第37話 抜け出せない呪いもある
くは~っ、とんだ目に遭ったぜ。
ああ、行き成りで愚痴で申し訳ない。
だけど、頭のイカレた勇者から腹に穴開けられて、痛いのなんのって。
行き成り勇者がパワーアップしやがって、俺の腹に剣をブスっと突き込みやがった。
うんでもって、HPはというと、三分の一も持っていかれたぜ。
てか、HPと怪我の関係ってどうなってるのだろうか。
それも気になるが、あの時は焦って、奴を蹴り飛ばして炎の魔法をブチ噛ましたはいいが、慌てふためいていた所為で、最後に火炎石をぶっぱなしてしまった。
後で、カオルに怒られたってもんじゃない。
全く、あの日は厄日だったぜ。って、毎日が厄日だが......
現在の俺達は勇者から逃げ出して、四日ほど経っている。
逃げ出したと言ったのは、カオルの意見を尊重してのことだ。
俺はあの攻撃で勇者達はお陀仏だと言ったんだが、カオルは間違いなく生きているだろうと言っていた。
あれで生きていたら、殆どゾンビだぞ。
それはそうと、現在は階層も地下八十九階まで進み、モンスターもべらぼうに強くなっている。
そのお蔭で、俺のレベルは順調に上がり、今ではレベル四十六になった。
ただ、この後のレベル上りに関しては、暫くは望み薄といった状態だ。
因みにレベルは次の通りだ。
ああ、装備に関しては全く変わりないし、スキルに関しては未だ貯蓄中だ。
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名前:高橋 颯太(タカハシ ソウタ)
種族:人間
年齢:20歳
称号:超絶変態
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LV:46
HP:16399/16399
MP:3645/3645
――――――――――――――――――
STR:884/4090/97
VIT:621/2610/72
AGI:734/3400/76
DEX:776/2350/143
INT:316/1600/46
LUK:10/1200/56
――――――――――――――――――
EX:15,114,664/398,703,807,811
――――――――――――――――――
PT:0
SP:147
――――――――――――――――――
それはそうと、勇者で酷い目にあったのも確かだが、今心配しているのはここの最下層ボスに現在の俺で対抗できるかだ。
その事をカオルに聞いても、頑張るしかないって言うばっかだし、本当に大丈夫なのだろうか。
『颯太、余所見してると怪我をするよ』
うあ、現場監督カオルから指摘を喰らった。
目の前の敵はラミアで、なんとも胸がデカイことデカイこと。
お蔭でミイが本来以上の力を発揮しているような気がする。
というのも、矢の攻撃力が増しているように思うからだ。
てか、念話で『デカ乳は死ね~!』ってずっと連呼してるしな。
俺が振り回しているエルと言えば、相手を切り裂いている間もクスクスと笑っている。
何とも、仲が良いのやら、悪いのやら......
俺としては、正直に言ってオッパイは好きだけど、別に巨乳が好きという訳では無いので、気にするなと言って遣りたいのだが、それを口にすると、今度はエルが暴れ出すから、喉元で止めている。
「ぐあ~!」
そんな事を考えると、大きな乳を揺らしながらラミアがメイスで襲ってくる。
即座にそれを避けて、大剣を振るうが左手に持つ盾で受けられてしまう。
『ソータ、何だその攻撃は!まさか胸に見惚れていた訳じゃあるまいな』
全く煩い奴等だ。そこまで女に敵愾心を持たなくてもいいだろうに。
それでも、俺が超絶落ち込んでいた時には、一生懸命に励ましてくれたし、良い奴等なんだよな。
てか、良い奴も何も、俺の嫁だったわ。
結局、エルに怒られながらも、残り二匹のラミアをなんとか倒し、休憩する事になった。
『ソウタは、少し嫌らしい視線を投掛けてたわ』
『ダメだぞ!浮気はゆるさん』
いやいや、俺はサングラスしてるだろ。どうやって嫌らしい視線だって判断したんだ?
