第7話 チュートリアルその7

 雨も降らないのに成長する木々や草たち。

 餌も無いのに徘徊するモンスター。

 お前等も神に造られた偽物なんだよな。

 でも、同情なんてしない。俺が生きるために。いや、神を葬るために。


「吹き飛べ!うらうら!おらおら!」


 襲い掛かって来る芋虫を次々と殴り飛ばす。

 だが、芋虫は限りなく襲い掛かって来る。

 それをただただ殴り飛ばす。罵声を上げて殴り飛ばす毎日だ。


「ふっ~~。これで終わりか」


 周囲に散らばった野菜を掻き集めながら、死神カオルの言葉を思い出す。


「必ず約束は守るからな」


 そう口にして、黙々と野菜をアイテムボックスに収納していく。

 だが、そろそろアイテムボックスの限界がきそうだ。

 一応、アイテムボックスは良く出来ていて、同じ物では無く、同じ種別で一マスに収納可能だ。

 例えば、香辛料だと、塩だろうと砂糖だろうとマヨネーズだろうと、調味料として一つのマスに収まる。だから、フライパンや鍋なども調理具として一マスで収まっている。

 という事で、今回の野菜も一マスで収めているのだが、個数が半端ないのだ。

 早くレベルを上げないと勿体ない事になるのだが、それも如何でもいいのか。既に数年分の食料を確保できている。


「そろそろ親玉の登場かな」


 そう、カオルに貰った指輪のお蔭で、百万匹が千匹まで減っているのだ。

 完全なるチートアイテムだ。これには感謝するしかない。

 オマケに基礎値も十倍だからな、見る見るステータス値が上がっている。

 そのお蔭で、今やレベル五のモンスターがゴミのようだ。

 因みにステータスは次のようになっている。


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 名前:高橋 颯太(タカハシ ソウタ)

 種族:人間

 年齢:17歳

 称号:フルチン

 ------------------

 LV:4

 HP:50/50

 MP:50/50

 ------------------

 STR:685/0/13

 VIT:624/0/4

 AGI:702/0/16

 DEX:714/0/13

 INT:45/0/4

 LUK:30/40/0

 ------------------

 EX:999990/1000000

 ------------------

 PT:0

 ------------------

 [スキル]

 回復3 MP6/HP30x4

 ------------------

 <装備>

 金属バット

 俊敏の靴

 屈強のグローブ

 障壁の腕輪

 強力の腕輪

 加速のアンクレット

 ------------------

 アイテムボックス 50マス×4000

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 特記するところは回復魔法とLUKだろう。

 回復魔法については、INTが四十を超えた時に四倍の表示が出たので、恐らくINTが十単位で魔法効果が倍になるのだろう。

 LUKなのだが、行き成り二十も上がりやがった。全くもって意味不明だ。何故、上がったのかすら解らない。もしかしたら、死神カオルと会った事が起因なのかもしれない。

 あと、何故かカオルから貰った指輪は装備に表示されなかった。

 まあ、そこは悩んでも仕方ないので、狩りに専念する事にした。


 親玉登場を警戒しながら、ジャングルを進むと、予想通りに巨大な芋虫が出てきた。

 キング芋虫は上半身を起こして攻撃してくるが、今の俺から見ると恐ろしく遅い攻撃だ。

 すぐさま、キング芋虫の攻撃を避けて金属バットで殴り飛ばす。

 てか、いい加減他の技も欲しいよな......


 キング芋虫は堪らず、口から糸を吐き出すが、俺は『加速のアンクレット』の力を発動させて素早く避ける。更に『強力の腕輪』の力を発動させてタコ殴りにする。


 こいつ、よえ~~~~~! って、俺が強くなったのか! いや、まだまだ己惚れるには早い! 俺の討伐目標は神なのだ。こんなもんじゃ駄目だ。


「死ねやこら!潰れろ!オラオラ!」


 だが、キング芋虫は見せ処も無く、見るも無残な姿となって消えていった。


「俺の怒りはこんなもんじゃね~~~~!あっ......」


 そこで俺は自分で決めたルールを思い出すのだった。

 そう、鑑賞ている奴等を楽しませたくない。だから、独り言を止める事にしたのだ。

 さて、キング芋虫から出た宝箱を回収して戻るとするか。

 こうして俺はレベル五となり、セーブポイントに戻る事になるのだった。







 セーブポイントに戻ると、いつもの工程を消化して飯の用意をする。

 ところが、今回の砂浜宝箱は、なんと包丁とまな板だった。

 これで、肉、野菜、香辛料、包丁、まな板、携帯コンロ、鍋、フライパン、という一通りの料理用具と材料が揃ったのだ。

 ある意味、これを見ている神様ってバカだろ!

 まあいい。これで野菜炒めでも作って食おう。


 初めての料理だったが、野菜を切って、肉を切って、それをフライパンで痛めて、塩コショウで味付けするだけなので誰でも出来る。

 しかし、初めてというのは楽しいものだ。すっかり病んでしまった俺の心を少しだけ癒してくれた。


 そんな心休まる時間を過ごし、出来上がった料理を食べながらステータスの確認を行う。

 と言っても、LUKを上げるだけだ。

 だが、そこで驚く。というのも、取得ポイントも十倍が適用されていたのだ。

 だから、今回の取得ポイントが百となっていた。

 まさに、カオルさまさまだ。


 後はスキルだな。なんだと~~~~! これも十倍かよ!


 まあいい。現状だと回復魔法は一旦据え置きにして、他を上げるべきだろう。

 さて、攻撃魔法を取るか、それとも物理攻撃力を取るか...... いや、両方取れるかもしれん。

 結局、両方を習得する事にした。

 武力一を習得した後に、鈍器攻撃強化を五までとりカンストさせて、火の魔法を四まで上げた。

 MATKは魔法攻撃力で相手にHPに換算して八十×十で八百のダメージを与えるとのことだ。

 ただ、INTは魔法攻撃に影響するのと同時に、防御にも影響するので、現在の俺が八百の攻撃を受けてもHPは八十しか減らないという事のようだ。

 あと、範囲攻撃魔法は無いのだが、レベルとINTしだいで攻撃力が増大して範囲攻撃となるらしい。


 ああ、そう言えば、キング芋虫から出た宝箱なんだが、『跳躍のアンクレット』で跳躍力が倍になるアイテムだった。それも相変わらずの五秒ルールだった。


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 名前:高橋 颯太(タカハシ ソウタ)

 種族:人間

 年齢:17歳

 称号:フルチン

 ------------------

 LV:5

 HP:150/150

 MP:150/150

 ------------------

 STR:748/0/13

 VIT:682/0/4

 AGI:786/0/16

 DEX:791/0/13

 INT:105/0/4

 LUK:30/140/0

 ------------------

 EX:9,990/10,000,000

 ------------------

 PT:0

 ------------------

 [スキル]

 回復3 MP6/HP30×10

 火魔法4 MP8/MATK80×10

 鈍器攻撃強化5 ATK+100%

 ------------------

 <装備>

 金属バット

 俊敏の靴

 屈強のグローブ

 障壁の腕輪

 強力の腕輪

 加速のアンクレット

 跳躍のアンクレット

 ------------------

 アイテムボックス 60マス×5000

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 それでも、死神カオルから貰った指輪の威力は絶大だった。

 何と言ってもキング芋虫一匹倒して一万ポイントだったからな。

 更に、基礎値の上がり具合も物凄い事になっている。

 それに、基礎値の十倍がHPとMPにも影響したようで、その値が一気に増えている。

 それでも、神を葬ろうと言うのだ。こんなものでは如何にもならないだろう。


 よし、飯を食ったら早速狩りに行こう。







 サクサクとジャングルを進む。

 と言うのも、カオルから貰った指輪があるとはいえ、約九千匹のモンスターを倒さなければならないのだ。

 どう考えても、この時点で無理ゲーだ。だって、チュートリアルでレベル六に上がるのに一千万ポイントが必要で、モンスターから得られるポイントが一とか有り得ないだろう。

 なんて言っていると、イノシシが出て来た。


 今夜はイノシシの焼肉だな。って、おっ、はえ~~~!


 晩飯のことを考えていると、イノシシが突然に突進していた。

 そのイノシシのサイズは、体長一メートルくらいだろうか。その割には俊敏な動きで突進してくる。


「加速!」


 即座に、アンクレットの加速能力を使って、イノシシの進路から避ける。

 ほむ。どうやら、速いのは突進だけのようだ。旋回能力はかなり低く、向きを変えるのにもモタモタとしている。


 とんだ欠陥モンスターだな。


 何とか向きを変えたイノシシが向かって来るのを紙一重で避けながら金属バットを振るう。

 その攻撃は、見事にイノシシの頭を直撃して、奴は巨体を地面に倒して昏倒した。というか、そのまま霞となって消えて行く。

 イノシシが消えた処には、イノシシのバラ肉が落ちていた。


 よし、予定通り、今夜は焼肉だ。


 結局、その日はそのまま狩り続けて、二百六十匹を片付けた。

 その印象では、イノシシは全く脅威でないと思えた。

 だから、明日からは、もっと過激に倒していくつもりだ。

 あと変わった事と言えば、イノシシは何故かランダムでHP回復薬(小)をドロップした。

 因みに、アイテム鑑定機能で確認すると、HP回復薬(小)の回復力はHP五十らしい。



 イノシシの焼肉で満足した次の日は、前日と打って変わって鬼の様にイノシシを狩り捲った。

 その成果は、ざっと五百匹だ。流石に時間的に考えてもこれが限界と言えるだろう。


 いや、夜も狩れば...... だが、夜は流石に危険だな。


 そう考え直して、日中の狩りに専念する事にした。



 その後も憑りつかれたように狩りを続け、あっという間に二十日の時が過ぎていった。


「流石、でけ~~~!まさか、おっこと主か!」


 いやいや、そんなはずは無い。こんな所に祟り神なんて......

 まあいいや、サクッと倒すぞ!


「ぷぎーーーーーーーーー!」


 イノシシの親玉は、奇声を上げると驚く程の速度で突っ込んできた。

 俺の動体視力で捉えることが出来る限界速度に近い。


「巨体の割には、はえ~じゃね~か!でも、やっぱり突進の時だけなんだな。加速

!」


 即座にアンクレットの能力で飛び退り、ボスイノシシの攻撃を避けると、すぐさま反撃に移る。


「跳躍!」


 加速で避け、今度は跳躍でイノシシの頭上に飛び上がって金属バットを振り下ろす。

 降下速度と相乗した金属バットの攻撃力がイノシシの頭に炸裂する。

 だが、流石はボスだ。その一撃で死ぬ事は無い。


 くっ、HPも三分の一しか減ってね~~~! やはり、ボスは一味違うぜ。


 俺は舌なめずりしながら、バットを構えてイノシシの攻撃に備える。

 ボスイノシシはゆっくりと向きを変えると、再び叫び声を上げる。


「ぷぎーーーーーーー!」


 その雄叫びに嫌な予感を持ち、すぐさま左手を突き出す。


「シールド!」


 俺の叫びと同時に左手の前に一メートル四方の霞で出来たような盾が現れるが、それに何かがぶち当たり、吹き飛ばされてしまった。


「くそっ、なんだ?ちっ、回復イチ!」


 舌打ちしながら、即座に減ったHPを魔法で回復させる。

 その攻撃の内容は理解できないが、今のダメージからみると即死はないようだった。

 だが、地面に倒れている俺を見てチャンスと思ったのだろう。物凄い速度で突っ込んでくる。


「加速!跳躍!」


 それを見た俺は、すぐさま起き上がり、加速と跳躍を併用してその場から飛び退る。

 間一髪で逃げ出しと処で、再び頭上から金属バットを叩き付ける。


「バゴン!」


 凄い感触だった。手に伝わる感触は、確実に破壊したと言えるものだった。

 良い所でクリティカル攻撃が炸裂したようだ。これもLUKが上がったお蔭だろうか。

 それでも距離を取り、直ぐに金属バットを構える。

 だが、奴のHPゲージが消え去っていた。そして、それに続く様にその巨体も霞となって消えて行く。


「こんなモンスターで手古摺るなんて、全然ダメなんだな。くそっ! もっと強くなりて~~~~~!」


 そんな悲痛な叫び声がジャングルの中に響き渡るのだった。

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