第10話 チュートリアルクリア
あれから一カ月半の時が過ぎた。
狩りの方は順調だ。
敵の強さ自体は大したことは無い。
ただ、餌を与えたり、一度に沢山の敵を相手にする必要があるので、とても面倒なだけだ。
因みに、餌を与えなかった場合のドロップは、蛇の蒲焼と毒消し薬だった。まあ、殆んどは餌を与えた蛇なので、ドロップ無しなのが基本だな。
でも、必要な物は揃ってるし、食べ物も店を開ける程にあるので、アイテムには関心が薄かったりする。
「おっと、やっぱり考え事をしながらのボス戦は拙いな」
ちょっと振り返っている間に、ボス大蛇から攻撃を受けてしまった。
「回復イチ!」
HPが少ないので、回復一で十分なのだ...... てか、INTの加算があるので、回復一でもHPが千以上回復するからな。
「今度はお前が喰らえ!ハイヒート!加速!強化!超バースト!」
フルコンボでボス大蛇に攻撃を喰らわす。
あ、終わっちまったよ...... まあ、フルコンボだと一撃三万ポイントを超えるからな~。そら、即死になるわな。
結局、最後は一撃で終了となり、ボス大蛇は霞となって消えて行く。
「さて、次でラストだ。頑張るぞ!」
ボスから出た宝箱を拾い、いつもの様に俺も霞となって砂浜に戻る。
「さて、いつもの工程ね。もう面倒臭いし、砂浜の宝箱は要らないんだが......」
マーフィーの法則を逆手に取るために、そう言いつつも砂浜をサクサクと歩いて行く。
予定通りの宝箱にホッとすることも無く、無造作に蓋を開ける。
「なにこれ?」
宝箱の中には小さな布袋が入っていた。
拾い上げると結構な重さを感じて、即座に紐で縛られた口を広げて中を確認する。
「ほう~~、金貨か。おお、十枚も入ってる。以外に気の利いた物だったな」
そう、宝箱ならではのアイテムであり、一番真面なパターンだと言えるだろう。
それでも喜び勇む程の物でもないので、アイテムボックスに放り込んで終いとする。
「さて、次はボスドロップだな。期待すると外れるからな~~~」
そんな事を口走りながらも、若干期待しながら蓋を開けると、今度も小さい布が入っていた。
「なにこれ?黒い布みたいだけど」
その布切れを両手で広げてみて、初めてその物体の正体を理解した。
「おいおいおい。やっと下着が出たかと思ったら......ビキニパンツかよ」
それは布ではなく革で出来たビキニパンツだった。
更には、ご丁寧にも尻尾の穴が空いていたのだ。
「死ねよ!けっ」
それでもフルチンよりはマシなので、透かさずパンツを穿く。
『変態キターーーーーーーーーーーー!』
『猫耳、ビキニパンツーーーーーーー!ぎゃはははははははは』
『もう勘弁して、無理だから、お腹が裂けそうだから、クククク。あはははははは』
『どう見ても変態ですね。後ろから見ても、前から見ても、変態臭が一万パーセントですね。きゃははははは』
どうやら、これは幻聴ではないようだ。
微かに聞こえてくるこの嘲りの声は、きっと神達なのだろう。
ぬぐぐぐぐぐぐ~~~~! いや、我慢だ。ここで騒いでも喜ぶだけだ。この怒りを何時かの為に取っておこう。この怒りを成長の為に使おう。この怒りをチュートリアルクリアの糧にしよう。
「殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!」
俺は聞こえないくらいの声で念仏を唱えるように呪詛を吐き出す。
あ~~~、カオルと出会って回復の方向にあった病が、再び俺の心を蝕んでいく。
何もかもが憎い。この砂浜も憎い。あの太陽も憎い。あのジャングルも憎い。そして、神々が一番憎い。あれは憎悪の対象だ。何時か後悔させてやる。だが、後悔しても許さん。一ミリたりともこの世に残して堪るか。
自分では解らないが、ここに鏡があったら自分の人相を見て慄いただろう。
「ふんっ、笑いたければ笑え。この憎しみを一万倍にして返してやる」
そんな言葉を小さな声で囁きながら、俺は気持ちを入れ替えてステータスとスキルの更新を行う事にした。
ステータスは何時もの事なのでLUK命で良いとして、問題はスキルなのだ。
やはり、物理攻撃では殲滅力が足らないのだ。特に数の多い敵を相手にした時には、一撃の威力が大きくてもあまり意味がないと言える。
だから、残りの属性魔法である風魔法を習得したのだが、それを取ったら複合魔法というスキルが出てきた。
その内容は、雷撃、火炎石、炎竜巻、奈落、という四つの範囲攻撃用の魔法だった。
どれが良いか悩んだが、結局は使い勝手の良さそうな雷撃を一番に取得する事にした。
という事で、ステータスの最終確認を行う。
------------------
名前:高橋 颯太(タカハシ ソウタ)
種族:人間
年齢:18歳
称号:変態
------------------
LV:9
HP:550/550
MP:550/550
------------------
STR:4127/0/27
VIT:3824/0/30
AGI:3946/0/39
DEX:4208/0/27
INT:1451/0/8
LUK:40/540/10
------------------
EX:9,990/100,000,000,000
------------------
PT:0
------------------
[スキル]
回復5 MP10/HP50×145
火魔法5 MP10/MATK100×145
土魔法5 MP10/MATK100×145
水魔法5 MP10/MATK100×145
風魔法5 MP10/MATK100×145
雷撃4 MP18/MATK180×145
鈍器攻撃強化5 ATK+100%
バーストアタック5 MP10/ATK+100%
超バースト5 MP60/ATK+600%
ヒート5 MP10/+100%
ハイヒート5 MP30/+200%
------------------
<装備>
金属バット
俊敏の靴
屈強のグローブ
障壁の腕輪
強力の腕輪
加速のアンクレット
跳躍のアンクレット
黒猫耳
黒猫尻尾
サングラス
黒革のベスト
黒革のビキニパンツ
------------------
アイテムボックス 100マス×9,000
------------------
称号に付いては、見る前から解っていた。大して頭を使わなくても、こうなることは誰にでも予測できることだろう。
今更、文句を言う気も無いので、スルーさせてくれ。
他は~~~、EXの桁が半端ないという事くらいだな。
さあ、狩りにでも行こう。
さて、今回のモンスターは何かな~。
ああ、ノーズリングの素敵なお牛さんですか。
まあまあ、そんなに鼻息を荒くせずに、これでも食べて下さい。
そんな調子で大きな槌を持ったミノタウロスにイノシシの肉を放り投げる。
「あれ?肉が嫌いなのかな?」
どうやら、肉食じゃ~ないようだ。
それなら、これでどうだ。
俺はアイテムボックスから出したキャベツを放る。
すると、ミノタウロスが目をハート形にして飛び付いた。
「あ~あ~そんなに涎を垂らして行儀が悪いな~~~~~」
どうやら、ここのミノタウロスはベジタリアンだったようだ。
ガシガシとキャベツを丸ごと齧っている。
おっ、満足したようだ。分裂を始めたぞ。
「ヒート!加速!強化!」
このくらいのモンスターならハイヒートやバーストを使う必要も無い。
一瞬のうちに十匹のミノタウロスを始末してステータスを確認する。
えっ? なにこれ? 一匹で百万ポイント入ってる...... 十匹で一千万ポイントだぞ?