最早、この二人には呆れてものが言えない。
『エル、浮気はゆるさんって言ってるけど、君とミイは颯太の浮気の産物だからね』
『うぐっ』
『ぬぐっ』
カオルの指摘にミイとエルが唸るが、何でそこで黙り込むんだ?
少しはおかしいと思えよ。カオルは猫だぞ?
俺から言わせれば、カオルは妻だった事実は何処にも無いからな。
ただ、それを今更言うと大変な事になるから黙ってるだけだぞ?
「ねえねえ、お兄ちゃん、ラミアが蒲焼ドロップしてたでしょ?今晩は蒲焼がいいな~~」
マルカが早くも夕食のメニューの要望を出してくるが、ご飯もないのに蒲焼って、とっても残念に思うのは俺だけか?
俺からすると、クリームの入っていないクレープと大差ないと思うのだが......
そこでふと気づいて尋ねてみる。
「マルカ、この世界に米って無いのか?」
「米って何?」
俺の質問にマルカは首を傾げる。
確かに米と言っても分からんよな。
「このくらいの白い小さな粒で、水を入れて炊くと柔らかくなって食べれるんだけど」
上手く説明できないが、一応、出来る範囲で頑張ってみた。
すると、マルカは急に自分の持つ布袋をゴソゴソと探り始めた。
そして、待つこと数分。
「もしかして、これの事?」
彼女が取り出したのは、人が入れそうな大きな袋で、その口を開くと中の物をザラザラと掬い上げた。
それは、何と夢にまで見た米だった。
「そ、そう、それだ」
「これはラズって言うんだよ」
いや、名前なんて如何でも良い。それが恋しいんだ。沢山食べたいんだ。
「マルカ、それってまだ沢山あるのか?」
「うん。この袋で五袋分くらいある」
おおおおおおお~~~~~~~!俺にも運が回ってきたのか。
透かさずステータスを確認すると、LUKが十上がってた。
LUKってこうやって上がって行くんだ~~~。初めて知ったわ。
『ねえ、ソウタ、まさか、それ食べるつもり?』
勿論そのつもりだ。やっと見付けた米だぞ。
焼肉と言ったら、やっぱり米だろう。
蒲焼と言ったら、やっぱり米だろう。
これは誰が否定しても、絶対に譲れね~~。
『妾も食べた事がないし、あまり食べたくないぞ』
何て奴等だ。ここはちょっとフォークシンガーになって、関白宣言するしかないな。
「ミイは食べた事あるのか?」
『ないけど、それって北の方で造られてる穀物でしょ?北の食べ物って変わってるからイマイチなのよね~』
なんだとこんにゃろ~~。イマイチなのはお前の性格じゃ~~~~!
いやいや、ここは冷静に、冷静に。
「まあ、騙されたと思って一度食ってみろ。よし、今夜はうな重ならぬラミ重だ」
『ちょっと美味しそうかも』
ほら、食べる必要も無い癖に、やたらと食物に煩いカオルが乗ってきた。
やはり、日本人なら解るよな。
『じゃ~今日は九十階の階層ボスまで倒して終わらせるとしようね』
ぐあっ、階層ボスとやるのかよ。鬼だなカオル。同郷の好で共感したおれが馬鹿だったよ。
今更な話だが、ここのダンジョンは十階置きに階層ボスがいる。
更に、階層ボスは次の階に降りる通路の前で番をしており、それを倒さないと先へ進めないのだ。
これまで地下五十階の階層ボスだったキララが、取り分け強くて先へ進めなかったのは例外だが、流石に地下九十階までくるとキララ程ではないにしろ、階層ボスの強さは半端ない。
という訳で、それを証明するかのように、目の前で階層ボスが暴れている。
