第54話 ミラルダ王城戦(中)
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いつも読んで頂いて有難う御座いますm(_ _)m
すみません。前編・後編で収まりませんでしたので、上・中・下の三篇に変更させて頂きました。
更に、今回は少し長くなってしまいました。大変申し訳ありませんm(_ _)m
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世の中が理不尽だって?
なんで、今更そんな事を悩むのか気が知れない。
それを何時までもグチグチと悩んでいるアベルトの頭の中を、一度開けて見たくなってしまった。
だって、そんな事は考えずとも見れば分かるじゃない。
そう、この世界は力こそ全てなの。理不尽なのは当たり前なの。
何故、そんな事が理解できないのかな?
本当に甘ちゃんだわ。
そうよ。この世界は力が全て、捨て子だったウチは嫌というほど知っている。
力、力、力、どんな力でも良い。何らかの力を持って勝者になる必要があるのよ。
何故なら、この世界では勝者こそが正義。いえ、正義でなくても問題ない。勝者のみが好きな事を言って、好きな事をして、好きな物を食べ、弱き人間を踏み躙る事が許される。
そこに正義や悪なんて判断は無い。在るのは枯れることの無い欲だわ。
だから、ウチは強くなるって決めた。
あの時、そう、誰かも知らない男から犯されそうになった時、息絶えたその男の屍へ狂ったように炎の魔法をぶち込み続けた時に決めたのよ。
ウチは誰からも踏み躙られる事の無い存在になるのだと。
ウチはその後、一人で山に篭った。
そう、誰も居ない山で魔法の鍛錬を積むために。
偶然にも男に襲われる事で発現した力。
そういう意味で言うと、あの焼け死んだ男には感謝している。
その力がどうして自分に発現したのかは解らない。でも、そんな事は如何でも良かった。
大切なのは、如何してでは無く、どうやって使うかだから。
故に、一人で山に篭って死ぬ思いをしながら魔法の鍛錬を積んだ。
正直言って、自分の年齢を知らないのだけど、恐らく、七、八歳だったと思う。そんな少女が一人で山暮らしをするなんて、想像以上に辛いものだった。いえ、苦汁の日々だと言えると思う。
それでも、誰かに抑えられるのは我慢ならなかった。誰かに組み敷かれるのは我慢ならなかった。誰かに踏み躙られるなんて以ての外だ。
その思いを胸に、必死になって魔法を身に付けた。
そんな努力の甲斐あって、女らしい身体つきとなった頃には、誰にも負けない程の力を得ることが出来た。
そうして、山を下りたのだけど、早速とばかりに男が群がってきた。
それを毎回漏れなく焼いていると、何時しか荒れ狂う魔法使いと呼ばれるようになり、誰もが恐れをなして近付いて来なくなった。
それはそれは、最高に気持ちの良い状況だったわ。
誰もがウチに頭を下げ、媚びを売り、下手に出てきた。
食べ物も、お金も、洋服も、アイテムも、何でも思いのままになった。
だが、好き放題に遣ってたら、勇者が来やがった...... アベルト、お前だよ!
戦ってみたけど、ウチの敵う相手じゃなかった。いや、あの時は勝てたかも知れない。
でも、一目惚れしちゃったから、本気で戦えなくなったんだよ~~~~!
それなのに、こと在る事にシルル、シルル、シルル...... バカアベルト!死んじゃえ!
ごほん! 失礼、失礼。
アベルトのバカの事はいいの。
それよりも問題なのは、ここ最近の負け癖なのよ。
次代の魔王を追い掛けている途中に出会った猫娘にも逃げられた。
シルルこと修道女のシルエールは、悪魔の使いだなんて言ってたけど、誰がそれを信用するのよ。って、アベルトのバカは信用しているけど......
