第12話 行き成り恐竜?
ジャングルはチュートリアルと似て非なるものだった。
何が違うのかと言うと、様々な生き物の鳴き声が聞こえてくる。
一番初めに聞こえて来たのは鳥の鳴き声だ。
囁きのような鳴き声から辺りを轟かすような鳴き声まで、様々な鳴き声が聞こえてくる。
次に聞こえて来たのは、類人猿の鳴き声だろうか。
モンキーセンターによく似た雰囲気だ。
何が言いたいかというと、人こそ居ないがモンスター以外の様々な生き物が生息しているということだ。
カオルとの焼肉パーティーを終えた俺は、現在、ある場所へと向かっている。
だが、そこが何処かは俺も知らない。カオルの言うままに進んでいるだけなのだ。
因みに、カオルは猫であって、猫で無いらしく、焼肉も平気だし、熱い食べ物も平気だという事だった。てか、抑々食べる必要性が無いらしいのだが、食べ物を消化することは出来るようで、懐かしいと言ってバクバク食っていた。
それにしても、顔がヒリヒリするな~。あ、そう言えばあの時か......
そう、俺の顔には見事な三本傷がつけられているのだ。
HPが減らなかったので、気にする事無く放置していたのを思い出した。
あの時は、俺も失敗したと思ったが、カオルも今は機嫌を直している。
何を遣ったかだって?
ああ、それはね...... 端的に言うと、オスメスを確かめてみたんだ。
すると、『何をするんだよ!颯太はデリカシーがないよ!』と引っ掻かれた上に説教まで喰らった訳さ。
結果はメスだったんだけどね。まあ、見ても分からなくてさ。
結局、カオルの『僕は女だよ!』という言葉で、やっと知ることが出来た。
出会った時が骸骨だったんで、勝手に男だと判断していたんだけど、どうやら、カオルは抑々が女だったようだ。
う~~む、悪い事をしたな~~。
それはそうと、俺には気になる事があった。
『そう言えば、カオルは俺の格好に驚かないよな。出会った時も素っ裸だったんだけど』
そう、俺の姿は上から、猫耳、サングラス、黒革のベスト、黒のビキニパンツに猫の尻尾。あとは、グローブと靴、腕や足に装備したアクセサリーといった様相だ。
その事を念話で話し掛けると、俺の腕の中に抱かれている猫が顔を上げる。
猫だとジャングルは歩き辛いだろうと思って、俺が抱いた状態で歩いているのだ。
『ああ、そのことか。だって、僕は先駆者だよ?君の状態は初めから解ってたさ。変態で無い事もね。まあ、ちょっとデリカシーがないのは初めて知ったけど』
なるほどな。カオルは体験者だから驚く事もないのか。
その後も、カオルが来た時の日本の年号やここへ来た切っ掛けなどを聞きながら、目的地に辿り着いたのだった。
目の前には洞窟がある。
何処かで見た事があると思ったら、カオルと初めて出会った場所だった。
あの時は、カオルが消えてから色々と確認してみたが、洞窟には何も無かった。
というか、奥行きも無く、何も無い洞窟だった筈だ。
それに、洞窟から離れると、次に見つける事が出来なかったのだ。
何故、その洞窟へと来たのかというと、カオルにこの島の脱出方法を伝授して貰ったからだ。
『ここから地下を抜けて大陸へと行けるんだよ』
俺の腕の中から、スタッと地面に降りたカオルが教えてくれる。
どうやら、抱かれ続けて身体が硬くなったようで、思いっきり背中を伸ばしていたりする。
『カオルもこの洞窟を抜けて大陸に行ったのか?』
何の気なしに聞いてみたのだが、猫のカオルは首を横に振って否定の念話を飛ばしてきた。
『いや、僕は海を渡ったんだ。それはもう大変だったよ。死ぬかと思ったしね。この地下道は後から見付けたものさ』
『じゃ、カオルもこの洞窟の事は詳しくないという訳なだ』
彼女の否定で、勝手にそう判断したのだが、彼女は再び否定する。
『そうでもないよ。君を迎えに来るために通ったからね』
なるほど、彼女はここを通ってここまで来たんだな。
カオルの言葉に納得していると、彼女は話を続けてきた。
『でも、中にはモンスターが居るから気を付けてね。殆どダンジョンと言っても差し支えない洞窟だからね』
『分かった。気をつけるさ。てか、カオルは戦えるのか?』
『この姿では無理だね』
『じゃ~、どうやってここまで来たんだ?モンスターと遭遇してないとか?』
