第11話 賢者の石
身体に熱さを感じる。
意識は虚ろだったが、体中から感じる熱さで少しずつ覚醒してきた。
ああ、やっとチュートリアルを終わらせたんだったな
さあ、新たなる旅に出るとしよう。
そして、瞼を開けると......
ぐあっ! 目が! 目が! 目が~~~~~~~~!
チュートリアルを完了させたことで油断してしまった。
ゆっくりと身体を起し、瞑っていてもジンジンする目をゆっくりと開く。
そこは......
変わってね~~~~~~~~~~!
そう、そこは見慣れた砂浜だったのだ。
おい、これは一体どういうことだ?
全く以て何も変わっていないではないか。
チュートリアルは終わったんじゃないのか?
この状況に内心で焦りっていると、勝手に空中ディスプレーが開いた。
そして、そこには次のような文字が刻まれていた。
『チュートリアル完了。おめでとうございます。これから高橋颯太様は本番ゲームへと突入します。その前に幾つかの注意事項がありますので、以下の内容を確認の上、了承をクリックしてください』
どうやら、チュートリアルは完了していたようだ。
その事にホッとしながら、ディスプレーの内容を読んでいく。
なになに、本番ゲームでの死亡は消滅を意味します。間違ってもセーブポイントに戻る事はありません。だと~~~!
ちっ、まあいい。その方がスッキリするわ。てか、奴等を始末するまでは死なないけどな。
あとは~~~~。時折クエストが発生します。クエストの受諾は任意によるものとなり、達成すると成功報酬が貰えます。うんなの当り前だろ!ボケっ!
結局、こんな糞ゲーは何処に落とし穴があるか解ったものでは無いから全てに目を通してから了承ボタンをクリックする。
すると、空中ディスプレーが自動的に消える。
これで完全にチュートリアルから逃げ出せたのだろう。
でも、よく考えると、了承しなかったら如何なっていたんだろうか。
まあいい。考えても答えは出ないだろう。
それはそうと、ここは何処だろうか。見た感じだとチュートリアルの砂浜とそっくりなんだが......
う~~~む、それも直ぐには答えが出そうにないし、取り敢えず宝箱を確認して、ステータスの更新とするか。
俺はアイテムボックスから宝箱を取り出し、その蓋を無造作に開いた。
すると、中には拳大のキラキラ光る綺麗な石が入っていた。
それを取り出し、アイテム鑑定に掛ける。
「賢者の石、あなたの力を倍増させる神アイテム......」
名前からして胡散臭い。名前に神が付いた時点で海に投げ込みたくなってきた。
だが、これで強くなるなら、甘んじて受け入れるしかないか......
「え~~と、使用条件は両手に握って踊るだと~~~~~~!死ね!ボケっ!カスっ!」
怒りの余り、思わず賢者の石を海に向けて投げる。
放物線を描いて飛んで行った賢者の石は、ちゃぷんと音を立てて海に沈んでいったのだった。
暫く押し寄せる波を眺めていたのだが、ふと、正気に戻ってしまった。
「あ~~~~~~~!やべ~~~~~~!マジで投げちまったぞ!」
慌てて立ち上がり、焦って海に潜って賢者の石を探す。
幸い遠浅であり、水が綺麗なこともあって、賢者の石を直ぐに見つける事ができた。
そして、身体の半分を海に沈めたまま、己に言い聞かせる。
くそっ、悔しい、でも強くなるためだ。甘んじて受け入れるのだろう? ここで腹立たしさに負けて海に放り込んだら、きっと後で泣く事になる筈だ。
まあ、既に一度は海に放り込んでいるが......
俺は意を決して、賢者の石を両手に握り砂浜へと戻る。
でも、何を踊ればいいんだ? まあいいか。どうせ見ている神が笑えればオーケーなんだろう。くそっボケが!
じゃ...... てか、踊りを何にも知らなかった...... だめじゃん......
まあいい。適当に踊るか!
