第55話 ミラルダ王城戦(下)
全く気分の優れない朝。
高級テントから外に出て、朝の清々しさで気持ちを入れ替えようとしたのだけど、見事に失敗した。
別に、外の空気が清々しくないという訳では無い。
東京に比べると、とても澄んでいて綺麗な空気だと感じるし、車や電車の騒音が聞えてくる訳でもない。
景色も緑が多くて心安らぐ光景だと思う。
強いて欠点を言うならば、コンビニが無くて朝ご飯をどうするかと悩むくらいかな。
そんな素晴らしい状況でも、私の心は物足らなさから沈み込んでいる。
何が足らないのかなんて、自分でも良く解らない。いえ、解っているのかも知れないけど、それを注視しする事を本能が拒んでいるのだ。
このミラルダ王国の王都に遣って来て一夜が明けた。
あの黒猫くんと別れたのは昨日の事だ。ああ、別れたと言って、恋人に振られたとかじゃないからね。
てか、結局、あの黒猫くんの名前も知らないままだ...... いえ、恐らく彼はソウタ。そう、私の討伐対象である魔王ソウタなのよね。
それを思い起こした処で、更に気分が沈んでくる。
「ダメダメ!気持ちを入れ替えましょう」
声に出して自分に言い聞かせ、視線を王都の街に向ける。
そうなんですよ。私は王都の中には居ないのです。
夕暮れと共に王都から出て、少し離れた処にテントを出して宿泊したの。
というのも、汚い部屋にお金を出して泊まる気になれなかったから。
だって、確かに金貨五十枚を得たけれど、節約しないと一瞬で無くなると思ったのよ。
こう見えても、料理は駄目だけど、お金の面はきちんとしてるのよね。
「さて、ご飯を食べに街へと繰り出すか」
そう、この時の私は、出来上がった料理をアイテムボックスに入れるという技を思い浮かべる事さえなかった。
精神面では色々と優れない状況だけど、やはりお腹だけは空くのよね。
我ながら、節操のないお腹だとは思うけど、食べないと死んじゃうのよ。
そういう意味でも、この世界が作り物では無いのだと思えてくる。
「何を食べようかな~」
それほど離れていない王都に向かって足を進めながら、朝ごはんのメニューを考えている。とは言っても、当然ながら自分で作る訳では無い。更に言うなら、東京みたいに何処にでも軽い食事の摂れるオープンカフェがある訳でもない。
「てか、この世界に来てから、朝からガッツリ食べてるのよね~。このままだと太るかしら」
オープンな...... 生地の少ない...... 殆ど水着同然...... そんな服装だけに、
結局、花より団子。いえ、色気より食い気といった結論となり、朝からガッツリと食べる事に決めたのだった。
街に入ると、昨日と変わらない光景が目に映る。
沢山の人達が行き交う街。様々な露店が並ぶ街路。子供や猫達が遊び回る風景。
そう、昨日と全く変わらない。
そこから導き出される答えは、黒猫くん達がまだ行動を起こしていないということ。
何故かそれに安堵しながら、街の中を進んでいく。
でも、宛も無く進んでいる訳では無いの。
この先に、ガッツリ料理を食べさせるお店があるのよ。
味の方がイマイチだけど、量と値段に関しては最高なのよね。
「ああ~黒猫くんの作った料理が食べたい......」
あっ、思わず想いが言葉になってしまった......
そう、何故か黒猫くんの料理が忘れられないのよね。
特別に料理が上手だと言う訳では無いと思うの。でも、きっと彼の作る日本人好みの料理は、この世界の何処に行っても、決して口にする事は出来ないでしょう。
そうこうしている内に食堂に辿り着いたわ。
さあ、朝ごはんを食べて、さっさと買い物を済ませて、迷宮都市に向けて出発よ。
こうして落ち込む気分を気力で補いながら、これからの行動に向けた準備を進めることにしたのだった。
朝食を済ませた私は、露店街に繰り出し、食品関係の買い物をはじめた。
露店街の光景は圧巻であり、様々な物があったけど、主に料理の必要のない食べ物を沢山購入して街を後にする。
他の荷物は全てアイテムボックスに仕舞ってあるので、手ぶらで旅に出る事が出来るのよ。これはとても便利なのだけど、何も持たずに歩き回るのは少しだけ不安を感じる。
それも、日本での習慣の所為だと思うけど、なかなか慣れ親しんだ感覚は抜けないものよね。
「よし、行き先は決めているし、さっさと出発しないと遅くなってしまうわ」
己に踏ん切りを付けるために、声に出して街道を歩き始める。
だが、遅々としてその足取りは進まない。いや、進んではいるのだ。ただ、その進行方向がコロコロと変わっているだけ......