「なによ、この人形!」
そう、目の前には全く強そうに見えない人形が宙に浮いている。
いや、人形というよりは、てるてる坊主に手を付けたような見た目なんだが、こいつの魔法が厄介だ。
ハッキリ言って、地下八十階で戦ったライオンの方が戦い易かった。
というのも、見た目通りのてるてる坊主で、中身はスッカラカンみたいなのだ。
矢で射貫いても、剣でぶった切っても、全く手応えがない。
更に、奴の魔法の多彩さと発動タイミングの速さが異常だ。
オマケに、その魔法の威力も半端ない。
一撃で地面が抉れ、石が溶解し、辺りが吹き飛ぶ。
とてもでは無いが、倒せる気がしない。
『カオル、こいつに弱点はないのか?』
奴の魔法を高速移動で避けながらカオルに助言を乞うが、彼女が口にしたのは全く別の話だった。
『おかしいな~~。この階層は巨大なカニだった筈なのに。だから、美味しいカニが食べてると思って期待してたんだけど』
いやいやいや、食い気は後にしてくれ。今はそれ処じゃないんだよ。
「お兄ちゃん、魔法は如何だった?」
必死で矢を放っているマルカが尋ねてくる。
「全然ダメだ。奴に当たる前に霧散する。それより、悪いんだが、矢を撃ち込む場所を色々と変えてみて貰えるか?」
「りょうか~~~い。でも蒲焼を大盛にしてね」
「ああ、お安い御用だ」
逆にマルカにお願い事をしたら、晩飯大盛の依頼があったが、それくらいは何の問題も無い。
『なあ、ミイ、最近のソータって、やたらとマルカに甘くないか?』
『そうそう。それとキララにベタベタなのよ』
今の遣り取りを聞いたエルとミイが、全員に聞えている事を知りつつも、不穏な相談をしているのだが、それってハッキリ言って俺への当てつけだよな?
まあいい、今はそれ処じゃないんだ。
奴の弱点は何かないのか。
脚はない。宙を浮いている状態だ。
体は、まさにてるてる坊主で布を巻いてるだけの様に見える。
『マルカ、ソウタに手を出さないでよ』
おいおい、ミイは未だにそんな事を言ってたのか?
「ミイ姉様、今は戦闘に集中して下さい」
『ダメよ。ちゃんと約束するまで、矢をちゃんと飛ばして遣らないんだから』
何を遣ってるんだミイは! 矢が明後日方向に飛んで行ってるじゃないか......
あれ? 今、全くかすりもしていないのに、奴の動きが止まったぞ。
あそこに何かがあるのか?
そう、巨大なてるてる坊主の右側数メートルの場所だ。
「氷よ!」
俺は奴の魔法を躱しながら、マルカが誤って矢を放った方向へと、即座に氷の槍を撃ちこむ。
すると、再びてるてる坊主の動きが止まった。
どうやら、あのてるてる坊主は本体では無く、本体は姿を隠した状態で近くにいるのではないだろうか。
『ミイ、マルカ、敵の数メートル右側に沢山撃ち込んでくれ』
『分かったわソウタ』
「了解~~~!」
マルカと言い争いをしていたミイも、今度はいう事を聞いているようだ。
俺の要望通りに矢を奴の右側へと大量に放つ。
その途端、奴はマルカへと集中攻撃を始める。
どうやら、かなり嫌がってるようだ。
だが、それでも奴の正確な位置が分かった訳じゃない。
さて、どうやって奴の場所を特定しようか。なんて考えていると、キララが指を差して騒いている事に気付く。
「あんぎゃ!あんぎゃ!(あっち~!あっち~!)」
ん? そういえば、さっきからそればっかりだな。てか、もしかしてキララには見えるのか?
