第9話 チュートリアルその9


 偽物だと知っていても、夜空は綺麗なものだ。

 星々たちが争うように輝き、自分を見てくれと瞬いている。


 そんな星達をジャングルの中から眺めていた。

 いや、正確に言うなら、これからの事を考えながら眺めていたのだ。

 何を考えていたかというと、取得経験値と討伐数についてだ。

 カオルからの贈り物があったけど、それでもどう考えでも、こんな糞なチュートリアルをクリアできると思えないのだ。

 ハッキリ言って絶望的だ。というか、カオルはどうやってクリアしたのだろうか。

 あの死神はこのチュートリアルを唯一達成した者だと言っていた。

 何か方法があるのだろうか。

 色々と考えてみたが、やはり解決方法は見つからなかった。


「はぁ~~~~、解んね~~~~~~~~~~!くそ~~~~~~!」


 溜息を吐きながらぼやいてみるが、何も変わらない。

 結局は、諦めて大人しく寝る事にしたのだった。







 そんな悩みを抱えた状態で、今日も日昇から日没まで必死に狩りをしたのだが、ひょんなことからそのバグを発見する事となったのだ。

 その事実を知った時、俺は愕然としちまった。俺は今まで何を遣っていたのだろうかと。そんな思いで潰れそうになった程だったぜ。

 それに気付いた出来事は、その日の晩飯を作っている時に起こった。


 日没で狩りを終わらせ、ジャングルの中でテントを出して食事の準備をしていたのだが、そこに数匹の虎が襲って来た。

 俺は瞬時にその攻撃を避けたのだが、晩飯の方は逃げる事が出来る筈も無く、無情にもモンスターに喰われてしまったのだ

 その途端、その虎に異変が起きた。

 それは、一匹が十匹に分裂したのだ。


「おいおい、それはどんな手品だ?てか、俺の晩飯......死ねやこら~~~!」


 そうして、難なく分裂した虎も含め全ての虎を倒したのだが、分裂した虎はアイテムをドロップしなかった。

 その事を不審に思い、取得経験値の方を確認したのだが、取得経験値は問題なく増えていた。いや、問題があるのかな?

