第43話 チートなわたし


 小中高と、特に問題なく過ごし、そこそこの大学へと進んだ。

 会社も一応一流と呼ばれる商社へ入社したのだけど......

 社会とは、こんなにもつまらない世界なのだろうか。

 会社とは、こんな理不尽な世界なのだろうか。

 入社して二年になるけど、未だにこの世界でやって行けるとは思えない。

 確かに私は女だから、結婚すれば会社を辞めるかも知れないけど。

 いえ、こんな会社、結婚したら速攻で止めてやる。


 鬱だわ。何このノルマ。それも仕事を自分で取って来いって......

 私は営業では無いのだけど、自分で外回りで仕事を取って来いということかな?

 抑々、上司や先輩から押し付けられた仕事だけでも手が回らないのに......

 彼等は私の睡眠時間を知っているのかしら。

 毎日、三時間しか寝ていないのだけど。


 もう、ウンザリだわ。

 だれも助けてくれる人も居ないし、今、甘い声で囁かれたら、一発で靡いてしまうかも。

 大学の友達も、自分の事が忙しいようだし、相談できる人も居ないのよね。

 これが私の生きて来た証なのかな?

 もし、世界が、社会が、全てが、これで当たり前と言うなら、生きていても何の楽しみも無い。

 いっそ死にましょうか。その方が楽だもの。何も考えなくて済むし、何よりも仕事をしなくて済むわ。


 さて、どうやって死のうかな?


 電車は...... 周りに迷惑よね。

 特に通勤時間帯なんて最悪だわ。

 恐らく、死んでいるのに「死ねボケ!」とか言われそう。


 じゃ、飛び降り?

 でも、それも知らない人を巻き込んだり、後処理が大変そうよね。


 それなら、誰もいない海で...... いえ、溺死は止めましょう。

 魚たちの餌になるのは、自然で良さそうだけど、とても苦しそうだもの。


 ん? 何かしら、スマホがブルブルいってるわ。

 この時間に連絡を寄こしてくる人なんて想像もつかないのだけど。

 ぎゃ、会社からのメールだわ。転送設定したままだった......


「なになに、明日の昼までに、このリンク先へ見積書を送れ?はぁ?そんなの私の仕事じゃないわよ。ちぇっ、それであて先は?」


 見積書の送り宛先をタップした途端、私の意識は掻き消えていく。

 拙いわ、今、ノーブラなのよ。勘弁して頂戴~~~~~!


 自宅ベッドで悶々考え込んでいた私は、それを期にこの世界とオサラバしたのでした。







 潮の香りがする。

 波の音と心地よい風が...... って、これは暑すぎるわ。

 何よこの灼熱のような日差しは!


「てか、ここはどこよ!」


 身体を起し、視線を周囲に向けると、感じた通りの大海原と砂浜。

 更に迷惑な程に身を焦がすような灼熱の太陽。


「ぎゃ~~~、日焼けするじゃない!どうしてくれるのよ。というか、これはどんなビックリイベント?それともサプライズ?」


 そんな声を上げてみたけど、だれも姿を現さない。

 何が何やら分らない私は、取り敢えず自分の身体を確認してみる。


「ぎゃ~~~~~、これって家着~~~~、オマケにノーブラ!」


 自宅に居た時の様相に、両手で頭を掻き毟る私の目の前に、突然ボップアップ画面が現れた。


「なにこれ!空中ディスプレー?最新技術じゃない!直ぐに契約して売らなきゃ」


 拙いわ、職業病だわ......


 その時、自己嫌悪に陥る私の脳内にメッセージが流れる。


『美咲サクラ様、素晴らしきゲームワールド『魔狩り』へようこそ!』


「はあ?なによコレ!もしかして、私って連れ去られた?」


 思わず声に出してみるけど、当然ながら誰も答えてくれない。

 仕方ないので、空中ディスプレーをタップしてみる。

 すると、画面が変わり「ゲームスタート」が表示される。


「えっ?無条件スタート?」


 どうやら、勝手にゲームが始まったらしい。

 更に、空中ディスプレーをタップすると、何故かスタート後に利用規約が表示された。


「何よコレ、詐欺じゃない。後言いなんて法的に認められないのよ」


 憤慨して苦言を述べるけど、当然ながら誰も答えてくれない。

 結局、舌打ちしながら利用規約を読むと、そこにこのゲームからの脱出条件が書かれてあった。


「なによ、この魔王ソウタを倒せ!って、それで魔王を倒したら帰れるのね?」


 周囲を見回すが、当然誰もいないので返答はない。


「はいはい、遣ればいいのね」


 その後も色々とゲーム方法を確認して見たのだけど、普通のネットゲームと変わりなかった。


「こういう時は、まず装備の確認よね」


 という訳で、アイテムボックス内の装備を確認する。


「ふむ、『不滅の水筒』、これは中々ね。それで、装備は......なによ!このビキニアーマー、バカじゃないの!私にこのエロイ装備をしろっていうの?あう~~仏滅だわ」


 そう、それは素材不明の白いビキニアーマーだった。

 ただ、救いは、深いスリットの入ったスカートの様な衣装もあり、これなら普通にしていたら下半身が見える事は無いと思う。

 上着に関してもブラと言うより胸当てに近いものだったので、恐らくポロリということは無いでしょう。


 ん?ポロリとする程あるのかって?

 フフフ、自慢では無いけど、胸は大きい方なのよ。


 結局、周囲の目を気にして着替えたのだけど、全くと言って良いほど人の気配が無かった。

 見られるのも嫌だけど、誰も見てくれないというもの少し寂しい。

 その辺りが、女心の不思議な処なのよね。


「ステータスオープン」


 さて、装備も終わったし、ステータスの確認よね。


 ------------------

 名前:美咲 サクラ(ミサキ サクラ)

 種族:人間

 年齢:24歳

 称号:戦乙女ヴァルキリア

 ------------------

 LV:0

 HP:1000/1000

 MP:1000/1000

 ------------------

 STR:500/0/2000

 VIT:500/0/1000

 AGI:500/0/1000

 DEX:500/0/1000

 INT:500/0/500

 LUK:500/0/500

 ------------------

 EX:0/1

 ------------------

 PT:0

 ------------------

 SP:0

 ------------------

 <スキル>

 ------------------

 <装備>

 破魔の剣 STR+1000

 ビキニアーマー一式 ステータスALL+500

 鉄壁のマント VIT+500

 瞬足のグリーブ AGI+500

 強靭のガントレット STR+500/DEX+500

 魅力のイヤリング LUK+500

 魔力のネックレス INT+500

 ------------------

 アイテムボックス 999マス×9999

 ------------------


 何これ、とんだチートだわ。

 もしかして、モンスターがとても強いのかしら?

 私も学生時代にゲームとかした事があるけど、これは有り得ないと思う。

 こんな温いゲームでいいのかしら。

 てか、戦乙女ヴァルキリアとか恥ずかしいから止めて欲しいのだけど......


 まあいいわ。生活用品も色々あったし、生活に困る事はなさそうね。

 さて、チュートリアルを終わらせないと、本ゲームに行けないらしいから、さっさとレベル十にして魔王を倒しちゃいましょう。

 でも、あの世界に帰りた訳でもないのだけど......







 鬱な気分を気合で吹き飛ばし、ジャングルの中に入ると、大きなカエルが居た。


「きゃ!わたし爬虫類ダメなのよ~~~!」


 思わず、巨大なカエルに驚いて叫んでしまった。

 その言葉に憤慨したのか、カエルが凄い形相で突っ込んできた。


「やば!遣られる」


 思わず目を瞑ってしまったのだけど、柔らかいモノが私にぶつかったかと思ったら、目の前にカエルが跳ね返って転がっていた。


「これ、めっちゃ弱いじゃん」


 私は転がっているカエルを見ながら、目を瞑って大剣を振り下ろす。


「やぁ!」


 大剣を振り下ろした私は、薄目を開けて無残であろうカエルの様子を伺った。

 すると、血が飛び散る事無く、大剣はカエルを切り裂いて地面に刺さっている。

 スプラッタで無い事に安堵したのだけど、地面に突き刺さった剣が抜けない...... 


 ちょっと、切れ過ぎよ。抜くのが大変じゃない。


 ブツブツと愚痴を溢していると、カエルがキラキラと光の粒子になって消える。

 すると、そこにはアイテムが転がっていた。


「何これ!?なになに、カエルのモモ?焼くと、とても美味しい?まあいいわ。てか、今音声が流れたけど、もしかしてレベルアップかな?」


 ステータスを確認しようと思ったのだけど、そんな私の意識も霞となって消えていく。



 ん?熱いわ! って、ここは砂浜よね?


「もしかして、レベルアップすると元の位置に戻るのかしら?」


 誰にともなく口にしてみるが、やはり、誰も返事をしてくれない。

 それがちょっとだけ寂しい......


「まあいいわ。取り敢えず、レベルの確認ね。ステータスオープン」


 ------------------

 名前:美咲 サクラ(ミサキ サクラ)

 種族:人間

 年齢:24歳

 称号:戦乙女ヴァルキリア

 ------------------

 LV:1

 HP:2000/2000

 MP:2000/2000

 ------------------

 STR:500/0/2100

 VIT:500/0/1100

 AGI:500/0/1100

 DEX:500/0/1100

 INT:500/0/600

 LUK:500/0/600

 ------------------

 EX:0/2

 ------------------

 PT:2000

 ------------------

 SP:10

 ------------------

 <スキル>

 ------------------

 ~以下省略~


 なによこれ、チート過ぎるでしょ。

 取得ポイント二千? 簡単過ぎて、逆につまらないのだけど。

 まあいいわ。取り敢えず、ステータス更新だけど、魔法職って面倒なのよね。

 という訳で、戦闘系で行きましょう。

 あと、スキルは回復系と補助系があればいいわ。

 さてと、こんな感じでいいかな?


 ------------------

 LV:1

 HP:2000/2000

 MP:2000/2000

 ------------------

 STR:500/2000/2100

 VIT:500/0/1100

 AGI:500/0/1100

 DEX:500/0/1100

 INT:500/0/600

 LUK:500/0/600

 ------------------

 EX:0/2

 ------------------

 PT:0

 ------------------

 SP:0

 ------ーーーーーーーーーーーー

 <スキル>

 回復5 MP10/HP50×110

 剣攻撃強化4 ATK+80%

 ------------------

 ~以下省略~


 じゃ、陽も高いし、次の敵を狩りにいきましょう。







 結局、一日でチュートリアルが終了してしまった。

 まあ、チュートリアルなんてそんなものだものね。

 ただ、ステータスが異様な事になったわ。

 なんか、無敵感が凄いんだけど......


 ------------------

 LV:10

 HP:10000/10000

 MP:10000/10000

 ------------------

 STR:510/5000/3000

 VIT:505/5000/2000

 AGI:508/4000/2000

 DEX:510/4000/2000

 INT:501/1000/1500

 LUK:500/1000/1500

 ------------------

 EX:0/10000

 ------------------

 PT:0

 ------------------

 SP:8

 ------------------

 <スキル>

 回復5 MP10/HP50×110

 剣攻撃強化5 ATK+100%

 斬撃5    MP10/ATK+100%

 超斬撃5   MP60/ATK+600%

 ヒート5     MP10/+100%

 ハイヒート5   MP30/+200%

 HP回復向上5

 SP回復向上5

 ------------------

 ~以下省略~


 レベル十でこのステータスという事は、魔王はとんでもないほど強いのかしら。

 ただ、説明にはイージーモードだって書かれてたし、簡単に倒せるのかも知れないわ。

 まあ、相手はNPCみたいだし、さっさと魔王を見付けて様子を見ればいいわよね。


 それよりも、困っているのは食べ物なのだけど。

 結局、数十匹を倒してチュートリアルが終わって、食べ物のアイテムが出たのだけど、私って料理が壊滅的にダメなのよね。

 何処かにコンビニは無いのかな? って、お金も無いし、ううううう......


 食べ物はあれど、料理が出来ずに空腹な状態となっている私は、グウグウと悲鳴を上げるお腹を抱えて本ゲームへと突入するのでした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る