第14話 新しいクエスト


 今日も走る。ひたすら走る。黙々と走る。

 なんか、毎日走ってばかりだ。


『もう大丈夫そうだね』


 カオルの一言で走る速度を緩めて歩行に変える。


 それにしても、何て奴等だ。行き成り矢を放ってきやがった。

 その数は凄まじいものだった。

 まあ、森の中なので事無きを得たが、あれが刺さると痛いでは済まされないだろう。


「もう~~最悪の奴等だわ!いつもいつも私の事をブスだ!骨だ!ゴミだ!と罵って、嘲りを投げつけて、本当に最悪の奴等よ」


 天然温泉で出会ったミーシャルが、矢を放ってきたエルフ達の事を散々と非難する。

 俺からすると、ミーシャルがブスというのが良く分からん。

 とても美人だぞ? 日本なら一躍アイドルに慣れる程だ。


『エルフはね~、一番初めに奴等の餌食になったからね。美的感覚を狂わされているんだよ。性格も凶暴だし、もう手の付けられない存在になっちゃったね』


 俺の心中を悟ったかのようにカオルが原因を説明してくれた。

 どうも、神々の悪戯で完全に狂っているようだ。


「ミーシャル、誰に何と言われようと構わないじゃないか。俺は可愛いし、美人だと思うぞ。それに俺の恰好を見てみろよ。最悪だぞ」


 涙目のミーシャルをさらりとフォローすると、彼女は俺の胸にに飛び込んで来た。


「そう言ってくれるのはソウタだけよ。でも、その恰好は斬新だわ」


 折角フォローして遣ったのに、俺の格好にケチを付けやがった。

 まあ、この格好では仕方ないよな......


「なんでそんな恰好してるの?」


「神の呪いさ」


 さらりと毒を吐く。


「なるほどね。それなら解るわ。エルフも呪われてるからね」


 何故か、神の呪いですんなりと通じてしまった。きっと、異議を申し立てられるだろうと思っていたのだが、それ程に神とは嫌われているのだろうか。

 そんな疑問をカオルに投げかけてみると、直ぐに答えが返ってきた。


『この娘は異端なんじゃないかな。偶にそういう者が生まれるらしいよ。ああ、あと、神はこの世界に直接手を出せないから、使徒を使って人を騙して悪い方へ勧めたり、権力者を巧みな言葉で操ったりして好き放題やってるんだ。だから、使徒の言葉には気を付けてね』


『使徒が襲ってきたりしないのか?てか、使徒の見分け方は?』


『大抵の使徒は口と頭で勝負してくるね。見分け方は臭いかな。何となく胡散臭い臭いがするよ』


 カオルが神や使徒の事を教えてくれるが、頭で勝負は勘弁して欲しい......

 とてもではないが、この脳みそでは勝負にならないと思う。


『大丈夫。颯太に頭脳は期待してないからね』


 ぐはっ! 確かにそうなのだが、面と向かって言われるとショックが大きい。

 まあ、そんな事を言っていても始まらんか。さっさと先を急ごう。







 結局、三週間かけて森を抜ける事に成功した。

 それと、ミーシャルを色々と宥めてみたのだが、俺と一緒に居る言い張るので、旅の同行者として受け入れる事になってしまった。

 いや、ここだけの話、受け入れられたのは俺の方かもしれない。

 まあ、大人の情事は割愛する事にしょう。


『初めてをあんなエルフに捧げるとは......』


 まだ言ってんのか?

 そう、カオルは、俺とミーシャルが関係を持った日から、時折こうやって毒を吐くのだ。

 もう、それは置いておこうよ。いい加減、機嫌を直せよ。


 カオルの喉を撫でながら、彼女の機嫌を伺っていると、あのインターホンの様な音が鳴り響く。

 その直ぐ後に空中ディスプレーが表示される。


「如何したの?」


 行き成り足を止めた俺に、ミーシャルが疑問の声をあげるが、取り敢えずスルーだ。

 それよりも、メッセージの内容を確認する必要がある。

 そう思い、慌てて表示を読んでみたのだが、新たなクエストの発行みたいだ。


 なになに、二カ月以内にアルドランダ王国へ行けだと。こんなのクエストでも何でもないじゃね~か! 唯の嫌がらせだろ!