再び賢者の石を握りしめ、砂浜で踊りだそうとした瞬間。
俺の脳裏に知った声が響き渡る。
『だめ~~~~~~~~~!踊っちゃだめ~~~~~~!』
どうやら、死神カオルが見ているようだ。というか、ここに現れたのか?
何処に居るんだろう? そう言えば、待ってるとか言ってたよな?
そんな疑問を持ちながら周囲を見回すと、姿は見えずとも声だけが脳裏に響く。
『絶対に踊っちゃだめだからね。というか、そんな石、海に捨てた方がいいよ』
カオル曰く、賢者の石を使ってはいけないらしい。
どうも踊りを知らない事が功を奏したようだ。
てか、踊りを知らなくて得をするとは思ってもみなかった。
それよりも、カオルの姿が見当たらないのだが......
俺が再び周囲を見回すと、ジャングルの草むらに、ちょっとだけ動く黒い物が見えた。
ゆっくりと近付きながら、その黒い物体を確認すると、それは尻尾の長い黒猫だった。
猫の事は詳しくないが、きっと大人の猫なのだろう。
しなやかな身体に、艶のある短い毛並みが美しく輝いている。
きっと、シャンプーとリンスに余念がないのだろう。って、そんな物はこの世界にはないか......
「もしかして、かお『だめ、声に出さないで』」
ああ、そう言えばそんな事を言っていたな。
『もしかして、カオルか?』
『そうだよ。間に合って良かったよ。というか、先に言えば良かったね。賢者の石を使っちゃダメだって』
カオルはちょこんと座ると、申し訳なさそうな雰囲気で伝えてくる。
それにしても、その仕草とか見た目がとても可愛いのだが、抱き上げても良いのだろうか?
いやいや、今はそれ処では無いのだ。
『なんで、これを使っちゃ駄目なんだ?』
俺はお手玉でもするように、その石を両手で交互に放りながら、黒猫の姿となっているカオルに尋ねる。
『それはね。精神を狂わすんだ。確かに力は強くなるけど、精神が壊れるからね』
『あいつ等は、なんでそんな物を渡して使えとか言うんだ?』
『ああ、後で正気に戻って後悔する姿を見たいのさ』
ぬぐぐぐぐぐ! やはり最悪の奴等だな。初めに感じた胡散臭さは間違いでは無かったんだな。
俺は賢者の石を再び海に放り込もうとしたが、途中で手が止まった。
何故だか捨ててはいけないような気がしたのだ。
だから、その石をアイテムボックスに仕舞い、ロック機能で間違って取り出したり出来ないように設定する。
『それはそうと、なんで出てこないんだ?』
『ここでノコノコと出て行くと、流石に不審がられるからね。ジャングルなら他にも動物やモンスターが居るから、大丈夫だけどね』
『なるほどな』
『というか、君の名前をまだ聞いてなかったね。僕の名前はこの前に教えたよね。
おいおい、自分の苗字を忘れるか? まあいい。
『俺は高橋颯太だ』
『高橋颯太ね~~~。石を投げれば当たりそうなくらいに有り勝ちな名前だね』
『ああ、よく言われるわ。抑々、高橋って苗字が多すぎるんだ。それより、カオルって何歳なんだ?タメ口でも平気なのか?』
『僕の齢かい?分かんないよ。自分でも良く分からないんだ。七百歳くらいまでは覚えてたんだけどね。タメ口は問題ないよ。その方が僕も気が楽だし』
てか、なんちゅ~~齢じゃ、そら苗字も忘れるわな。
そんな事よりも、これからについての方が大事だな。
『それはそうと、これから如何すればいいんだ?』
『ああ、それなら気にする事は無いよ。直ぐに遣る事が生まれるから』
カオルの言葉に首を傾げていると、インターホンの様な音と共に空中ディスプレーが表示された。
『クエストが発行されました』
どうやら、クレストが発生したみたいだ。
内容はと......
この無人島を脱出しろ! 期限は一カ月! 成功報酬は命って何だよ!