『いや、洞窟を抜ける時は死神の姿で来たからね。モンスターなんて寄って来ないよ』
どうやら、彼女の本来の姿はモンスターすら寄り付かない程に脅威なのであろう。
まあいい。さっさと進むか。
俺は金属バットを片手に洞窟の中へと入る。
そこは、カオルと初めて会った時とは違い、奥へ続く道があった。
更に、周囲に散りばめられた光源により、洞窟の中は明るいとは言わないまでも、移動に困らないくらいには見通しが利いた。
てか、サングラスのお蔭もあるのだろう。
因みに、光源は発光石という天然の光る石らしい。
何事も無く暫く進むと、一匹の生き物が登場した。
俺の知識と照らし合わせると、恐らく、それはゴブリンという生き物で合っている筈だ。
『ゴブリンだね。弱いから無視してもいいよ』
そのモンスターを見た時に、カオルが軽い口調で伝えてくるが、相手はヤル気満々のようだ。
「ウギャ!ウギャ!ウギャーーー!」
声を張り上げながら、こん棒を持ったゴブリンが襲い掛かってくる。
その攻撃は異様に遅く、そのこん棒にハエが止まるどころか、止まったハエが十回は両手両足を擦り合わせる時間がありそうだった。
俺はそんなゴブリンの攻撃を一歩動く事で避けて、金属バットを横降りにする。
恐ろしい程の速度で繰り出された金属バットがゴブリンの腹に炸裂し、奴は洞窟の壁まで吹き飛ばされると、霞になって消えて行った。
昔の俺なら、弱い者虐めの気分で落ち込んだかも知れないが、今は全く何も感じない。
恐らく、どっぷりと病んでしまった所為だろう。
それは良いとして、ゴブリンの消えた場所には、黒光りする石が落ちていた。
ゆっくりと近付き、それを拾って目の前まで持ち上げる。
その石のサイズはゴルフボールくらいで、砂利のような歪な形をしていた。
即座にアイテム鑑定機能で確認しようとした処でカオルの説明が聞えてくる。
『魔石だね。色々な事に仕えるよ。まあ、売るのが一般的だけどね。あと、黒いのは最低ランクだから、お金に変えても精々が鉄貨二枚といったところかな』
彼女の念話に納得しながら魔石をアイテムボックスにしまうが、お金の価値が解らないので、これの価値が全く理解できない。
お金の単位に関してはヘルプ機能で確認したけど、物の相場も分からないので、唯の単位でしかないのだ。
その単位は簡単で、全てが次のような硬貨だった。
ーーーーーーーーーーー
1鉄貨 =最小単位
1銅貨 =10鉄貨
1大銅貨=10銅貨
1銀貨 =10大銅貨
1大銀貨=10銀貨
1金貨 =10大銀貨
1大金貨=10金貨
ーーーーーーーーーーー
まあ、抑々、お金がいるか? という話だが......
チュートリアルで必要な物資を売る程に掻き集めた所為で、お金が必要な場面が思い浮かばないのだ。
それよりも、時間も限られているし、さっさと先に進むべきだな。
『カオル、この洞窟って一カ月で抜けられるのか?』
俺の質問に、座り込んでいたカオルが顔をこちらに向けて答えてくれる。
『ん~、颯太の実力しだいかな?』
『おいおい、それじゃクリアできないじゃんか』
『まあ、大丈夫じゃないかな』
他人事だと思って気軽に言いやがる。
まあいい。先を急ごう。
洞窟の道は、横にではなく、斜め下にドンドン下がって行く。
恐らくは、海底の更に下を通るのだろう。
既にかなりの時間を費やして下っているが、未だに下り坂のままだ。
それを下る間に何度もモンスターと遭遇したが、これと言って強い敵はおらず、何事も無く倒して進む。
モンスター達は最弱といっても良い程だが、経験値も一という事はなく二十くらいの経験値だった。
更にカオルから貰った指輪があるので一匹で二十万になるが、必要経験値が一兆である事を考えるとゴミのようなものだ。
俺は先を急ぎながら、これからの事についてカオルに尋ねてみる。
『俺はこれから如何すればいいんだ?ただ強くなればいいのか?』
黒猫のカオルは俺の横をせかせかと歩きながら顔を上げて説明してくれる。
『それも重要だけど、君には七つのダンジョンを踏破して貰いたいんだよ』
『それに何か意味があるのか?』
『うん。神と戦うには絶対に必要な事なんだ』
その言葉の真意が分からず訝しく感じていると、彼女は続けて念話してくる。