そう、分裂ミノタウロスのポイントは桁外れだった。
もしかしたら、抑々のポイントは高いのに、無理矢理一ポイントにしているのかも知れない。もし、カオルから貰った指輪が無かったら、一匹が千ポイントという事になるので、妥当だと言えなくもない。
「まあいいか。サクサクっと狩っちまおう」
こうしてジャングル牧場でミノタウロスを狩り始めたのだが、こいつのドロップが余りにも良い事を知り、暫くは普通に狩る事にした。
何と言っても、タン、カルビ、ハラミ、ロース、中落ち、万能薬をランダムで落とすのだ。それを大量にストックしない手は無い。
という事で、カオルには悪いが十日ほど普通の狩りをさせて貰った。
「うは~~~牛の肉でアイテムボックスが......まあいいか。でも、焼肉屋を開けるくらい集まったぞ」
誰に言うでもなく、独り言を発動させながら狩りを続けていたのだが、行き成りカオルから連絡が入った。
『まだやってるの?そろそろじゃない?こっちは準備万端だよ?』
うは~~~! カオルは既に待ち構えているようだ。
『悪い。あと二十日くらいで終わらせるから』
『ふ~~ん。もしかして牛肉に目を眩ませてるなんて事は無いよね?』
やべ~~~。お見通しらしい。流石は経験者。
『そ、そ、そんなこと、ある訳ね~~じゃん』
『ならいいんだけどね~~~~。多分、飛ばされる処は僕と同じだろうから、二十日後にそこへ行ってみるよ』
『わ、分かった。じゃ、そこで会おう』
『じゃ、頑張ってね』
『ああ、お前も気を付けろよ』
どうやら、カオルはチュートリアル終了後の転送先に目星を付けているようだ。
なら、俺も本気で遣らないと拙いな。
色々助けて貰ってるし、待たせる訳にはいかないだろう。
こうして俺は本気の狩りを再開するのだった。
牛の鳴き声が轟く。
でも、容赦はしない。全て屠殺するのだ。
「さあさあさあ、掛かって来い!この牛ども!牛丼にしてくれるわ!」
何故、牛丼なのかは俺にも解らない。ただのノリだ。
「ブモーーーーーーー!」
「うりゃ!」
大きな斧を振り下ろしてくる牛の横っ面に金属バットをぶち込む。
そんな俺の後ろから、大きな槌を振り翳してくる牛に、振り向きもせずに魔法を喰らわす。
「炎よ!」
すると、俺の手から打ち出された炎の塊が牛を丸焼きにする。
何故か焼肉屋の匂いが漂うが、涎を拭きながら次の牛を叩き潰す。
「お~~~~~ら、牛のタタキじゃ~~~~!」
もう完全に精神が逝っているようだ。
だって、腹が減ってさ、我慢できないんだよ~~~~~!
だが、あと少しだ。あと少しでボス登場だ。
そう、俺の計算だと、この牛を倒したらボス登場の筈だ。
「おりゃ~~~~!肉出せや~~~~~~!」
現在の牛は取得経験値の調整をしているので、アイテムを食わせていない。だから、ドロップアイテムが発生するのだ。
しかし、最後の牛が出したのは万能薬だった......
「ちっ、俺のLUKはどうなっとんじゃ~~~」
まあいい。これで、次はボス登場だ。
「ブモォーーーーーーーーーー!」
おおおお、でけ~~~~~! 三メートルくらいある巨大なミノタウロスが登場した。
「なに喰ったらそんなにデカくなるんだ? 俺に秘訣を教えろよ!」
そんな俺の要望に応える訳もなく、ボス牛は俺よりデカイ槌を振り下ろしてきた。
「ぐは!はえ~じゃね~か!ハイヒート!加速!跳躍!」
ボス牛の攻撃を躱すためにスキルとアイテム能力を発動させる。
「やべ~~~紙一重じゃね~か。だが、次は俺から行くぜ!」
槌を振り下ろした状態のボス牛の背後に回り込みながら攻撃する。
「加速!跳躍!強化!超バースト!」
見事に決まると思った瞬間、槌から手を離した牛の拳が飛んでくる。
「くっ!シールド!」
無理矢理、左手を放してシールドで回避するが、その勢いは驚異的であり、宙にある俺をシールドごと吹き飛ばす。
