気な地下に下る階段を降りると、再び大きな扉があった。
これに関しても、ナナミのお絵かきで事を済ませたのだが、それについては同じ事を続けただけので割愛する。
しかしながら、一言だけ言わせてくれ。
サクラの記憶力は鶏と同じレベルだという事が判明した。もしかしたら、今日の晩飯が蒲焼でなくても気付かないかもしれない。
ただ、そういう処もサクラの可愛らしさなのかも知れないと思ってしまうのは、俺のサディスト体質の成せる技かも知れない。
それはそうと、扉を開けて中を確かめると、そこは沢山の棺が置かれた広い部屋だった。
ただ、それ以外に関しては取り立てて変哲も無い部屋であることから、幾分か拍子抜けとなってしまった。
というのも、厳重な封印が施されていた事から、ゾンビなどがワラワラと現れる状況を想像していたのだ。
「何も出ないわね」
俺と同じことを考えていたのか、ミイが不思議そうに首を傾げている。
しかし、それを聞いたニアが、今更ながらに己の本心を明かしてきた。
「何も出ない方がいいニャ~よ。にゃ~はお化けが嫌いニャ~の」
どうやら、ニアはお化けが苦手なようだ。
というか、お化けが得意な者もそうそう居ないだろう。
そう考えながら、何時もと会話のパターンが違うことに違和感を覚え、左側に立つエルに視線を向けると、彼女は青い顔をして僅かながら揺れている。
「エル、もしかして怖いのか?」
「ななななな、な、何を言う。妾に怖いものなどないぞ!」
いや、思いっきり震えてるし......
まあいい。こいつのこういう処も可愛いらしいのだ。
そんな和やかなムードの中、突然、カオルが警笛を鳴らす。
『くるよ!』
その念話で、全員が戦闘態勢に入る。
その途端、一番奥にあった棺から、少し透けた人間が現れる。
「なにあれ?って、なによ!あんた達!」
ミイがその存在を認識した途端、驚きの声を上げたのだが、彼女は俺に視線を向けて更に驚く。
そう、その存在が現れたと思った途端、エルとニアが俺に抱き付いてガタガタと震えているのだ。
「怖いニャ~の。消えてニャ~の。居なくなってニャ~の」
「妾は怖くない。怖くないぞ。怖くないのだ。怖くないからくるな」
いつも元気なニアが悪霊退散と祈る反対側では、エルがガタガタと震えながら己を叱咤している。
「ちょっと~、あんた達~~~!ソウタから離れなさいよ!」
ミイはそんな二人に苦言を飛ばすが、ニアとエルはお互いが顔を合わせて頷いたかと思うと、急いで同じ行動に出た。
「合体ニャ~の」
「
「あ~~~~!」
それを見たミイが驚きの声を上げるが、既に二人とも額の宝石の中へと非難している。
「本当にズルいんだから!」
「まあまあ、あの様子じゃ戦えないと思うし......」
ミイはプンプンと怒りの声を上げるが、マルカがフォローを入れている。
「お前等、そんな事を言ってる場合か?」
そうなのだ。透明の人型だった存在は、移動速度は異様に遅いものの、俺達に近付くにつれて巨大化しているのだ。
「きゃ!大きくなった!」
俺の言葉で、巨大化した存在に視線を戻したミイが悲鳴を上げる。
そんな彼女の後ろでは、剣を片手にしたサクラが首を傾げて尋ねてくる。
「あれって、何なの?ライスとか?」
それは、レイスと言いたいんだよな? 言い間違えただけだよな? ちょっとボキャぶってみたくなっただけだよな?
それだと、死霊では無く、食料になるからな! 勿論、解ってるよな? ウケを狙ったと言ってくれ~! お願いだーーーー!
いや、もういい。勝手に俺の脳内で変換しよう。
その存在はサクラの言う通り、レイスと呼ぶに相応しい出で立ちになってきた。ただ、間違ってもライスでは無い。
敵の存在を疑問に思う俺達に、カオルがその存在について説明してくれる。
『死霊という意味ではレイスと呼んでもいいかもね。あと、物理攻撃は効かないと思うよ』
「物理攻撃は効かないんだとさ」
カオルの声をそのまま口にすると、サクラはテクテクと俺の傍まで遣って来ると、手を伸ばしてきた。
「物理攻撃が効かないんなら、私の出番はないと思うの。だから、フェードイン!」
だから、じゃね~~! こっちが言いたいわ。だからパクるなって!
パクリ常習犯のサクラが姿を消した途端、直ぐ近くまで迫って来ていたレイスが、何を考えたのか口を大きく広げると、耳を
「ブゴォーーーーーーーーー!」
すると、周囲の棺桶の蓋が開き、スケルトンやゾンビがノソノソと身体を起す。
「ぎゃ~~!あれは臭いの。ママ、合体なの!」
それを見た途端、今度はキララが悲鳴を上げて俺の背中をよじ登ったかと思うと、慌てた様子で額の宝石に触れる。
そうなると、当然ながらキララも宝石に吸収されてしまう。
という訳で、俺を除くと、ミイ、マルカ、ナナミの三人だけが戦力として取り残されてしまう。
というのも、ダルガン爺さんはハンカチを取り出し、口と鼻を抑えて後ろに下がっているし、カオルもそれに連れられるように、テクテクと歩み去っていく。
「ちっ、俺達だけで戦うしかなさそうだな」
「そうみたいね。ほ~~~~んとに!」
「まあ、魔法を使えるのは、この三人しか居ないから仕方ないか~」
「ワタシはマホウがツカえませんです~」
俺の声に、憤慨するミイ、諦め顔のマルカ、オロオロとするナナミが答えてくる。
そんな三人に向けて、俺の考えを付け加える。
「死霊と言えば、炎だな。若しくは聖属性魔法だ」
「火は得意じゃないんだけど......」
「あたしもそうだけど、聖属性なんて使えないし......」
「だからワタシはマホウがツカえませんです~」
先程と同じように、それぞれが意見を述べてくるが、そろそろ戦闘が始まりそうだ。
「じゃ、やるぞ!炎よ!」
まずは俺が景気づけに、目一杯の炎の魔法をぶちこむ!
「ブゴォーーーーーーーーー!」
すると、超特大の炎を浴びたレイスが叫び声を上げる。
その表情は苦痛に満ちているように見えるのだが、何故か儚げな表情にも見える。
そんなレイスの面前では、ワラワラと集まっていたスケルトンとゾンビが一瞬で炎に巻かれて塵となっていく。
いや、それよりも......
「お、お兄ぃ!な、何を考えてるの?遣り過ぎ!あっち!あっち!」
「きゃ!ソウタ!私を焼き殺すつもりなの?水の精霊よ!私を癒して」
「うきゃ!フクがモエるのです~」
そう、俺は合体して魔法を放つのは初めてだったのだ......
故に、加減が解らなくて、思いっきり炎を喰らわせたら、部屋が炎の海に変わってしまったという訳なのだ。
「ヤバイ。お前等は逃げろ!」
余りの熱さに、三人の仲間に向けて即座に撤収命令を伝える。
「ソウタは如何するの?」
「お兄ぃも一緒に逃げようよ」
「ワタシはサキにイかせてモラいますです~」
ナナミはさっさと居なくなったが、ミイとマルカが逡巡している。
そんな彼女達に、俺は大丈夫だと答えながら二人の尻を叩く。
「さあ、急げ!」
「分ったわ!でも、拙いと思ったら直ぐに逃げるのよ」
「お兄ぃ、早く戻って来てね」
「ああ、勿論だ!」
そうして、二人が退避したのを確認して、再びレイスと向かい合う。
だが、奴はかなりの手傷を負ったようで、元から鈍かった動きが更に極まったように見える。
そんな奴と戦うために、未だ炎に巻かれている自分に向けて回復魔法を掛ける。
「回復!」
そこで、ふと思い浮かぶ。そう、回復魔法でも倒せるのではないかと。
多少、ギャンブルにはなってしまうが、ダメならもう一回極大の炎を撃ち込めばいい。
そう考え至った俺は、レイスに右手を向ける。
「悪いが、成仏してくれ!マックス回復!」
奴に向けた手から見えない力が放出された瞬間、奴は体の端からキラキラと光る粒子に変わっていく。
どうやら、回復魔法で死霊を倒す思いつきは間違っていなかったようだ。
それを証明するかのように、レイスは速やかにその身体を霧散させていく。
だが、そこで何かの声が聞えたような気がした。
「か、かん、しゃする。わかものよ」
どうやら、空耳では無いようだった。
何故ならば、俺の猫耳は高性能だからだ。まず聞き間違えるなんてことは無いだろう。
そう考えると、レイスの言葉は感謝を伝えて来たもので間違いないと思う。
だが、それが何を意味するのかは、さっぱり解らない。
ただ、解る事はこれで五つ目の骨が手に入り、残すは二つの骨となったことだけだ。
俺は、再び己に回復魔法を掛けながら、カオルの言葉を思い起こす。
確か、ここはかなり厄介だった筈なのだが、思いのほか簡単に事が済んでしまった。
それは、恐らく海底神殿で授かった額の宝石のお蔭だろう。
そう考えると、このまま合体で力のある者を取り込めば、もっと強くなれる可能性もあるということか。
俺は消えゆく周囲の炎を眺めながら、いよいよ近付いてきたゴールの事を考え、己の力をどうやって引き上げるかを思い悩むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます