第42話 不公平な世界
ここが何処かと聞かれても、いつも同じ答えしか返せない。
そう、白い空間。ただ白く、無意味に白く、何処まで行っても白い空間。
どうしてこんな空間にしたのか、是非とも神に聞いてみたいのだけど。
しかし、残念ながらその相手は既に存在しない。
父なる神、母なる神は、もうこの世界に居ないのだ。
神が死んだのか、逃げたのか、消えたのか、それすらも分からない。
ただ言える事は、世界は回る。神が居なくなっても、この世界は生き続けるのだ。
そして、私の眼前に居る彼等は、そんな世界を弄り回して快楽に耽る。
同じ存在である私から言わせて貰うと、見事な程に見るも無残な愚か者達だ。
今この時も、彼等の人間を嘲る笑い声が聞えてくる。
「おい、勇者が負けたじゃね~か」
「おかしいな~~」
「てか、あの変態、なんであんなに強いんだ?」
「プログラムをミスったかな?」
はぁ~、本当に愚かだ。
ここまで見ても気付かないのか......
まあ、その方が私としては助かるのだけど。
どうやらカオルは上手く遣ってるようだし、もう少し彼女の進行が進むようにしてあげたいけど、あまり遣り過ぎると、流石に気付かれるかも知れないからね。
「てか、あの変態よりもさ、新しいのを連れて来ないか?」
「新しいのを如何するんだ?」
「それは――」
「おお~それも面白そうだ」
「よっしゃ~、じゃ~早速人選といくか」
「うむ。でも、それだと少しプログラムに手を入れないとね」
う~む、何やら不穏な空気が漂い始めたかな。
奴等は一体何を始めようとしてるのだろうか。
ここは少し探りを入れるとするか。
「やあ、君達、ごきげんよう」
「なんだ、お前か!」
「そんな言い方はツレないね~。私達は同じ存在じゃないか」
「ふんっ、あの女の腰ぎんちゃくに用は無いんだよ」
「まあまあ、それよりも楽しそうな事を思い付いたようじゃないか。私も仲間に入れてくれないか?」
「はあ?なんでお前を仲間に入れる必要があるんだよ」
「そうだよ。あっちに行けよ」
「あなたは邪魔なんですよ」
「さあ、急いでプログラム作らなきゃ」
ダメだな。どうやら私は彼等に煙たがられているようだ。
少しでも情報を集めてカオルに伝えてあげようと思ったのだけど、どうやら難しいようだね。
まあ、その内、こっそりプログラムの内容を覗いてみるとしよう。
どうせ、彼等の遣る事も一日二日で出来る事ではないだろうからね。
だけど、気を付けろよカオル。
お願いだから、彼等の目を掻い潜って、私やこの愚か者達を葬ってくれ。
任せたぞ、カオル。そして、ニャン太。いや、颯太。
これは予想だにしなかった光景だ。
周囲は鉄の壁で囲まれ、正体不明の明かりで照らされている。
そう、ここは鋼鉄の壁と天井を持ち、LEDでも灯したかのような明るさで包まれた部屋だった。
『カオル、ここは?』
『見ての通りの禁断迷宮だよ?』
俺の問いにカオルは事も無げに答えてくる。だが、その答えは全く無意味なものだと言って良いだろう。
『これが禁断迷宮の中か』
『あら、エルったらビビってるの?』
『何を言う。妾が此れしきで臆する訳が無かろう』
脳内嫁エルが、脳内愛人ミイの言葉を威勢よく否定するが、エルが宿る大剣はブルブルと震えている。
本当に口程にも無い奴だな。まあ、そういう処も可愛いと思うけどな。
「すご~~い!全部鉄で出来てるんだ。それにこの明かりって何?」
「ほんま~ニャ~。これって全部鉄ニャ~の?」
魔人族であるマルカの驚く声に、猫獣人のニアが一緒になって驚いている。
と言うよりも、何故、ニアがここに居るかだな。
まあ、奴の事を話しても長くなることは無い。
唯単に、必死に止めたのだが、全く耳を貸さず無理矢理ついて来ただけだ。
以上。
どうも、次の猫男を見付けるまでは、俺から片時も離れそうにない。
だが、キララも喜んでるし、本人が危険でも構わないと言うので、好きなようにさせる事にした。
それよりも、このダンジョンの方が不気味だ。
と言うのも、この世界で鉄はかなり高価な素材だ。
それをふんだんに使っている事も驚きだが、この真っ平な精製技術の方が驚愕の対象だと言える。
『カオル、このダンジョンって何階層なんだ?』
『二十階層だよ。でも、敵が強力だから気を付けた方がいいよ』
うむ、たった二十階層でも禁断迷宮と呼ばれているんだ。
恐らく、半端ない強さの敵が現れるのだろう。
「あれ~、な~んか変な音がするニャ~よ?」
一番初めにその不審なモノを認識したのはニアだった。
その事だけでも連れて来た甲斐があったというものだ。
それはそうと、出て来たモンスターを見てビックリだ。
てか、モンスターじゃないし......
「お兄ぃ、あれってなに?」
その異様な物体を目の当たりにしたマルカが声を上げる。
そう、この世界では誰もが不思議に思うだろう。
だが、異世界から来た俺には解る。
そこに居る物体、それはロボットだ。
しかし、アニメで見るような人型ロボットではない。況してや青と白を基調とした耳の無い猫型ロボットでもない。
敢えて、その物体を名称するなら蜘蛛型ロボットと言えるかも知れない。
直径二メートルくらいの卵型をした本体に、沢山の足が付いている。
更に、本体の上には大砲の様な筒が五本あり、今まさに火を噴かんとしているのが、その動きから解る。
「ヤバイ、砲弾を撃って来るぞ。散らばれ」
「お兄ぃ、砲弾ってなに?」
「美味しいニャ~の?」
いやいや、それより早く散らばらないと、一気に遣られるぞ。
そんな事を言ってる間に、物凄い勢いで砲弾が撃ち出された。
「ちっ、マックスヒート!シールド」
避けれないと思った俺は即座に左手を突き出し、腕輪の能力を発動させる。
すると、瞬時にシールドが発生するのだが、その砲弾がぶち当たった途端、その勢いで吹き飛ばされてしまった。
「いって~~~~!キララ、マルカ、ニア、大丈夫か?」
俺は転がりながらも、すぐさま仲間の状態を確認するが、相手は再び砲弾を放とうとしている。
それを理解した俺は、即座にそのロボットへと向かいうべく加速する。
「加速!」
すると、奴は出て来た時とは違い、物凄い速度で移動し始める。
「ぐはっ、はえ~~~!」
「あんぎゃ~~~!(すご~~い!)」
奴の動きに、背中のキララも驚いている。その様子からすると、キララは無事なようだ。
だが、俺はそこで更に驚く事になる。
「痛いニャ~よ!喰らうニャ~よ!」
そう、気の抜けるよう罵声を吐きながら、俺よりも速く蜘蛛ロボットに追いついたニアが、奴の上に飛び乗って猫パンチを喰らわしたのだ。
「ぐあ~~~、痛いニャ~~~~の!」
どうやら素手で殴ったら、己の手の方がダメージを受けたようだ。
凄いのやら抜けているのやら......
それを見た俺は、即座にアイテムボックスから金属バットを取り出し、蜘蛛型ロボットから飛び降りたニアに放る。
「これを使え!」
「ありがとうニャ~の。ソウタ、愛してるニャ~よ」
何故かドサクサに紛れて愛を訴えてくるのだが、俺はその愛をスルーして、奴の側面に回り込み、その沢山ある足の一本に向けて大剣を振り下ろす。
すると、奴の足が切り裂かれ、カランカランと床に転がる。
よし、大剣は通用するようだ。
『痛いぞ!ソータ!タンコブが出来そうだぞ』
ぐはっ、どうやら太刀筋が拙かったようだ。その所為でエルが痛がっている。
次はもう少し気を付けて振るおう。
そんな事を考えていると、俺と反対側に回り込んだニアが金属バットで殴り付けている。
「喰らうニャ~~~~よ!」
その攻撃は、甲高い音を打ち鳴らしながらも、蜘蛛の足を変形させていく。
更に、次の瞬間、風切り音と共に奴の砲身の中に矢が撃ちこまれた。
すると、矢の撃ち込まれた砲身が爆発音と共に破裂する。
どうやら、中の弾に矢が撃ちこまれた所為だろう。
でも、砲弾って矢で爆発するのかな?
そんな疑問を持ちながらも、三人でそのロボットを袋叩きにするのだった。
夜空の星が綺麗だ。
これだけ天気が良いと、今夜も冷え込むのだろう。
そう、この世界に四季なるものは無いようだが、放射冷却の所為か昼間と夜の温度差が思いの外大きいのだ。
そんな事を考える俺の前では、山盛りとなった肉をガツガツと食っているニアが居る。
チラリと右側を見ると、黒猫が両手を使って肉を持ち、口で引き千切ってはカミカミしている。
その光景はとても可愛いのだが、猫としては有り得ない食事風景だ。
左を見ると、唯一野菜も食うマルカが、ホークで肉と野菜を刺して口に運んでいる。
俺はと言えば、白飯と肉を食っているのだが、白飯に関しては思ったよりも好評で、エルとミイの二人ともが全く文句を言わないのだ。
さて、そんなほのぼのとした光景だが、何故ダンジョンに篭った俺達が美しい星空の下で飯を食っているかと言うと、ダンジョン攻略の途中で断念して戻って来たからだ。
それは、とても言い難いことなのだが、ハッキリ言ってありゃ無理だ。
と言うのも、初めのうちは一部屋に一体の蜘蛛型ロボットだったので、何とか皆で叩きのめしながら進んだのだが、一体が二体となり、二体が三体となり、敵が五体となった処で、それ以上の進行が困難だと判断して引き返してきたのだ。
だって、丸一日頑張って一階層も下に降りられなかったのだ。
それなら、ダンジョンの中で無理して休むより、安全な処で飯でも食って休んだ方が有意義だろう。
そんな訳で、対策を練るためにも一旦戻ろうという話になったのだ。
『カオル~、なんかいい案があるか?』
『今は食事中だから、後にしない?モグモグ』
俺が飯を食いながらカオルに尋ねると、彼女は次のカルビを手に取りつつ答えてきた。
どうやら、今は飯に集中したいらしい。てか、どんだけカルビが好きやねん。
それに、その油まみれの肉球は俺が洗うんだからな! 程々にしてくれよ!
「あんぎゃ~~~!(おかわり~~~!)」
ここ最近、キララも更に食うようになった。
そのお蔭なのか、今はヨチヨチ歩きが出来るまでに成長した。
その歩く姿は、それはもう超絶に可愛いのだ。
そんなキララは、やっと俺か離れられるようになり、今では一人で座ってご飯を食べられるようになったのが、彼女の手もやはり油まみれで、後程、俺が洗う事になるのだ。
キララにお代わりを作ってやり、俺も残りの飯を食いながら、どうやってあのロボットの砦を打ち崩すかを考えているのだが、全くその方法が思い浮かばない。
『相手がロボットなら、雷撃が効くんじゃないかな』
一人で悩む俺に、後でと言いつつもカオルが念話を飛ばしてきた。
確かにそれは一理あるが、あの鋼鉄の部屋で雷撃なんて撃ち込んだら、俺達まで感電死するんじゃないのか?
因みに、床が鉄だった所為で、地面を変化させる土系の魔法は全く使えなかったし、炎の魔法はあまり効果が無かった。水の魔法に関しては試していないのだが、部屋の一つ一つがあまり広くないので、もしかしたら俺達も溺れる可能性があるかもしれない。
ああ、でも喜ばしい事が一つだけあった。
奴等は遣られても次のロボットが生まれるまでに、暫くの時間が掛かるだろうという予測が立ったのだ。
というもの、一度通った部屋を引き返してきたのだが、全く敵が現れなかったからだ。
だから、少しずつ進むという手段が取れるかも知れない。
そんな事を彼是と考えていた俺に、マルカが恐ろしい言葉を放ってきた。
「お兄ぃ、あのボスからゲットした宝箱を開けたら?もしかしたら使える物が入ってるかもよ?」
嫌だ! それだけは嫌だ! 絶対に嫌だ! 死んでも嫌だ!
確かに藁をも掴む気持ちだが、それだけは絶対に拒否させて貰おう。
だが、そんな処で要らん口を挟むのが、カオルという死神だ。
『確かに、それは有りだね』
ね~よ! まったくね~~よ! これっぽっちもね~~~~よ!
そんな思いで、流石の俺も反発してしまった。
『だったらカオルが開ければいいじゃん』
すると、唯でさえ黒くて威圧感のある猫が、耳を後ろに向けてキツイ口調で非難の念話を吐き出した。
『颯太は、こんなに不幸な少女に、更に鞭を打つような事をするんだね』
ぐあっ! 確かに、カオルの過去を聞く限りでは、悲惨をも超越した人生だと言えるだろう。
そんなカオルにそう言われるとグウの音も出ない。
「お兄ぃは気にし過ぎだよ」
マルカは軽々しくそう言うが、今度は黒いブラジャーとかだったら、己の首を括るようなものだぞ。
「だったら、マルカが開けるか?」
余りにも簡単に言いやがるので、少しカチンと来た俺はマルカに振ったのだが、マルカは顔面蒼白となりブルブルと震え始めた。
「ごめん。言い過ぎました。遠慮します」
ほらみろ! 他人事だと思って軽々しく口にするが、自分が同じ立場になったら、この恐怖がどれだけのものか解る筈だ。
だが、そこに勇者がらわれる。
と言っても、例の洗脳勇者では無い。
「宝箱ニャ~の?にゃ~が開けるニャ~~~よ!」
ニアは恐怖の宝箱という存在を知らない。それ故に軽く考えているようだ。
だから、これまでの事を色々と説明してやった。
「大丈夫ニャ~よ。にゃ~はクジ運が強いニャ~の」
やはり、こいつは勇者だ。
よし、そこまで言うなら開けさせて遣ろう。
「ほれ、これだ!だが、何が起こっても文句言うなよ」
宝箱を見て瞳をキラキラと輝かすニアに忠告するが、どうやら彼女の敏感な耳でも聞き取れていないようだ。
恐らく、全神経が宝箱へと向いているのだろう。
「じゃ~、開けるニャ~よ!」
嬉しそうに微笑むニアが勢いよく宝箱の蓋を開ける。
それを遠目で見ていた俺とカオル、マルカが恐る恐る近付いて中を覗く。
開けた本人は首を傾げているが、中には黒い毛皮のような物が入っている。
「ニア、出してみろ」
俺は自分が触りたくないので、ニアにそう告げたのだが、彼女は嫌がる事無く手を突っ込んで取り出した。
「手袋ニャ~~よ?あと、これは何ニャ~の?」
ニアが取り出した物を受け取って鑑定に掛けると、『黒猫手袋』と『黒猫レッグウォーマー』だった。
能力は、黒猫手袋の方は何でも切り裂く爪付き、黒猫レッグウォーマーの方はこれで蹴れば何でも粉砕と表示されていた。
どちらも、俺は装備不可となっていたので、恐らく開けた者が装着可能となる仕様なのだろう。
装備の説明と着け方を教えて遣ると、ニアは即座に装着したかと思うと、嬉しそうに跳び回っていた。
「めっちゃ~うれしいニャ~~~~~ん」
そう言いながら、近くにあった石を蹴ると、見事な程に粉砕された。
「にゃ~~~~、最高にゃ~~~~~ん」
そんな歌声のような叫びを上げながら、今度は近くの岩肌に腕を振るう。
すると、四本の鋭い斬痕が刻まれる。
「にゃ~~ん!めっちゃ切れるニャ~~~よ」
もう、殆ど踊るような勢いで、辺りを粉砕し、切り刻んで喜びの声を上げている。
「な~、ソウタ~、ほんとにコレもらってもイイニャ~の?」
ニアはとても喜びながら俺に尋ねてくるが、ニアしか装着できないようだし、彼女に使って貰うしかない。
「ああ、いいぞ」
そう言うと、ニアは大喜びで俺に抱き付いてくる。
そんな大はしゃぎのニアを眺めながら、どうやら、この糞ゲーワールドは、俺にだけ冷たい世界のようだと、つくづく思い知るのだった。
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