 そう、異常な増え方をしていたんだ。

 これまでは、カオルから貰った指輪のお蔭もあって、一匹で千ポイントを獲得していたんだが、分裂後の敵は一匹で一万ポイントの経験値を叩き出していた。


 もしかして、ドロップアイテムである肉を食ったから...... 普通のモンスターに変わったとか?いや、理由は解らない。でも、試してみる価値はある。

 そんな事を考えながら、その日の夕食は在り物で済ませて、さっさと寝ることにした。



 翌日、ジャングルの中で一匹の虎を釣り出してくる。

 それにイノシシの肉を与えると、何故か喜んでハグハグと食べている。


「こうやってみると、可愛いものだな。殺すのが可哀想になってくる。だが、始末する」


 情け容赦ない言葉を吐き出しながら、虎が分裂するのを確認すると、金属バットを構える。

 それ見た虎が襲い掛かってくるが、今更十匹の虎なんて敵ではない。

 さくっと片付けて経験値を確認する。すると、一気に十万ポイントも増えていた。

 やはり、理由は解らないがドロップアイテムを食べて分裂した敵は経験値が上がるのだ。

 その時だった。頭の中で声が響く。


『気付いたようだね。ああ、声に出さないでね。念じて貰えばこちらにも通じるから』


 それは、死神であるカオルの声だった。


『お前は知っていたのか?』


『うん。僕はその手でクリアしたからね』


『だったら、早く教えてくれたらいいのに』


 カオルの台詞に思わず愚痴が出てしまう。だが、カオルはその言葉に怒る事無く、笑いながら答えてくれた。


『あははは、少しは基礎値を上げないと後がキツイからね。もう少し経って気付かなかったら教えてあげる積りだったんだ』


 そうか。これを知っていれば、基礎値がそれほど上がらなくても、何とかなる可能性があるもんな。


『僕は君に力を付けて貰いたかったんだよ。でも、悪かったね』


『いや、指輪まで貰っているのに文句は言えね~』


 そうだよな。指輪がないと虎を倒す力すら得られなかったんだからな。

 改めて自分に言い聞かせていると、カオルが警告をしてきた。


『その手段を使うのは良いけど、ボスは倒してね。そうしないとレアアイテムが手に入らないからね』


 うっ、そうだった。これでサクッとレベルが上がったら、ボスと遭遇するタイミングが無くなる。

 そうなると、ボスからの宝箱を得られなくなるんだった。

 あぶね~~~。忠告されなかったら、サクッと上げた可能性があるな。いや、きっと調子に乗ってサクサク上げただろう。


『サンキュ。忠告のお蔭で助かったぜ』


『あはは。役に立てたのなら良かった。もう、随分と基礎値も上がっただろ?そろそろ終わらせてしまいな。僕も向こうで待ってるから』


『あれ?あんまり接触できないんじゃ?』


『少し方法を考えてみたのさ。まあ、向こうで会ってのお楽しみだ』


『分かった。多分、半年くらいで何とかなりそうだ』


『そう?じゃ、楽しみにしておくよ。それじゃ。死なないようにって......そこで死ぬ事はないか......それじゃ!』


『ああ、色々とありがとう。向こうに行ったら改めて礼をするわ』


 こうしてカオルとの念話が終わった。

 一人ぼっちの俺は、あいつと話が出来ると妙に心が躍る気がする。

 同じ境遇の者だからだろうか。まあ、今は仲間だからな。神を殺すという。クククッ! あはははは!







 裏技が判明してからは早かった。

 数回程この裏技を使って、後は普通に狩りをしていると、ボスがノソノソと出て来た。

 まあ、今更、俺の敵ではないので、簡単に片づける。


「ヒート!加速!」


 ステータス上昇スキルと加速能力を発動させ、ボス虎の一撃を躱すと透かさず攻撃スキルを発動させる。


「強化!超バースト!」


 その一撃を真面に喰らったボス虎は、ヨタヨタとふらついている。

 それも仕方あるまい。一気にHPが半分になってるからな。


「加速!強化!超バースト!」


 弱っている処を透かさず、同じ攻撃で始末する。

 ボス虎は俺の動きに付いてこれず、あっという間に霞となって消えて行った。


「悪いな。俺も仲間を待たせてるんでね」


 おっと、失言だった。だが、どうせ俺の台詞なんてもう真面じゃないと思っている事だろう。

 そんな事を考えながら、ボス虎から出た宝箱を拾うと俺も霞になって消えて行く。

 そして、いつもの灼熱砂浜と戻るのだ。




「あっち!相変わらずここは糞熱いな。死ねばいいのに。いや、俺が始末してやるぜ」


 レベルアップにより砂浜に戻ったのだが、相変わらずの熱さに辟易しながら砂浜の宝箱に向かう。

 まあ、これには最早期待していない。

 蓋を開けてみたが、案の定、意味の無い物だった。


「サングラスだってよ。なんの意味があんの?馬鹿じゃね?」


 毒を吐きながら鑑定したのだが、ちょっと驚いた。いや、機能的には嬉しいのだが、意味の解らない設定だ。

 サングラスなのに、暗視能力向上だってよ......

 普通、夜にサングラス掛けたら真っ暗で見えないだろう。

 もう、頭が湧いているとしか思えん。


「まあいいや。どうせ掛けろってことだろ。はいはい。掛けますよ。笑いたければどうぞ!死ねボケ!」


 誰ともなく罵声を浴びせながらサングラスを掛ける。

 まあ、恥ずかしい格好をしているので、素顔を隠すのに丁度良いと言えるかもしれない。

 因みにサングラスは外せた。外せるものと外せない物の違いは、如何いう基準なのだろうか。


 よし、砂浜宝石箱の次は、ドロップ宝石箱だ。

 さあさあさあ、オープンするかな。


「ほれ!お、お、お、服がきた。いや、喜んでは駄目だ」


 俺は必死に喜びを抑え込んで、アイテムを取り出す。そして、そのアイテムが何かを知って絶句する。


 駄目だ。怒りを口にすると、見ている奴等が喜ぶんだ。

 我慢、我慢、我慢、我慢できるか~~~~~~~~!!!


「死ね!ボケ!いつか酷い目に遭わせてやるからな!糞ゴミが!」


 そう、中なら出て来たのは、下着ではなく黒い皮のベストだった。

 フルチンにこれを着ろという事なのだろう。

 嫌がらせにも程がある。

 今頃、向こうはゲラゲラ笑ってるんだろうな。


「ちっ、死ね!いや、いつか殺してやる」


 俺は罵声と毒を垂れ流しながら、黒い革ベストを着る。

 物自体は良さそうだしカッコ良いのだが、何といっても下はフルチンなのだ。


 抑えろ、抑えろ、抑えろ、抑えろ、ぬぬぬぬぬ~~~~~。


 まあいい。気を取り直して、ステータスとスキルの更新と行こう。

 とは言っても、ゲットしたポイントは全てLUKに注ぎ込む。

 あれ? LUKが十も上がってるや、なんでだろう? もしかして裏技を見付けたからか?

 悩んでも解決する事でもないから棚上げだな。


 さて、スキルだが、まずは超バーストをカンストだな。

 次に、ハイヒートを取ろう。五分の間、ステータスがプラス二百になるのはデカい。

 あとは、補助系も欲しいけど、ここは攻撃魔法を取る事にしよう。

 という事で、ステータスとスキルは完了だ。


 ------------------

 名前:高橋 颯太(タカハシ ソウタ)

 種族:人間

 年齢:18歳

 称号:フルチン

 ------------------

 LV:8

 HP:450/450

 MP:450/450

 ------------------

 STR:3620/0/22

 VIT:3265/0/28

 AGI:3460/0/34

 DEX:3814/0/22

 INT:1024/0/7

 LUK:40/440/10

 ------------------

 EX:9,990/10,000,000,000

 ------------------

 PT:0

 ------------------

[スキル]

 回復5 MP10/HP50×102

 火魔法5 MP10/MATK100×102

 土魔法5 MP10/MATK100×102

 水魔法4 MP8/MATK80×102

 鈍器攻撃強化5 ATK+100%

 バーストアタック5 MP10/ATK+100%

 超バースト5 MP60/ATK+600%

 ヒート5 MP10/+100%

 ハイヒート5 MP30/+200%

 ------------------

 <装備>

 金属バット

 俊敏の靴 AGI+10

 屈強のグローブ STR+5 DEX+5

 障壁の腕輪

 強力の腕輪

 加速のアンクレット

 跳躍のアンクレット

 黒猫耳 LUK+10

 黒猫尻尾 AGI+10

 サングラス

 黒革のベスト VIT+20

 ------------------

 アイテムボックス 90マス×8000

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 自分で見ていても惚れ惚れする内容となって来たが、神が相手ならこれの倍以上になる必要があるんだろうな。

 そこは、カオルと会った時に聞くとしよう。

 という事で、さっさと狩りに行くぜ。



 レベルも八なり、基礎値もかなりのものとなったし、意気揚々とジャングルに入る。

 すると、一匹の蛇と出会った。


 ああ、今回の敵は大蛇なのね。


 俺は早速、アイテムボックスから実績のあるイノシシの肉を取り出し、蛇に放り投げる。

 大蛇は、その肉を空中で銜え込み、上機嫌で飲み込んでいく。

 なんだか、とても嬉しそうに見える。が、このあとで始末するのだ。

 さてはて、予定通りに十匹に分裂したのだが、こいつは意外と俊敏で厄介だ。


「ハイヒート!加速!」


 取得したばかりのハイヒートを使い、更に加速を掛けて蛇の攻撃を躱して次々と蛇を叩き潰していく。

 蛇もなかなかの速度だったが、スキルとアイテム能力を使った俺には敵わない。

 あっという間に十匹の蛇を倒して、ステータスを確認する。


 ぬは~~~~~~~! マジか! なんでやねん!


 俺が驚いた理由は、思いのほか経験値が入って所為だ。

 なんと、一匹で十万ポイントが入っていたのだ。だから、十匹で百万ポイントが入った。

 だが、今回の必要経験値は百億ポイントだから......一日二千匹倒しても二カ月近くかかる計算だ。

 それに、肉を食わせる必要があるので、手間が掛かるのだ。

 恐らく、どれだけ頑張っても一日五千も狩れないだろう。

 それでも何年も掛かるよりはマシだから我慢する外ない。


 こうして俺は餌付けを行いながらの狩りを始めるのだった。


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