 で、成功報酬は...... 無し......

 誰がやんだよ! そんなクエスト! ボケっ!


「ねえ、ソウタ、どうしたの?」


 どうも俺の沈黙と形相に耐えられなくなったミーシャルが催促の声を上げる。


「いや、クエストが発行されたんだ」


 あ、あんまり急かすもんだから、思わず口に出しちゃったよ......


 だが、ミーシャルは俺の思いもしない事を口にする。


「あ~、神の御告げでしょ。時々あるみたいだけど。大抵は碌な事にならないって話よね」


「えっ?」


 その言葉に思わず驚いた俺に、カオルが解説してくれる。


『ああ、一般の人間にもクエストは発行されるからね。それを知っても驚く人は居ないと思うよ』


『神からのクエストが?一般人に?』


『そうだよ。ああ、日本で考えれば在り得ないよね。でも、ここは糞ゲーワールドだからね』


 カオルの話の落ちは糞ゲーワールドだった。

 それよりも、その国はここからどれくらい掛かるんだ?


「ミーシャル、糞ゲーワールド、いや、違った。アルドランダ王国ってここからどれくらい掛かるんだ?」


「えっ、私は知らないわよ?だって森から出た事が無いもの」


 ううう、使えね~~~~~。


 すると、不気味な笑い声が俺の頭の中で響く。


『フフフッ、やっぱり僕の方が役に立つよね』


 どうやら、カオルはその国の事を知っているらしい。


『カオルちゃん。どれくらい掛かるのかな?』


『今晩は僕と寝るかい?』


 それくらいならお安い御用だ。まあ、ミーシャルが納得してくれたらだけど。

 いや、そこはガンと行くしかないな。


『ああ、問題ない』


『抱っこして寝てくれるかい?』


 何気にしつこいな~~~。


『勿論だ』


『ここから馬車で一カ月半くらいかな』


 ぬお~~~~~~~~~! そんなの無理じゃね~か~~~! 拒否! ぽちっとな~~~~!


『受諾。有難う御座いました。また、確認画面で残り期限のカウントを見ることが出来ます』


 見事に遣られたぞ! 結局は拒否権なんてないじゃね~か! くそっ! ボケっ!


『どんなクエストだい?』


『アルドランダ王国へ行けとさ』


『期限は?』


『二カ月』


『報酬は?』


『なし』


『当然、拒否したよね?』


『勿論だ』


『結果は?』


『聞かないと解らないか?』


『分かったよ......』


 カオルと不毛な遣り取りをした後、俺達は急いで街道まで走るのだった。







 街道に出たは良いのだが、時折通る馬車にお願いしても、見向きもして貰えない。

 恐らくは、俺の恰好が拙いのだろう。

 てか、黒いローブを着てる筈なのにって、今はローブを着ていない。

 だから、ビキニパンツに猫耳と尻尾付きだ。

 カオルとペアルックで何気に可愛いと思うのは俺だけだろうか。

 じゃ、ローブはというと、ミーシャルに着させている。

 というのも、エルフは狙われ易いとの事だったから、耳を隠すためにフードを被らせているのだ。


「誰も止まってくれないね」


「そうだな。きっと、俺の所為だろう」


「そんな~~。ソウタはカッコイイよ?」


 ミーシャルは結構いい奴だった。頻りに俺のフォローをしてくれる。


 だが、俺の堪忍袋もそろそろ満タンに近い状態だ。

 そんな処に現れたのが、豪奢な馬車だった。

 馬も四頭で、作りもしっかりとしたものだ。

 まあ、この馬車が俺達を乗せてくれるとも思えないので、声すら掛けずに道を譲ったのだが、何故か俺達を通り過ぎた処で止まった。


 そんな馬車の行動を訝しんでいると、中から四人の男が降りて来る。

 その様相からして、金持ちなのは推測可能だ。

 ただ、その顔からして最低な人種なのも推測できた。


「おい!そこの女を寄こせ」


 行き成り、キラキラとした服を纏った男がそう声を掛けてきた。

 年の頃は十台後半だろうか。綺麗な金髪を長く伸ばしているし、見た目は西洋人風でイカした男に見える。

 だが、ミーシャルはそそくさと俺の後ろに隠れる。


「おい!聞こえないのか?」


 もう一人の若者が腰の剣に手を遣り、俺を恫喝してくるが、全く怖くない。

 いや、どちらかと言うと、俺の中でメラメラと燃え上がる心中の方がヤバいだろう。


「聞こえないのか?その耳は飾りか?」


 ああ、それが猫耳の事を言ってるなら、間違いなく飾りだ。だって、効果はあれどアクセサリーだからな。

 そんな事を考えている俺に業を煮やした男が剣を抜いて襲い掛かって来る。


「もういい。お前は死ね~~~!」


 だが、遅すぎる...... なんだその剣速は、その剣筋は、その踏み出しは!


 俺は即座に襲い掛かってきた男の一振りを避けると、顔面に拳を減り込ませる。

 なかなかの感触だ。恐らく、骨折は免れないだろう。てか、他界したかもな。


「な、なんだ!貴様!俺達がここの領主の息子だと知ってのことか」


「知らんわ!どこの誰でも関係ないね。掛かって来るならぶっ飛ばすだけだ!」


 どうやら、こいつらは貴族らしいく、唯のボンボンの戯れなのだろう。だが、ちょっと遣り過ぎたようだな。


「なんだと~~~!死ね~~~!」


 今度は別の男がサーベルらしき剣で付いてくる。

 ああ、この突きだと止まったリンゴすら貫けないだろうな。


 透かさず躱して、腹パンを喰らわす。

 その一撃は、相手の腹を突き抜けたかと思うような感触だったが、手に血が付くような事は無かった。

 ただ、殴られた若者は口から大量の血を吹き出す。


 うむ、この男も旅立つようだ。

 別に構わんが、中途半端に残ると追手が来るかもしれんな。


 そう考えた俺は、今度は自分から攻撃に移る。

 瞬時に三人目の間合いに入り、下から顎を殴り飛ばす。

 その勢いは凄まじく、恐らく三メートルは空中に上がっただろう。

 次に、空中に居る男を唖然と見て詰めている四人目の男の顔面にパンチを喰らわす。

 すると、硬い物が割れるような音と感触が伝わってくる。

 これで終了だが、そこでカオルの声が頭に響く。


『馬車を貰おうよ。あ、あと、その男達はここに置いておくと直ぐに見付かっちゃうから、何処かに投げ飛ばした方が良いね』


 ああ、きっと、俺やカオルは壊れていて、道徳とか倫理とか全てが失われているんだと思う。

 あの四人が死んだかどうかは知らんが、何とも思わないのはその証拠だろう。

 それにしても、カオルは中々気の利いた事を言う。


 カオルの台詞に納得しつつ、俺は男達を街道から草むらへと投げ飛ばす。

 次に逃げ出そうとした馬車に飛び乗り、御者を蹴り落とす。


「悪いが馬車は貰うぞ」


「は、は、はい。命だけは、命だけはお助け下さい。」


 必死で命乞いする男に一言だけ告げる。


「あ、俺は襲われただけだからな。分かってるよな?」


「は、はい。こ、この事は誰にも言いません」


「あ、お前、いい服を着てるな。よこせ!」


 結局、御者の衣装も身ぐるみ頂いて馬車の旅を満喫するのだった。

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