「キララ、お前には奴の場所が分かるのか?」
「あんぎゃ、あんぎゃ(わかるの、わかるの)」
おお、うちの娘は優秀だ。って、いつの間にか、俺の娘という事なっている。
まあ、超絶可愛いから許す。
『ああ、そうか、颯太、水をぶっ掛けてみなよ』
カオルが何か気付いたようで、行き成り助言してくる。
その言葉を聞いた時、俺は直ぐにカオルの考えに気付いた。
「マックスヒート!加速!」
助言を理解した俺は即座に、キララが指差す方向へと走しよる。
「水よ!」
更に、奴に近寄った処で、全力の水魔法を放つ。
すると、俺の放った水魔法が津波の様な勢いで、てるてる坊主の右側へと押し寄せる。
その勢いは、まさにビッグウエーブだ。流石に、避けようにも避けれまい。
そして、津波が過ぎ去った後に残ったのは、ずぶ濡れで水の下たる存在だった。
そのサイズは、てるてる坊主の四分の一程度で、二メートルくらいのサイズだった。
「マルカ、今だ。攻撃を集中させろ」
「はいは~~い!そら、喰らえ!」
俺の指示でマルカが速射を行う。
その間に、俺が本体に近寄り、氷の魔法を放つ。
だが、流石は階層ボス。姿が解っても簡単には遣られない。
物凄い速さで矢を避け、俺の氷魔法も避けられる。
しゃ~ね~ここは接近戦だ。
確かに、俺達の攻撃を上手く避けているが、その分、奴から攻撃が放たれる事が無くなっている。
ここはガンガン攻めるしかない。
「避けるのが上手いが、これならどうだ。雷よ!」
ずぶ濡れの奴に向けて、上級魔法の雷を放つ。
雷は他の魔法と違って攻撃速度が速い。それに放電性があるから直撃を喰らわなくても、あれだけ濡れていれば、何らかのダメージを負う筈だ。
そして、その俺の予測はズバリ的中する。
魔法で放たれた雷は、奴を直撃する事はなかったが、ずぶ濡れの奴はその一部を喰らったようだ。
その証拠に、ヘナヘナと地上に落ちてきた。
「加速!」
このチャンスを逃す手は無い。
即座に加速を掛けて、奴に近寄るとエルの宿った大剣を高速で振り切る。
流石に避けるのが上手い奴でも、地上で戦えば俺に分がある。
まさに、その考えを立証するかのように、超高速で振り下ろされた渾身の斬撃は、奴をスパッと切り裂く。
更に緩めることなく、何度も斬撃を喰らわせていく。
ここで逃がすと、後が大変そうなんで、こちらも必死になって斬りまくる。
「お兄ちゃん、もう消えたんじゃないの?ドロップ出てるよ?」
必死に斬撃を繰り返している俺に、マルカが戦闘終了を伝えてくる。
「お、終わったか......」
『お疲れさま』
『ああ、ありがとう。今回は結構疲れたぞ』
『あはは。颯太にしては頭を使ったからね』
ぬぐっ......
まあいい。
「キララも美味しいご飯を作ってやるからな」
「あんぎゃ!あんぎゃ!あんぎゃ~~~~!(やった!やった!ママすき~~~!)」
未だにママなのは気になるが、こいつは本当に可愛い奴だ。
「そう言えば、お兄ちゃん。ドロップアイテム。ズボンだったよ?」
「なにーーーーーーーーーー!ズボンキターーーーーーーーーー!」
「なんで、そんなに興奮してるの?」
『ズボンはソウタの念願なのよ』
『良かった。これでニーソが隠れる』
『クククッ』
興奮する俺を不思議そうに眺めるマルカに、その理由を知っているミイが説明すると、エルが本当に嬉しそうに喜んでいる。
だが、カオルの笑い声が無性に気になる。
まあいい。それよりは念願のズボンだ。
「じゃ~、お兄ちゃんにあげるね」
そう言ってマルカが嬉しそうに渡してくれた......
『あ~~~なんて事だ......』
即座に、その物体の正体に気付いたエルが絶望の声を上げる。
...... これって女物のキュロットじゃね?
いや、それでも、ニーソが隠れなくとも、ビキニパンツよりはマシだ。
アイテム鑑定!
『装備不可!』
その結果に、俺は壊れた人形の様に地面へと崩れ落ちるのだった。
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