『あはは。怪しいと思うかい?大丈夫だよ。僕は君を裏切ったりしない。なったって目的が同じだからね。神を殺すという目的が。でも、そうやって疑う事は必要だよ。この世界は狂ってるからね』
どうやら、彼女にはお見通しのようだ。
それに、このゲームの世界は狂っているのか...... てか、チュートリアルから糞ゲーなんだ。この世界が狂っていてもおかしくはない。
『あ、あと、これからのクエストってどんなのがあるんだ?』
大した意味はないが、事前に知っておきたいという気持ちでカオルに聞いてみたのだが、彼女はその黒い頭を横に振る。
『ごめん。これからのゲーム進行は僕も知らないんだ』
『えっ、だって、カオルはこれまで消化してきたんだろ?』
その質問に、猫である筈のカオルの顔が悲しみに満ちた様な気がした。
『実はね。僕は脱出している最中に賢者の石を使ったんだ。そして、気付いたら四十年後だったんだよ。だからその間のクエストなんて知らないのさ』
なるほど、そんな落ちがあったのか。
カオルの言葉で納得したのだが、その後の事も気になり尋ねようとする。
だが、黒猫ちゃんの顔を見た途端、その気持ちも失せてしまった。
そう、黒猫がとても落ち込んでいるように見えたからだ。
恐らく、忘れようにも忘れなられない程の事があったのだろう。
ここは空気を読んで聞かないで置くべきだな。
俺は寂しそうにする黒猫を抱き上げ、その頭を撫でて遣るのだった。
あれから四週間、強敵という程の友は現れず、外気と陽の光を浴びる事に成功する。
すると、空中ディスプレーが自動的に現れてクエスト完了の文字が刻まれていた。
『クエスト完了、おめでとうございます。何事もなく完遂して誠に残念です。次回はもっと楽しませて下さい。これからの旅が楽しいものでありますように!』
何事も無く完遂して残念だと! いや、いい気味だ。とても清々しい気持ちだぜ。
この調子でガンガン奴等を残念がらせてやるぜ。
『どうしたんだい?』
クエスト完了の報告を見て微笑んでいると、黒猫のカオルが念話で声を掛けてきた。
『ああ、何事もなくて残念だとよ。クククっ、それが可笑しくてさ』
『それでか。いつもは凶悪な顔をしてるのに、今は和やかだったから、気が狂ったのかと思ったよ』
なんて言われようだ。てか、凶悪なのか? 俺のスイートな顔が凶悪なのか?
まあいい。取り敢えず、ダンジョンへと向かう事にするか。
『カオル、目的のダンジョンってどこだ?』
だが、カオルは首を横に振った。
『颯太、騙されているよ。クエストは完了していないよ。おかしいな道を間違えた筈はないんだけど』
カオルの言葉は、意気揚々としていた俺の気分をバッサリと切り裂いた。
『如何いうことだ?』
不審に思った俺が問い質すと、カオルは直ぐに答えてくる。
『ここ、出口じゃないんだ。僕も見覚えの無い場所なんだよ』
その言葉に疑問を感じた時だった。
空気どころか、辺りの木々を震わせる程の咆哮が響き渡る。
その音の出所に視線を向けると、巨大な顔をした恐竜が円らな瞳で頻りに辺りを見回している姿が目に入った。
『拙い、ティランだ。逃げよう』
カオルもその恐竜を見付けたのだろう。行き成り逃走しようと進言してくる。
その言葉に俺は疑問を持ってしまう。
何故なら、今の俺なら倒せそうな気がするからだ。
『倒せばいいんじゃないか?』
思った事を正直に口にすると、彼女は首を横に振って説明してくれる。
『恐らく、今の颯太では倒せないと思うよ。確かレベル二百のモンスターだ』
レベル二百だと~~~~~~~~! 俺なんて十だぞ、十!
ふざけやがって、糞ゲーめ!
『あ、出口が......』
カオルの声に来た道へと視線を向けると、そこには唯の岩壁があるだけだった。
「グギャォーーーーーーーーーーーーー!」
今度はティランと呼ばれる恐竜...... って、そのまんまティラノザウルスだが......
そのティランが俺達を見付けたようで、大きな口から涎をバラ撒き、早く食いたいとばかりに、木々を薙ぎ倒しながら走り寄って来る。
それを見た時、やはり糞ゲーは、チュートリアルが完了しても糞ゲーなのだと改めて感じるのだった。
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