その実状をいうと、暫く目的地に向かって進んだかと思うと、その道を再び戻っている。それを何度も繰り返している。
私のこの状況を知る者が居れば、きっと不審に感じると思う。だって、私自身が馬鹿だと思っているもの。
「ああ、もう夕暮れだわ。今日一日何をしていたのかしら......」
朝よりもどんよりとした気持ちになっている私は、己の意味不明な行動を罵るが如く地面を蹴る。
こんな行動を起こしている理由は解っている。
そう、気になるのだ。忘れられないのだ。心に刻まれてしまったのだ。
それは、黒猫くんの作る焼肉であったり、黒猫くんが作るステーキであったり、黒猫くんが作る野菜炒めであったり、黒猫くんが作る笑顔だったり......
どれだけ言い訳をしても仕方ない。だって自分を偽る事は出来ないのだから。
そうなの。流石に彼を愛してるとかそんな事は言えないけど、彼の居ない生活は成り立たないのよ。
だから、今直ぐにでも黒猫くんの処へ行きたい......
だけど、私と彼の関係は敵なのよ。
私は彼を倒さないと、日本へ帰る事ができない。
彼は、私を...... あれ? 彼から見た私の立場が解らない。
彼は私を殺す必要があるのかしら。もしそうなら、食事なんて与えずにさっさと殺してしまうのでは?
でも、彼はそうしなかった。それが優しさなのか、必要性の問題なのかは解らない。
「解らない事を悩むのは時間の無駄だわ。問題は私から見た彼の立場よ」
思わず声に出してしまうけど、これはもはや止めること出来ない習慣だから大目に見て欲しい。
それよりも、彼を倒さなければ日本に帰れない。
「私はあの日本に帰りたいの?帰ってまた社畜として働くの?」
私は会社の事を思い起こして身震いしてしまった。
仮に日本に帰ったとしても、あの会社に戻る事はないわ。
今なら、あの糞課長をこの大剣で叩き斬ることすら出来そう。
「じゃ、日本に戻れなくても平気?」
やはり、未練がある。
食べ物も、洋服も...... って、それだけ?
そう、社畜として働いていた私は、なんの楽しみも持っていなかったのだ。
あるのは、気苦労、疲労、過労、という全てが労だけだわ。
唯一の楽しみは、休日にゆっくり寝ること。
「帰る意味ないんじゃない?」
そうね。あんな疲れる処には帰りたくない。
そうじゃないわ。疲れてもいいのよ。癒されるものがあれば。
この世界でも様々なストレスを感じたけど、日本よりもマシな気がする。
それに、ここ数週の間は、彼の食事が癒しだった。彼の言葉が癒しになった。
そうよ。彼が居れば、私は日本に帰らなくても平気だわ。
「じゃ、あとは彼の都合を聞くだけね。それならさっさと行きましょう」
目的を見付けた私は、これまでと打って変わった強い足取りで王都へと足を進めるのだった。
真夜中の王城は、予想以上に慌ただしかった。
「ここで張っていて正解ね」
彼等は、私の予想を覆す事無く現れた。
それは、この王城の慌ただしさを見れば一目瞭然だわ。
私は即座に城門を走り抜け、城内へと突き進む。
その進行は、至って快適だったわ。
だって、誰一人として誰何してくる者が居ないのだもの。
ああ、人なら居たわ。床に転がって呻いているか、夢見ているであろう者達が。
そんな感じで順調に先へと進み、倒れている人を目安に目的地を割り出し、疾風となって突き進むと、そこはまるで地獄の様な場所だった。
だって、壁も、床も、人も、何もかもが高熱で焼かれ、融解しているのだから。
「な、な、なに、なによ。この惨状は」
まさに地獄絵図といえそうな状況に声を上げながら部屋に入ると、そこには倒れている三人の者と立っている三人の者が居た。
「サクラ!」
驚く様を露わにして私の名前を叫んだのは、立っている三人のうちの一人、そう黒猫くんだった。
それを見た途端、これまでの憂鬱な気分が吹き飛び、一気に心が解放されるような気がした。
「黒猫くん!」
彼の名前...... じゃないけど、彼の事を呼びながら駆け寄ると、困惑の表情で私を迎えてくれた。
「黒猫くんって......いや、それよりも、如何してここへ来たんだ」
我に返った黒猫くんが、私を問い詰めてくるけど、きっと彼は私の事が心配なのよね。
「聞きたい事があって......」
なかなか素直になれない私は、口籠ってしまう。
しかし、彼は問い詰める気はないようで、それ以上の事を尋ねてこなかった。
その代わり、慌てた様子で逃げろと言い始めた。
「拙い状況なの?」
彼の焦りを感じた私は、思わず尋ねてみたのだけど、これは如何見ても拙いわよね。
「あははは。あはははははは。きゃははははは」
黒猫くんの近くに立っている男は、狂ったように笑っているし、もう一人の女の人は仁王立ちしたまま、物凄い魔力を溜め込んでるみたい。
それは、魔力なんて良く解らない私ですら解る程の威圧感だった。
「黒猫くんも一緒に早く逃げようよ」
二人の異常者を見た私は、即座に逃げる事を決断するけど、一人で逃げたのではここに来た意味がない。
だから、黒猫くんの手を取って、慌てて逃げようとするけど、彼はピクリとも動かない。
「駄目だ。もう直ぐあの女が魔法を放つだろう。そうしたらこの辺り一帯が消し飛ぶ筈だ。そうなると今逃げている俺の仲間にも影響が出る。恐らく唯では済まないだろうな」
どうやら、仲間を逃がすために戦うつもりのようだわ。
だったら、さっさと倒してしまいましょう。
「私も手伝うわ。サクッと倒しましょう」
その言葉に悩んでいた黒猫くんだったけど、直ぐに判断したようだった。その真剣な表情は結論を出したことを物語っている。
「ちっ、こうなったら仕方ないな。サクラはあの魔法使いを何とか黙らせてくれ。殺しても構わん」
彼は舌打ちをしたものの、直ぐにニヤリとした顔で私にそう告げてきた。
この不敵で悪役ぽい処が、ちょっとだけカッコイイのよね。
心中でそんな事を思い浮かべながら、力強く頷いたのだけど、もしかしたら顔が赤らんでたかも......
この時は、この人達が誰だか知らなかったけど、この世界で勇者と呼ばれる人達との戦いが、これから始まろうとしていたのでした。
というか、これじゃ、私は魔王の虜なのかしら?
サクラが現れた事には驚いたし、その対応に困ったのも事実だ。
だが、この状況からすると、これは天の恵み...... いや、地獄からの恵みかも知れない。
というのも、目の前の勇者も狂っちまったからな。
あの笑い声には、一瞬ヒヤリとさせられたが、どうやら降臨ではないようでホッとした。
そんな俺は、サクラに女魔法使いの阻止を頼み、己はこの壊れた勇者を片付ける事にした。
まあ、サクラを巻き込むのは悪いと思ったけど、今更逃げても間に合いそうもないからな。
「じゃ、行くぞ。アフォ勇者。マックスヒート!」
そう言うと、目の前で不気味な笑い声を上げている勇者に向かって金属バットを叩き付ける。
しかし、奴は消えたかと思う程の速度で俺の横に回り込み、右手の大剣を振り下ろしてくる。
「加速!」
瞬時に装備能力を発動させ、その攻撃を避けようとするが、その大剣の軌道が一瞬にして変わる。
軌道の変わり様といい、変化する太刀筋といい、まさに、奴の攻撃は変幻自在の太刀だと言えるだろう。
その攻撃を必死になって金属バットで叩き落しながら距離を取る。
しかし、視線の先に居る奴の姿が消える。
そんな奴を捉える為に、全神経を尖らせて周囲の気配を探るが、奴の気配は何処にも無い。
そう、奴は俺では無く、女魔法使いに向かったサクラへと襲い掛かろうとしていたのだ。
「サクラ!」
肝が冷える想いでサクラの名を呼び、直ぐに奴を追い掛ける。
だが、そこに二人の邪魔者が現れる。
「悪いが、アベルトとメルラは遣らせない」
「そうよ。二人は私達が何とかするわ」
前に立ったのは、斧戦士と盗賊娘だった。
それを見た俺の堪忍袋の緒は完全にキレそうだった。
「だったら、勝手に心中でもなんでしろ!俺達を巻き込むな。今直ぐ何とかしろよ。さあ、早く何とかしてみろよ。お前等が思っているような甘い状況じゃないんだよ!」
既に、怒りの限界が近くなったてきた俺は、容赦なく罵りの声を張り上げる。
その言葉を聞いた斧戦士が怯む。更に、その横に立つ盗賊娘が言葉を漏らす。
「そんなにヤバいの?」
「ヤバイなんてもんじゃねぇ。この城下が吹き飛ぶぞ。勿論お前等もな」
未だに仲間を助けるつもりでいる甘ちゃんな奴等に、俺は現実を知らしめてやる。
すると、斧戦士が問い掛けてくる。
「何とかならないのか?」
だが、その無責任な言葉で、更にキレそうになる。
「何とかならないのか?なんで他人事なんだよ。何とかするのは奴等の仲間であるお前等だろ」
もう、限界だとばかり斧戦士と盗賊娘を無視して、先に進もうとした時だった。
女性の悲鳴が聞こえてくる。
「きゃーーー!」
その悲鳴を聞いた俺はサクラの事だと考え、即座に視線を向けたのだが、倒れているのは修道女だった。
「「シルル!」」
どうやら、サクラを襲おうとした勇者の邪魔をしたらしい。いや、話せば解ると思ったんだろうな。それはとても甘く切ない話だと言えるだろう。
恐らく、今の勇者には言葉なんて何の意味も持たないだろうからな。
だが、今度こそ奴はサクラに襲い掛かる。
サクラも必死で抵抗しているが、どうやら勇者の方が強いようだ。それも桁外れに......
「きゃっ!」
あっという間に、サクラは大剣の餌食となり吹き飛ばされてしまった。
あのニアと互角に遣り合ったサクラがあの始末だと、こりゃ真剣に拙そうだ。
即座にスキルと装備能力で加速し、サクラが吹き飛ばされた場所まで移動する。
「回復!大丈夫か?」
回復魔法を掛けながら、サクラに問い掛けるが、全く大丈夫そうでは無いのが見て取れた。
両腕ともあらぬ方向へと曲がっているし、左足は千切れていないのが不思議な程の傷だ。オマケに意識も失っている。
「回復!回復!」
その有様を目の当たりにして、焦った俺が回復魔法を連続で使用すると、速やかに傷が修復されていく。
その痛みは半端ないものだろう。だが、そのお蔭で意識を取り戻したサクラが喚き散らす。
「痛い!痛い!痛いわ!何よコレ。あいつは異常だわ。強過ぎるもの。って、いたたたた。如何して私がこんな目に......」
涙をポロポロと溢しながら、苦痛に呻くサクラが愚痴を溢している。
俺としては、彼女の気持ちが痛いほど解る。
見知らぬ世界に連れて来られて、理不尽にも辛い想いや痛い想いをさせられて、愚痴を溢さない方がおかしい。
「悪かったなサクラ。俺が逃がしちまったばっかりに」
サクラの傍で膝を付くと、彼女の頭を優しく抱いてやる。
そう、俺もサクラの様な事が散々あったのだ。だから、どうしても他人事だとは思えなかった。
「もう大丈夫だ。お前は戦わなくていい。俺が全てを片付けて来るから」
すると、サクラが恥ずかしそうに謝ってくる。
「ごめんなさい。愚痴を溢してしまったわ」
そんな彼女の頭を優しく撫でながら、俺は首を横に振る。
「いや、行き成り知らない世界に連れて来られて、こんな痛い目に遭って、愚痴を溢さない方が嘘だ。俺なんてどれだけ泣き喚いたことか。だからもういいんだ。俺に任せろ。全てをぶっ壊して遣る。あの糞神も、この世界の理不尽も、俺が粉々に砕いてやる」
そう言うと、彼女は俺を見上げていた。そして、ポツリと呟く。
「黒猫くんは、やはり日本から連れて来られたのね」
それに頷きだけで返すと、俺は背中でスヤスヤと眠るキララを降ろして抱きかかえ、彼女の睡眠を妨げる。
「キララ、悪いが起きてくれ」
そう言うと、これまで起きなかったのが嘘のように、彼女は目を覚ます。
「どうしたのママ」
彼女は眠そうに目を擦りながら、俺を見上げて問い掛けてくる。
「非常事態だ。悪いが、例の同化を頼む」
自分の力でねじ伏せられない事は悔しいが、今はそんな事に拘っている場合では無い。
故に、俺は恥ずかしくもキララの力を借りる事にした。
しかし、彼女は文句を言う事も無く、快く了解してくれる。本当に最高の娘だ。
「じゃ、いくよ。ママ」
そう言うと、キララは俺の首筋に鋭い歯を立てる。
それを見たサクラが驚いているが、俺は痛みを堪えてニヤリと笑う。
次の瞬間、俺の姿が歪ながらも厳つい鎧に覆われ、それを見ていたサクラが感嘆の声を漏らす。
「厨二ぽいけど、強そうだし、カッコイイかも......」
呆然と見上げるサクラに、キララの身体を渡して口を開く。
「悪いが、少し安全な処に居てくれ。あと、キララの身体を頼む」
その言葉に、サクラは黙って頷く。
そんなタイミングで、再び悲鳴が響き渡る。
どうやら、説得は上手くいっていないようだ。
それも当然だろう。その事も伝えたつもりだ。
「じゃ、片付けてくる」
「いってらっしゃい」
俺の台詞に、サクラがまるで会社へと夫を送り出す妻のように応えてくる。
その事にニヤリと笑いながら、俺は一陣の風となる。
次の瞬間には、気の狂った勇者を殴り飛ばし、臨界点寸前の女魔法使いを蹴り飛ばす。
その様子に、俺の猫耳がサクラの言葉を拾う。
「強過ぎるわ。それに超絶かっこいい」
そんなサクラの言葉に照れる気持ちもあるけど、今は全てのモノをぶち壊したいという衝動が溢れている。
恐らくは、キララの潜在意識に眠る憎悪なのだろう。何となくそんな感じがする。
自分の気持ちに付いて考えていると、殴り飛ばした筈の壊れた勇者が目の前に現れる。
眼前に移動して来た奴は躊躇なく右手の大剣を叩きつけてくるが、俺は即座に邪竜剣で叩き落す。
その攻撃で体勢を崩した奴に向けて、更に蹴りを叩き込む。
すると、脳内でキララが己の考えを伝えてくる。
「ママ、あの剣に力が注がれてるよ」
そう言えば、カオルも同じような事を言っていたな。よし、解ったぜ。
「サンキュ、キララ」
キララに礼を言いつつ、俺は瞬時に移動して壊れた勇者の前に立つと、最強スキルを発動させる。
「これでも喰らいな!超斬撃!」
俺の後方では、勇者の仲間達が倒れた身体を起しながら、絶体絶命の勇者の姿に悲鳴を上げている。しかし、俺は構わず邪竜剣を振り下ろす。
その一撃は狙いを違わず、相手を元の形が解らないくらいに粉砕する。
そう、俺が狙ったのは、奴等が聖剣と呼ぶ忌まわしき大剣だ。
すると、狂った笑い声を上げていた勇者が意識を失う。
それを確認して、瞬時に女魔法使いの処へと移動すると、彼女が持つ杖を同じように砕く。それで彼女は意識を失い、その場に倒れる事となり、これまでに溜まった魔力も霧散していく。
「メルラ!」
慌てて遣って来た盗賊娘が、倒れた女魔法使いを抱き起す。
「シルル、癒しの魔法を」
「ごめんなさい。もう魔力が無くて......」
盗賊娘の言葉に、申し訳なさそうな表情で答える修道女。
「回復!」
「えっ!?」
仕方なしに、俺が女魔法使いに回復魔法を掛けると、盗賊娘が驚愕の表情でこちらを凝視する。
だから、一言だけ伝える。
「怪我は治るが、正気を取り戻すかは解らんぞ」
すると、盗賊娘が驚愕の表情を残したまま、ぎこちない動きで頷いてくる。
「ありがとう」
その素直さに免じて、俺は更に助言をする事にした。
「神器なんて早く捨てた方がいいぞ。お前達も奴等の様になりたくなければな」
「それは如何いう事ですか?」
俺の忠告に、シルルと呼ばれていた修道女が喰い付いてくる。
う~ん、こいつが一番厄介そうだな。聖職者というのが最悪だ。
そんな事を考えながら、適当に答える事にする。
「その武器は神が力を注ぐらしいな。じゃあ、過剰な力を注がれたら弱い人間はどうなるんだろうな。あとは自分達で考えろ。その力を注いだ神の事もな」
修道女はその言葉を聞いた途端に身体をブルブルと震わせていた。
「あなたは悪魔です。神を陥れれるために、そんな戯言を......」
「ふんっ、如何思うが、それはお前等の勝手にするがいいさ」
怒りに震える修道女に捨て台詞を吐いて、俺はサクラの下へと戻る。
すると、彼女は駆け足で近寄って来ると、キララを片手に抱き付いてくる。だから、俺は慌てて鎧を解除する。
そうしないと、突起の多い鎧だから思わぬ怪我をしそうだ。てか、それを考えて抱き付くのを止めろよ。
「ソウタ、とてもカッコ良かったよ」
サクラは嬉しそうに話し掛けてくるが、なんで俺の名前を知ってるんだ?
いや、今はここを脱出する方が先だな。
「じゃ、サクラ、さっさととんずらするぞ」
「分ったわ。じゃ~、あばよ~とっつぁ~ん!」
「おい!何でル○ンなんだ?」
「あは、一度、遣ってみたかったのよ」
実は、サクラがボケキャラじゃないかという疑いを持ちつつ、俺は王城から颯爽と逃げ出すのだった。
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