いよいよ神の神託。いえ、神自体が信用できなくなってきた。
抑々、こんな不条理な世の中を放置している時点で、神の存在なんて糞だと思える。
でも、正直言って神なんて如何でもいいのよ。
ウチは自分が強くなって、踏み躙られるような存在ではなく、踏み躙る側に成りたいだけ。
それなのに...... 魔王候補を追っているうちに遭遇したあの変態。
なにあれ、異常だわ。
これまで、負けた事はある。でも、魔法で負けたことなんて一度も無かった。
だけど、あの変態は剣でアベルトやデュークを負かし、魔法でウチの上を行く。
在り得ない。あの存在だけは許せない。あんな変態に負けるなんて許せない。
絶対に仕留めてやる。
そう思っていた矢先に再戦のチャンスが訪れた。
何を考えてあんな覆面を被っていたのかは知らないけど、あんな変装なんて子供すら騙せないっての。
それはいい。それはいいのだけど、再戦で簡単に遣られてしまった。
ウチは雨あられの様に魔法を撃ち放った。だけど、あの猫娘には全く当たらない。
気が付くとぶっ飛ばされていたし、シルルのシールド魔法が無かったら、今頃は唯の屍になっている筈なのよね。
悔しい。ウチのこれまでが全て否定されたようで悔しい。
だから、何とかして奴等を倒したい。
でも、どうやったら、あんな異常な奴等を倒せるのだろうか。
さっきは如何でも良いなんて言ったけど、もし、神が居るのならウチに力を与えて欲しい。どんな相手でも倒せる力が欲しい。お願いだから力を頂戴。
『力が欲しいか』
えっ!? 今、どこからか、声が聞えた。
アベルトやデュークの後を追いながら周囲に視線を巡らせるけど、声を掛ける者など誰も居ない。居るのは、床を這う傷ついた衛兵だけ。
『力を欲するか』
あっ、また聞えた。
再び周囲を確認する。しかし、その声は直接的に頭へと響いてきたような気がする。
『力を求めるか』
これがシルルやアベルトの言う神の声なのかな?
『さあ、どうする』
そんな事は愚問よ。さあ、力を寄こしなさい。
そんな声にならない思いが伝わったのか、神器たる杖を通して力が注がれてくるような来した。いえ、これは間違いなく力が注がれている。
ああ、なんて力なの。これがウチの力になるの? やれる。やれるわ。今度こそあの変態共を始末して遣る。
「居たぞ!奴等だ!」
アベルトの声が聞こえてくる。その知らせを聞いたウチが前方を確かめると、確かに変態共が居る。
ならば、喰らわすしかない。
さあ喰らえ。ウチの全力を喰らえ!
「ファイアボルト!」
何も無い空間から巨大な炎が生まれ奴等に向かって行く。
消し炭になるがいいわ。さあ、焼け焦げなさいよ!
ウチの前に、物言わぬ黒焦げとなった姿を晒すのよ。
そんなウチの願いを跳ね飛ばすように、奴等はさっきと同様に結界で巨大な炎の魔法を弾き飛ばす。
なぜ? 何故ウチの魔法が通用しないの? 力が足らないから? だったら、もっと力を頂戴。何もかもを焼き尽くす力を寄こせ! さあ、ウチに力を......
力を求めるウチの意識は、そこでぷっつりと途絶えるのだった。
四階に上がると、その後の行動は早かった。
というのも、四階にはこれまでの様に沢山の衛兵が居た訳では無く、衛兵よりもやや強い騎士達が守っていただけだったからだ。
そう、俺達に取って、衛兵に毛が生えた程度の実力者なんて、数の多い衛兵にも劣る存在だと言える。
故に、あっという間に殲滅し、大変申し訳ないが神頼みの王様には、サクッとお亡くなりになって頂いた。
「よし、片付いた。撤収するぞ」
用は済んだし、さっさと撤収するに限る。
「ん~、無理みたい」
俺の撤収命令に逆らう訳ではないが、否定的な声を上げたのはマルカだ。
その表情は、もうウンザリだと語っている。
そんな彼女の視線を追う事も無く、ニアの台詞でその原因を知る事になる。
「また、あいつ等ニャ~よ。ダンニャ様、如何するニャ~の」
うむ。正直言って相手をしたくない。というのも、ここで面が割れるのは、後になって些か面倒になる可能性があるからだ。
ところが......
「それは愚問だぞ。今度こそケリをつけてやる」
第二夫人のエルローシャさんが、やる気満々なんですよね~。
てか、なに勝手に返事してんだよ。
なんて、余裕を噛ましている訳にはいかないようだ。
「結界!」
くそっ、またデカイ花火をぶち込んできやがった。
てか、さっきより火力が上がってるじゃないか。
お蔭で、物言わぬ屍となった王様が焼け焦げだぞ。
結界の外が燃え盛っているのを眺めながら、そんな感想を抱いていると、ミイが訝し気な表情で話し掛けてくる。
「ねえ、あの魔法使いの女、なんかおかしくない?」
ミイの言葉で、洗脳勇者の連れている女魔法使いを注視すると、どうも目の焦点があっていない様に思う。
元々、頭のおかしい女だったが、それ以上に人間として異常な雰囲気を感じる。
てか、こっちを向いているが、どこを見ているのやら。と、いった状態だ。
いや、何故か嫌な予感がする。まさかと思うが......
俺の懸念を悟ったのか、すぐさまカオルが念話を飛ばしてくる。
『あれは降臨ではなさそうだけど、もしかして、過剰供給かな?』
しかし、カオルの言わんとする事が理解できない。
思わず首を傾げたのだが、それは俺だけでは無かった。
『如何いう事だ?』
『過剰供給ってなに?』
やはり首を傾げているエルとミイが即座に尋ねている。
だが、何故か、問われたカオルも首を傾げている。
『あれ?この前言わなかったっけ?神器を持った人間に神が力を供給するって』
ああ、そういえば、ダンジョン内で洗脳勇者と戦った時に言ってたな。
あの、注ぎすぎるとアボンとなる奴だろ?
『じゃ、あれがアボン状態か?』
「お兄ぃ、それよりも、今のうちに逃げた方がいいじゃない?」
確かにそうだった。マルカの言う通りだ。
直ぐに、ミイにお願いして飛行の精霊魔法をかけて貰おうと思ったのだが、さっきの倍に相当する炎が飛んでくる。
「やべ~!結界!」
即座に結界を張るのだが、この勢いだと洗脳勇者にも被害が出るかも知れないな。
それ程に異常だと言える威力と規模の魔法だった。
すると、俺の予想した通り、洗脳勇者達が慌てて魔法使いの女に近寄ろうとする。
「メルラ、如何したんだ!」
「メル?メル?」
「如何したのメルラ。解呪!」
「おい!メルラ、気でも狂ったのか」
修道女の女が一生懸命に解呪の魔法を掛けているが、斧の男が言う通り、彼女は気が狂ってるのだ。故に、どれだけ頑張っても効果がある筈がない。
そう、その魔法使いの女は壊れたのだ。いや、糞神の手によって壊されたのだ。
「ソウタ、結界が!」
ミイの声を聞き、瞬時に視線を上げると、結界に綻びが生じ始めた。
「ちっ、拙いな。魔法の威力がドンドン上がってるぞ」
舌打ちしながら愚痴を溢すと、即座にニアが抱き付いてきた。
「にゃ~達は永遠に一緒ニャ~よ。死んでも離れないニャ~の」
「おい!縁起でもない事を言うな」
半泣きの状態で泣き付いてくるニアを引っぺがしながら叱責する。しかし、何故かエルとミイも抱き付いてくる。
「こら!戦闘中だぞ!」
「だって、ニアばかりズルいぞ」
「そうよ。私達だって抱き着く権利があるわ」
この二人の女は、唯のヤキモチで抱き着いただけだった......
そんな、三人の嫁達にマルカが呆れた顔でツッコミを入れてくる。
「あの~、唯でさえ熱いのに、少しは空気を読んで欲しいんだけど」
その声に、エルとミイが高圧的な態度で反発するが、カオルからの制止が入る。
『あのさ。如何して君達には緊張感というものが無いのかな~。時と場所を選んでよ。今はそんな事を遣ってる場合じゃないよね?はい。分かったらさっさと片付けるんだよ』
どうやら、カオルは逃げるのでは無く、片付ける方を選択したようだ。
「しゃ~ね~、ニア、俺が水の魔法をで鎮火させるから、ぶん殴って来い」
「了解ニャ~よ」
俺の指示に、ニアは尻尾をクネクネと動かしながら和やかに返事をしてきた。
何故か、最終的に俺の尻尾と絡んでいるのが気になる。
「おい!妾達はどうするのだ。ニアばかりズルいぞ」
ニアに指示した事で、血相を変えたエルが詰め寄ってくる。
そんな彼女に、如何してそれ程までに戦いたいのか聞いてみたかったが、またの機会にすることにした。
『周りの奴等が抵抗したら、抑えてくれ。ニアに頼んだのは、彼女が一番足が速いからだ。心配せずともお前の事を忘れた訳じゃないからな』
はい。これでエルは乙女な感じに収束する筈だ。
『そうか~』
ほら、モジモジとしながら顔を赤らめてる。
『うっほん!』
すると、カオルから嫌味な咳払いが聞えてくるが、猫が咳払いなんてしたっけ?
まあいい。それよりも、そろそろ結界がぶち破られそうだ。
「じゃ、行くぞ!水よ!」
仲間の様子を確認して、俺は即座に精一杯の水魔法を炸裂させる。
すると、一気に水蒸気が上がり、あわや水蒸気爆発が起きるかと心配したが、何とか爆発する事無く収まったようだ。
「ニア!」
「はいニャ~の」
ニアの名前を呼びつつシールド魔法を掛けると、彼女は水蒸気に隠れるようにして走り出す。いや、飛び出すと言った方が的確な勢いだ。
「俺達も行くぞ!油断するなよ」
そう言うと、全員が頷き、俺に付いて走り出す。
それをチラ見で確認しながら、仲間にシールド魔法を掛けて行く。
当然、キララにもシールドを掛けるが、彼女は未だに熟睡中だ。
その顔も天使のようで、まさに俺の至宝だと言えるだろう。いや、この状況で起きない大らかさを褒め称えるべきかもしれない。
俺達は数秒も経たぬうちに洗脳勇者の前へと躍り出るよう状況となったが、彼等は未だに女魔法使いを取り囲んで何とかしようとしていた。
だが、俺達が目前まで迫った次の瞬間、女魔法使いから衝撃波が放たれる。
その攻撃で、洗脳勇者達だけでは無く、俺達も吹き飛ぶことになるが、致命傷を受けるような事は無かった。
しかし、そんな俺達に向けて、更なる攻撃が放たれる。
「鎌鼬だ!避けろ!」
いや、避けろと言ってみたが、無理かもしれない......
だって、その数が半端ないのだ。
「ちっ」
俺は舌打ちをしながら、先行させていたニアを見たが、俺達よりも衝撃波を強く受けたようで、ようやく起き上がった処だったようだ。
そんな処に、鎌鼬の嵐が遣って来たのだ。流石のニアも堪ったものではないだろう。
そう感じた俺は、即座に周囲の仲間へ回復魔法を掛け終わると、急いでニアの下に駆ける。
「ニア、大丈夫か?回復!」
「ダンニャ様~、ありがとうニャ~の」
ニアは嬉しそうな顔で擦り寄って来ようとするが、どうやら女魔法使いは俺とニアを標的としたらしい。
瞬時に次の魔法が繰り出される。それは雷の魔法だった。
「結界!」
即座に結界を張り、体勢を整えてこちらも攻撃に掛かろうとした処に、今度は氷の槍が降り注ぐ。
その数は、もはや無数としか言いようが無い。それ程の数が一斉に襲って来るのだ。
『エル、ミイ、援護を頼む。マルカはミイの護衛を』
女魔法使いは俺達に向いているのだ。だったら、俺達が奴を引き付けている間に、エル達で攻撃して貰うのが得策だ。
しかし、ここで厄介な奴が動き始める。
「止めろ!」
そんな声を放ったのは洗脳勇者だ。
奴は、そう怒鳴ると、すぐさまエルの進路上に立ち塞がる。
こうなると、流石に俺達も不利な状況に陥ってくる。
その証拠に、洗脳勇者と戦っているエルは、全く歯が立たない様子だ。
ミイが弓で援護しているお蔭で何とかなっているが、今にも遣られそうな程に劣勢だ。
くそっ、どうする。
エルの周囲に視線を向けると、斧戦士と盗賊もエルに向かって突き進んでいる。
そこで、俺は即座に判断を下す。
「ニア、エルを援護してやってくれ」
「ダンニャ様はどうするニャ~の?」
「俺はあの女魔法使いを何とかする」
「了解ニャ~よ。でも、死んだら駄目ニャ~の」
「解ってるさ。こんな所でくたばったりしね~よ。じゃ、頼んだぞ。シールド!」
ニアに新たなシールドを掛けて遣り、急ぐように促した処で、自分のスキルを発動させて一気に女魔法使いへと突っ込む。
「糞神の使いは許さね~~~~!」
俺は洗脳勇者の気を引くために、態と大きな声で叫びながら突き進む。
すると、洗脳勇者は俺の思惑通りに、エルを放置して俺へと向かって来る。
よし、これでいい。後はニアが何とかしてくれるだろう。
こちらに向かって来る洗脳勇者の知恵の低さに感謝しながら、俺は女魔法使いの攻撃を避けながら前進する。
「ちっ、左腕に喰らっちまった。キララに当たったら、唯じゃ済まさね~ぞ!回復!」
悪態を突きながらも回復魔法で腕を癒し、奴の繰り出す氷や風の魔法を躱しながら近寄ると、横から勇者が切り掛かって来る。
「やらせん!」
いや、こいつはバカだろ。やらせん! では無いく、何とかしないとこの城が無くなるぞ?
その事に怒りを感じた俺は、ついつい口を開いてしまった。
「おいバカ勇者。お前の仲間が何を遣っているのか理解してるのか?やらせん!って、この城の人間を皆殺しにしてでも、あの女魔法使いを救うと言っているのか?だったら、勇者なんて止めちまえ。この偽善者め!」
流石に、その言葉は堪えたのだろう。奴の攻撃が止まる。
仮に、逆の立場だったとしても、俺なら平気だけどな。
だって、この城の奴等よりも仲間の方が大切だからだ。それ故に、絶対に勇者なんてやんね~し、それを遣ってるこいつを見ると虫唾が走る。
奴の動きが止まった処で、前進を再開したのだが、女魔法使いは洗脳勇者が居るにも構わず攻撃してくる。
「ぐあっ」
その所為で、洗脳勇者にも魔法攻撃が当たり、呻き声を上げているが、奴の鎧は傷一つ付いている様子がない。
まあ、奴が仲間の魔法で死のうと俺には関係ないのだが、些か頭に血が上ってくる。
当然ながら、この状況を楽しく観賞している糞神達に対してだ。
だから、俺は当初の考えを捨て、別の行動をとる事にした。
『おい。無視して逃げるぞ!俺達が穴を拭いてやる必要は無い』
すると、全員から合意の念話が飛んでくる。
『俺が引き付けている間に、みんな逃げろ!合流はあの丘の上だ』
それだけ伝えると、再び女魔法使いの気を引くために、声を高らかに上げる。
「おい。そんな糞みたいな魔法が当たるか!」
その言葉が奴に理解できるかどうか解らないが、奴の気を引く事には成功しているようだ。
だが、ウチの連中を逃がすためには、斧戦士と盗賊娘も引き付ける必要がある。
そこで、俺は容赦なく魔法をぶっ放す。
「炎よ!」
左手を突き出しながら、斧戦士と盗賊に炎の魔法を撃ち放つと、奴等はそれに気付いて慌てて避ける。
当たる事は無いし、ダメージも与えられなかったが、今はそれでいいのだ。
飽く迄も、ウチの連中を逃がすために遣っているのだから。
「水よ!」
更に、目暗まし代わりに水の魔法をぶちまける。
これで、ウチの連中は問題なく逃げることが出来るだろう。
なんとかウチの連中の逃走を上手く援護できたことに安堵していると、自分の仲間を襲われた洗脳勇者が慌てて切り掛かって来る。
「止めろ!」
いやいや、悪いけど止めないぞ?
勇者の攻撃を躱しながら更なる魔法を放とうとするが、次の瞬間、俺を含めた周囲一帯が爆発する。
「ぐはっ、爆裂魔法かよ。回復!」
確か、スキルには無かったぞ? どうやって取得したんだ?
女魔法使いの攻撃に疑念を感じながらも、即座に回復魔法を掛けてその場から逃げ出すのだが......
あ~あ、斧戦士と盗賊娘まで吹き飛んでら。いや、修道女も倒れているな。
流石に、ここまで来ると哀れとしか言いようがない。
やはり、奴等は最低だな。糞神という呼び名でも生温いかもしれない。
「シルル!デューク!リリアン!」
洗脳勇者が絶望的な声で叫んでいる。しかし、俺からすると自業自得なんだけどな。
泣き叫ぶような洗脳勇者を横目で見つつ、俺は即座にこの部屋から逃げ出そうとしたのだが、どうやら、そうは問屋が卸してくれないようだ。
女魔法使いの魔力が更に上昇してるぜ。
魔力を検知する能力に長けている訳でもない俺が解る程だぞ。
こりゃ、城が吹っ飛ぶかもしれんな。いや、それは些か問題がある。
恐らく、ウチの連中はまだ城の中だろうからな。ちっ、殺るしかないか。
何故か、少し心が痛む。多分、糞神に良いように操られている奴を始末するのが、哀れに思えたのかもしれない。
だが、俺に取って大切なのは、仲間...... いや、家族だ。あいつ等を誰一人失う訳にはいかないのだ。だって、何よりも大切な家族だからな。
「ほんじゃ、行くか!シールド」
未だスヤスヤと眠るキララにシールドを掛け直し、女魔法使いへと前進するのだが、再び勇者が立ちはだかる。
「駄目だ。これ以上は遣らせない」
「バカか?これを遣ったのは全部お前の仲間であるあの女だぞ?俺達がお前の仲間をあそこに転がしたのか?いい加減に目を覚ませよ。お前等は糞神に弄ばれてるだけだ。あの女魔法使いの異常も糞神の所為だ。それくらい解れよ」
その言葉に、一瞬、ハッとする勇者だが、恐らく理解する程に冷静さを保っていなかったのだろう。奴の怒りだけが俺に向いている。
「うるさい!何もかもお前達が現れたのが原因なんだ!」
「今度は責任転換か?哀れだと思っていたが、そんな考えなら、お前もここで始末するしかないな。大体、転がっている仲間は助けないのか?女魔法使いが助かればいいのか?このままだと、全員が死ぬぞ?」
「うるさい!うるさい!うるさい!」
駄目だな。こいつはもう終わりだ。まあ、俺には関係ないし、このまま終わりにしてやろう。
そう思った時だった。突然、勇者から笑い声が聞こえてきた。
「あは、あは、あはははははははは」
やべっ、洗脳勇者まで供給過剰かよ。まさか、降臨なんてオチは無いよな?
くそっ、女魔法使いは臨界点を突破しそうだし、洗脳勇者まで壊れたし、どうすりゃいいんだ。
そんな場合ではないと知りつつも、俺が頭を抱えていると、聞き覚えのある声が場内に響き渡った
「な、な、なに、なによ。この惨状は」
がーーーーーーん! なんでこんな所に来るんだ! 何を考えているんだ! おい! サクラ!
そう、二人の壊れ者を目の前にして大混乱している俺の前に、少し寂しい別れをした筈のサクラが、ひょっこりと顔を出したのだった。
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