こんなのクエストでも何でもないじゃね~~か! 糞ゲーか~~~! って、そう言えば、ここって糞ゲーの中だった。
「ちっ!死ねよ!ボケっ!」
『ああ、どうやら脱出クエストが発生したみたいだね』
『カオルもやったのか?』
『勿論やったさ』
カオルの返事を聞きながら、空中ディスプレーを見ていると、ある事に気付いた。
『カオル~~!クエストの最後に受諾と拒否があるんだけど、この場合って拒否を押したら消滅するのか?』
『あはははは。気になるよね。あまり覚えてないけど、確か僕も気になったような気がするよ。試しに押してみれば?この糞ゲーって、そういうので即死って、まず起きないから押してみると良いよ』
この猫、他人事だと思って好き勝手に言いやがって~~~。って、死神だったよな?
まあいい。カオルが気軽に言ってるんだ。死ぬ事はないだろう。
おりゃ~~~~~~~~!
「ぽちっとな~~~~~!」
俺は拒否を押してみた。
すると、空中ディスプレーに『受諾。有難う御座いました。また、確認画面で残り期限のカウントを見ることが出来ます』と表示された。
「受諾も拒否もね~じゃね~か!くそボケが~~~~~~~!」
『確か、これからもずっとそうだけど、もしかしたら罠が在るかも知れないから拒否しない方が良いよ』
こらこらこら! カオル! 押した後に何言ってるんだ! バカちん!
『それはそうと、さっさとステータスの更新とスキル習得して脱出しないと!時間が勿体ないよ?』
おお~~そうだった。この猫、いや、死神、俺の意識を戻すのが得意だな。
まあ、ステータスはいつもの事なので、はい、LUKと。
次にスキルだな~~~。
『カオル~~~、先に取っておいた方が良いスキルって何がある?』
『う~~ん、回復とか解毒、解呪かな~~。多分、颯太の力なら戦闘よりも保護系が必要になるかも』
なるほどな。だったら、複合魔法を一つ取って、後は保護系の魔法をと。
良しで来た~~~!
じゃ、最終確認と行くか。
――――――――――――――――――
名前:高橋 颯太(タカハシ ソウタ)
種族:人間
年齢:19歳
称号:変態
――――――――――――――――――
LV:10
HP:650/650
MP:650/650
――――――――――――――――――
STR:4438/0/32
VIT:4125/0/32
AGI:4266/0/44
DEX:4653/0/32
INT:1841/0/10
LUK:40/640/10
――――――――――――――――――
EX:9,990/1,000,000,000,000
――――――――――――――――――
PT:0
――――――――――――――――――
<スキル>
回復5 MP10/HP50×184
解毒2 MP4/40%
解呪2 MP4/40%
火魔法5 MP10/MATK100×184
土魔法5 MP10/MATK100×184
水魔法5 MP10/MATK100×184
風魔法5 MP10/MATK100×184
雷撃5 MP20/MATK200×184
炎竜巻5 MP20/MATK200×184
鈍器攻撃強化5 ATK+100%
バーストアタック5 MP10/ATK+100%
超バースト5 MP60/ATK+600%
ヒート5 MP10/+100%
ハイヒート5 MP30/+200%
――――――――――――――――――
<装備>
金属バット
俊敏の靴 AGI+10
屈強のグローブ STR+5 DEX+5
障壁の腕輪
強力の腕輪
加速のアンクレット
跳躍のアンクレット
黒猫耳 LUK+10
黒猫尻尾 AGI+10
サングラス
黒革のベスト VIT+20
黒革のビキニパンツ
黒いローブ
――――――――――――――――――
アイテムボックス 110マス×9,999
――――――――――――――――――
さて、ステータス更新とスキルの習得も終わったし、それじゃこれら頑張って神を滅ぼす力を手に入れるとするか。
おっと、その前に腹ごしらえだな。
という事で、俺は本番ゲームを始める前に、カオルと二人で焼肉パーティーを行うのだった。
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