第8話 チュートリアルその8

 金属バットが唸りを上げる。

 最近気付いたのだが、どうやらこの武器は破壊不可のようで、どれだけ無茶な扱いをしても凹むことすらない。


 まあ、それは良いとして、俺の攻撃を受けたクマが倒れる。

 霞となって消えた処には、クマ肉が転がっているのだが、これって食えるのか?

 そんな疑問を抱きながら、草を掻き分けてジャングルを進み、次のターゲットであるクマを探す。


 最早、レベルアップで感動することも無い。

 あるのは、死神カオルから貰った指輪をもってしても、信じられないと思えるノルマだ。

 そう、今回は約十万匹のモンスターを倒さなければならないのだ。

 その数を考えると気が狂いそうになるので、もう気にしない事にした。


 さて、レベルアップ行事だが、ハッキリ言って最悪だった。

 何が最悪かと言うと、ボスモンスターのドロップ宝箱から出たアイテムだ。

 いい加減、衣服が欲しいのだが、出て来たのは黒い猫耳カチューシャだった。

 素っ裸に靴、グローブ、アクセサリと来て猫耳だ。

 もう、変態以外の何者でもない。

 それでも、アイテム鑑定に掛けると、『黒猫耳』と言う名前で聴力向上と危機察知向上の能力があったので即座に装着したのだが、その瞬間からその耳は俺の一部となってしまった。

 何が言いたいかと言うと、猫耳が外れなくなったのだ。

 流石に、慌てたのだが、笑い声が聞えてきたような気がして、態度に出さないように努めた。


『着けたよ、こいつ!バカだろ!ぎゃははははは』


『どう見ても変態ですね。あはははは』


『腹がいて~~~。笑い過ぎた......』


『ククク、これだから止めれないんだよな~これ』


『素っ裸に黒猫耳だって......男なのに......もう無理、限界、笑いがとまらん』


 そう、そんな嘲りが聞こえてきたような気がしたのだ。

 燃え盛る炎となった心を抑え付けながら、多分、「殺す!」という呪詛を百回以上は吐き捨てたと思う。

 それでも黒猫耳の効果は絶大だった。と言うのも、装着するとLUKが十も上がったのだ。

 LUKの上りが悪い俺に取っては天の恵み...... いや、天なんていらない。死神の恵みとしておこう。


 次にスキルだが、バーストアタックという強攻撃を取得して、余ったポイントで火魔法をカンストさせ、挙句は土魔法を四つ取った。

 バーストアタックの再発動については、いつもの五秒ルール付だった。


 あとはLUKを上げて終了という訳だ。

 ステータスはというと次の通りだ。


 ------------------

 名前:高橋 颯太(タカハシ ソウタ)

 種族:人間

 年齢:17歳

 称号:フルチン

 ------------------

 LV:6

 HP:250/250

 MP:250/250

 ------------------

 STR:1040/0/15

 VIT:968/0/5

 AGI:1028/0/17

 DEX:1124/0/15

 INT:243/0/5

 LUK:30/240/10

 ------------------

 EX:9,990/100,000,000

 ------------------

 PT:0

 ------------------

 <スキル>

 回復3 MP6/HP30×24

 火魔法5 MP10/MATK100×24

 土魔法4 MP8/MATK80×24

 鈍器攻撃強化5 ATK+100%(パッシブ)

 バーストアタック5 MP10/ATK+100%(一撃)

 ------------------

 <装備>

 金属バット

 俊敏の靴

 屈強のグローブ

 障壁の腕輪

 強力の腕輪

 加速のアンクレット

 跳躍のアンクレット

 黒猫耳

 ------------------

 アイテムボックス 70マス×6,000

 ------------------


 な~んて、ステータス更新の事を思い出していると、早速クマが現れた。

 そいつは、クマとは思えない俊敏さで近付いてくると、鋭い爪を輝かせた右手を高速で振り下ろしてくる。

 しかし、今の俺にはそんな攻撃はハエよりも遅く感じる。

 透かさず避けて、その頭に金属バットを減り込ませる。

 霞となったクマが、今度はMP回復薬(小)を落として行った。これは調べてみたらMPを二十回復させるポーションだったので、喜んでアイテムボックスへと収納だ。

 どうやら、クマはクマ肉とMP回復薬(小)を落とすようだった。







 そろそろクマ肉が収納しきれなくなってきたのだが......


 あれから半年が過ぎた。だが、未だにレベル六のままだ。

 抑々、十万匹というのが在り得ないのだ。

 最早、砂浜に戻ることも無く、ジャングルで生活をしている。

 それくらい効率を考えないと、一向に前に進めないのだ。

 それでも、今はクマなんて目を瞑っても倒せるくらいになった。


「ということで、そろそろ死んでくれるかな?ボスクマくん。強化!バーストアタック!」


 腹への一撃で倒れそうになるボスクマの頭へ、腕輪の強化能力とバーストアタックで倍増した威力の攻撃を撃ち込む。


 中々の感触だ。間違いなく逝っただろう。


 俺の予想通り、ボスクマは霞となって消えて行く。

 そう、必要経験値が増えた代わりに、ボスに出会うまでに基礎値が異常に上がってしまって、今や、ボスなんて唯のクマと変わらないのだ。


「半年ぶりの砂浜か......」


 ボスから出た宝箱を拾いながら、独り言を口にする。

 次の瞬間には、俺は霞となって消えて行くのだ。




 久々の灼熱の砂浜にウンザリとする。


「まあいい。行事を消化させよう。前回は寝袋だったけど、今回はどんなゴミかな」


 そうやって砂浜を歩いて行くと、いつもの様に宝箱がある。

 もう、要らんわと言いたげな表情で蓋を開ける。


「......枕かよ」


 そこには安眠枕があった。

 もう、何も言う気にもなれないので、それをアイテムボックスに放り込み、その場でステータスの更新を行う。

 と言うのも、もうベースキャンプに戻る気も無いのだ。

 ステータスの更新を終わらせたら、ジャングルに戻って無心で狩りを続けるだけなのだ。


「ほいほいほい!スキルは~~~。割り振りはLUK~~~~。っと、あ~~ボス宝箱開けるのを忘れてたわ」


 早速、宝箱を開けるが、もう何の期待もしていない。


「......黒猫の尻尾......付けるよ?付ければいいだろ?けっ!こんなもん、どうってことあるか!ば~~~か」


 そのアイテムを鑑定すると、俊敏性向上と危険察知向上の能力があったので、迷わず裸の尻に装着する。

 装着後に、一応引っ張ってみたのだが、やはり外れる様子は無かった。というより、握っている処が痛かった。

 どうやら、神経まで繋がったようだ。その証拠に、俺の思いのままに動かせる。


「じゃ、あとは最終確認だな」


 ステータスオープンと念じて空中ディスプレーにステータスを表示させる。


 ------------------

 名前:高橋 颯太(タカハシ ソウタ)

 種族:人間

 年齢:18歳

 称号:フルチン

 ------------------

 LV:7

 HP:350/350

 MP:350/350

 ------------------

 STR:2440/0/17

 VIT:2124/0/6

 AGI:2328/0/29

 DEX:2643/0/17

 INT:621/0/6

 LUK:30/340/10

 ------------------

 EX:9,990/1,000,000,000

 ------------------

 PT:0

 ------------------

 <スキル>

 回復3 MP6/HP30×62

 火魔法5 MP10/MATK100×62

 土魔法5 MP10/MATK100×62

 鈍器攻撃強化5 ATK+100%(パッシブ)

 バーストアタック5 MP10/ATK+100%(一撃)

 超バースト4 MP50/ATK+500%(一撃)

 ヒート5 MP10/+100%(五分間)

 ------------------

 <装備>

 金属バット

 俊敏の靴

 屈強のグローブ

 障壁の腕輪

 強力の腕輪

 加速のアンクレット

 跳躍のアンクレット

 黒猫耳

 黒猫尻尾

 ------------------

 アイテムボックス 80マス×7,000

 ------------------


 どうも、猫の尻尾はAGIプラス十の効果もあったようだ。

 あ、ヒートスキルだが、INT以外のステータスを五分間だけ向上させるスキルだ。

 かなり良さそうなスキルだったので、速攻で習得させて貰った。


 まあ、そんな事は如何でも良い。さっさと狩りに行こう。

 何と言っても、次のレベルアップまでは、一日三千匹を倒して一年かかる計算だからな。

 それに、いつまでも死神様を待たせる訳にもいかないし、ちょっと尋常ではない狩りをする必要があるな。


 二十歳までには脱出したいな~~~。なんて淡い思いを抱きながらジャングルへと足を向けるのだった。







 金属バットが目にも止まらぬ速さで虎を打ち抜く。いや、虎達だな。

 一度の振りで三匹の虎を始末する。

 もう、ドロップアイテムもポーション以外は拾うつもりもない。

 これ以上の食物は要らないのだ。


 ひたすら鬼神のようにバットを振る。止まる事無く立ち位置を変えながら金属バットを振るう。

 俺の目には虎の海が見える。そう、虎の大軍だ。だが、怯むことも無い。

 多少喰らっても何ともないし、抑々、普通に戦えば相手の攻撃を喰らう事も無いのだ。

 兎に角、踊るように金属バットを振るうのだが、きっと、誰にも見えないだろう。

 俺はそれ程の速度で戦っているのだ。

 これもINT以外のステータスを向上させるヒートスキルのお蔭だ。まあ、効果時間が短いのが難点だが。


 ガウの一声も出せずに虎が霞となって消えて行く。

 最早、罵声も、怒号も、何の声も上げずに黙々と虎を殺戮していく。

 そうやって何時間も戦い続けているのだ。

 ムキになる事すらない。怒りもない。唯あるのは、無だ。そう、無いのだ。何も無い。

 俺の精神は真っ白になっている。何も考えず、ただ、本能で身体を動かし、本能で虎を殺戮している。


「あれ?もう終わったのか?駄目だな。最近、戦いに集中すると意識が飛ぶぜ」


 俺はポーションだけを拾いながら収納していく。


「くそ、これって、なんか収納スキルとかないのか?」


 今更ながらに、ガイダンスで調べてみると、一斉回収のコマンドがあった......


「ぐはっ......今頃気付くとは......回収!」


 すると、地面に転がるアイテムが一瞬で消えた。それを見た後、アイテムボックスを確認すると、見事に収納されていた。


「よし、これで戦いに専念できる」


 アイテム回収を終わらせた俺は、更にジャングルの奥へと向かう。

 すると、そこにはウジャウジャと虎達が屯っていた。

 どうやら、モンスターを短時間に消滅させた所為で、一斉に湧き出すようだ。

 こっちに取っては好都合というものだ。


 俺は虎の集団に手を向ける。


「炎よ!」


 そう叫んだ途端に、虎達が屯っている場所に爆炎が生まれる。

 その攻撃だけで、二十の虎が消滅しただろう。


「マックスヒート」


 虎達は俺に気付き、即座に襲い掛かろうとするので、すぐさまヒートのスキルでステータスを倍増させる。


「ガウァ~~~!」


「グア~~~!~」


 次々と虎が襲ってくるが、金属バットで殴り倒す。更に左手を虎達の後方へ向けて叫ぶ。


「炎よ!」


 すると、虎達の後ろの方で再び爆炎が上がる。だが、俺はそんな事を確認する間もなく、次々と虎を葬って行く。

 今や、どれだけ虎が掛かって来ても、蟻を相手にしているのと同じだ。

 ただただ、踏み潰すように始末していく。


「地よ!」


 左手を向け今度は土魔法を発動させる。

 発動地点では、半径二十メートルに渡り土の槍が地面から突き出す。

 それで、二十匹以上の虎が串刺しになって霞に変わって行く。


「加速!地よ!」


 加速で強化した移動速度で間合いを取りながら、土魔法を放ち虎達を葬っていく。

 もう、作業でしかない。モンスターを消滅させる作業だ。

 力の差がハッキリし過ぎているので、ひたすら駆除するだけなのだ。

 ざっと見たところ、この戦闘で五百のモンスターを倒しただろう。

 確認する時間さえ勿体ないので、ステータスを見たりもしないが、取得経験値が凄い速度でカウントアップされている筈だ。

 こんな狩りを一日で二十時間も繰り返しているのだ。


「今日こそは一日一万匹の大台に乗るかな」


 そう、俺の目標は一日一万匹以上を倒す事なのだ。

 それくらいの戦闘力を付けないと、俺はこの世界で寿命を迎えることになるのだ。

 とは言っても、一千億の経験値を得ようとすると、カオルから貰った指輪があっても、一日一万匹を倒して二十七年かかるのだ。


 絶望的な数字に頭を項垂れながらも、この日は一万匹を倒すことに成功するのだった。


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