「ちっ、回復イチ!加速!」
着地と同時に自分に回復を掛けながら、牛の次なる攻撃を躱す。
思ったより頭が良いし、攻撃速度も速くて大技を叩き込むのは難しそうだ。
「なら、雷!」
俺は左手をボス牛に向けて雷の魔法を放つ。
これは流石に避けられ無いようで、稲妻をモロに喰らったボス牛が煙を上げている。
「加速!強化!」
その隙を逃したりしない。すぐさまアイテム能力を使い、敵の後ろに回り込み、今度はコンパクトな打撃を撃ち込む。
「ブモォーーーーーーー!」
「うっせ~~~!」
俺の攻撃が効いたのか、ボス牛が咆哮を上げるが、俺は構わず攻撃を繰り返す。
「加速!雷!」
再び放った雷魔法が空気を震わせ、轟音を立てて煌く。
それを喰らったボス牛は、身体が痺れたのか動きを止めてしまう。
「チャンスか......加速!強化!超バースト!」
動きの止まったボス牛の後ろから渾身の一撃を叩き込もうとした処で、ボス牛の顔がニヤリとする。
そう、その隙は誘いだったのだ。
「ブモォーーーーーーーーーー!」
咆哮を上げたボス牛は起死回生の一撃とばかりに、巨大な槌で渾身の一撃を放ってくる。だが、その攻撃は無情にも疾風となった俺には届かなかった。
「誘いだって、分かってたぜ?加速!強化!超バースト!喰らいな」
渾身の一撃がボス牛を捉える。
だが、ボス牛は消滅しない。それを知った俺がボス牛のHPを確認すると半分を切った処だった。
「こいつのHPは十万以上あるんじゃね~か?タフ過ぎるだろ。少し俺に寄こせよ!」
ボス牛のHPに脅威を感じながらも動じる事は無い。逆に笑みが零れてしまいそうだ。
「楽しいじゃね~か!久々だぜ、こんなに遣り合うのもよ~~~!」
そうなのだ。既に俺は壊れているのだ。頭のネジが飛んでるのだ。それだけじゃない。倫理や道徳なんて事すらも脳みそから漏れ出して、最早、戦いと復讐が殆どを占めているのだ。いや、もう戦いと復讐で俺が出来上がってると言っても過言ではないだろう。
既に、生活に付随する食べる楽しみや寝る楽しみなんて、ほんの余興でしかないのだ。
「さ~て、幕を下ろすとするか~~~~!」
「ブモォーーーーーーーーーー!」
俺の叫びに、呼応するようにボス牛が槌を構えて咆哮をあげる。
「ハイヒート!雷!加速!強化!」
巨大な槌を抱え上げたボス牛に雷撃を喰らわせながら、俺は加速でボス牛に突っ込む!
最早、ボス牛が雷撃で止まろうが、動こうが関係ない。俺が奴より速い攻撃をすればいいだけなのだ。
「加速!強化!超バースト!」
ボス牛の正面に突っ込んだ俺は、奴の槌の振り下ろしを紙一重で躱すと渾身の一撃を見舞う。
「ブモッ」
奴はその攻撃に耐える事が出来ず、涎を撒き散らしながら呻き声を上げた。
次の瞬間、オス牛はキラキラする粒子となって消えて行く。
「あばよ。お前は強かったぜ!」
「ブモッ」
俺の言葉の意味が解ったのかどうかは知らない。だが、ボス牛は一声だけ漏らし、霞となって消えて行った。
よし、これでチュートリアル終了だな。
俺はボス牛が消えた後に出現した宝箱とアイテムを拾った。
何故か今回はアイテムも落ちていたのだ。
そのアイテムは唯の黒いローブだったのだが、真面な服を持っていない俺に取っては最高の贈り物に思えた。
「サンクス!ボス牛!お前は最高だ!」
その声を最後に俺も霞となって消えていく。
カオルの話だと、今度の行先は灼熱の砂浜ではないのだろう。
まあいい。辿り着くまでは安らかに眠れる。
「あばよ! チュートリアル! 絶対に叩き壊してやるからな!」
声に出ていたかどうかは知らないが、消えゆく意識の中でそんな言葉を口にしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます