第6話 チュートリアルその6

 宝箱を探しに灼熱の砂浜を歩く。

 これもレベルアップした時のお決まりコースだ。

 予想通り宝箱があった。

 中身は、携帯コンロだった......


「けっ、期待なんてしてね~し」


 捨て台詞を吐いてキャンプ地へ足を向ける。

 糞熱い砂浜を闊歩してキャンプ地に戻ると、即座にテントの中に引篭もる。

 さて、次の工程だ。それはボスウサギからゲットした宝箱を開ける事だ。


「おーぷん!おっ、また腕輪かよ......」


 少しがっかりしながらも、携帯コンロよりはマシなので、速攻で鑑定すると思わぬお宝だった。

 と言うのも、アイテム名は『強力の腕輪』で、効果は五秒間だけ攻撃力が倍になるというものだ。ただ、バリアと同様に再使用までに五秒のディレイがあるのが減点対象だ。

 それでも、これはかなり使えるアイテムだと思う。


 まあ、それは後で試すとして、次はアイテムボックスだ。

 マスは見るからに十マス増えていた。あとは、一マスに入る個数だな。

 現在は二千なのだが、どうやって試すか...... ああ、簡単だった。だってウサギの肉が四マス分ほど満タンの状態だからそこに足してみればいい。

 面倒臭いがそれを実行すると、上限が三千に上がっていた。


「よしよし。で、次は糞のステータスだな。もう上げるのはLUKしかない」


 ということで、迷うことなくLUKを十上げた。

 スキルは、取り敢えず、回復を二にしとくか。これで一通り完成。


 -------------------

 名前:高橋 颯太(タカハシ ソウタ)

 種族:人間

 年齢:16歳

 称号:フルチン

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 LV:3

 HP:40/40

 MP:40/40

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 STR:345/0/11

 VIT:302/0/3

 AGI:363/0/14

 DEX:378/0/11

 INT:12/0/3

 LUK:10/30/0

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 EX:0/100000

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 PT:0

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 <スキル>

 回復2 MP4/HP20

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 <装備>

 金属バット

 俊敏の靴

 屈強のグローブ

 障壁の腕輪

 強力の腕輪

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 もうレベル補正なんて語る気もしないし、必要経験値なんて糞だから、如何でも良い。

 どうせ次の敵も一匹の獲得経験値が一なのだ。

 要は十万匹倒せという事なのさ。

 今更、文句も愚痴も無い。只管、心中で『殺す』を連呼するだけだ。


 呪詛を吐きつつ遣って来たジャングルには、狼のモンスターが居た。

 開き直って、戦ってみると、速さはウサギ、強さはオークと言った感じで、特に脅威とは思えなかった。

 それでも、始めは慎重に狩りを進め、慣れ始めると大量虐殺を始めるようになっていた。


 この頃からだろうか、恐怖というものを感じなくなったのは。

 いつの間にか、怖いとか全く思わなくなったのだ。

 そうして、ただ只管に狩りを続ける日が続く。



 気が付くと、あっという間に半年の月日が経ったていた。


「お、親分のお出ましか?」


 俺の眼前にはボス狼がいる。

 だが、狼を狩り始めて半年が経ったのだ。俺もあの頃のままではない。

 ボスと対峙したくらいで動じたりはしない。


「アオ~~~~~~~~ン!」


 ボス狼が遠吠えと共に襲い掛かってくるが、それを紙一重で躱しながら金属バットで殴る。

 但し、『強力の腕輪』の力を発動させているので、攻撃力が倍になっている。

 それでもボスの耐久性ならそう簡単には倒せないだろうと思ったのだが、ボスは一撃で霞となって消えてしまった。

 どうやら、偶々クリティカル攻撃が出たようだ。


「運の悪い狼だ。いや、それはお互いさまか......」


 こうしてレベルレベル四になったのだが、俺の齢は既に十七歳になっていた。

 何時ものレベルアップ後の肯定をすませたが、今更、話す事でもないだろう。

 そうだな~、特記するなら、アイテムの事くらいか。

 砂浜の宝箱はフライパンと鍋だった。まあ、死ねと吐き捨てて終わりだな。

 だが、ボス狼のドロップの方は、『加速のアンクレット』というアイテムで、いつもの五秒ルールで移動速度が倍になる効果があった。

 あとは、言わずと知れた、必要経験値十倍仕様だな。次は百万匹だとよ。


「いや、今更、腐る必要も無い。分かっていたことだ」


 己に言い聞かせながら、携帯コンロにフライパンを乗せて、そこへウサギの肉を放り込み塩と胡椒で味付けをする。

 ああ、塩と胡椒は狼からの産物だ。他には砂糖、ケチャップ、マヨネーズ、そんな多種多様な調味料をランダムで落としてくれたのだ。ハッキリ言ってめちゃくちゃ助かった。

 そう言う意味では、今回のフライパンと鍋も嬉しいアイテムだと言えるかもしれない。

 ただ、レアドロップがフリカケだったのが非常に残念だった。

 と言うのも、ご飯がないのだよ。ごはんが!

 まあ、解った事は、出現モンスターとドロップアイテムに何の因果いんがも無いということだけだった。







 もう勝手知ったる我が家のようにジャングルへと出向き、新たに出現したモンスターを狩る。ひたすら狩る。淡々と狩る。粛々と狩るのだ。


「死ね!この芋虫が~~~!」


 金属バットを叩き付け芋虫モンスターを片付ける。

 すると、霞となった後にキャベツ一玉が転がる。

 そう、今回のモンスターは野菜をランダムで落とすのだ。

 なんとも、健康に良い話だな。これまでが肉食だったので気を使ってくれているのだろうか。

 そんな、如何でも良い事を考えながら進んでいたのだが、突然、俺は不審な感覚に囚われた。


「何かが変だ。何がおかしい?」


 声に出しつつ周囲を見回す。

 そして、気付いたのだ。ここが何時ものジャングルでは無い事に。

 そう、慣れ親しんだ...... いや、親しんではないが...... 何時ものジャングルでは無いことに気付く。


「ここは何処だ?」


 何度も周囲を見渡すが、違和感はあれど何が違うのか解らない。

 だが、ここは何時ものジャングルでは無いのは、俺の感がそう告げているので間違いない筈だ。

 その時だ。白い光の玉が浮いているのが目に留まった。


「なんだ?あれ......新たなモンスターか?」


 しかし、その白球は攻撃してくるわけでもなく、ゆらゆらと揺れている。そして暫くすると、俺から遠ざかるように動き出すが、一定の距離を進むと移動を止め、またゆらゆらと揺れている。


「もしかして、付いて来いと言っているのか?」


 俺がそう口にすると、白球はピタリと止まり、また移動し始めた。


 どうやら、付いて来いと言っているのだろう。

 ここは騙されていると考えた方が良いが、もしかして、このゲームに陥れた奴が居るかもしれない。なら、行って一撃でも喰らわせたい。


 そう考えた俺は、すぐさま白球の後を追う。

 すると、白球は岩壁に出来た洞窟の様なところへ入って行く。


「あんな洞窟、初めて見たぞ」


 不審に思いながらも恐る恐る洞窟に入ると、突然、人の声が聞えた。


「やあ、よく来たね」


 間違いない。日本語だ。久しぶりに聞いた日本語だ。

 だが、俺は気を緩めない。どんな落とし穴があるか分かったものでは無いのだ。

 すると、その声の主は笑い始めた。


「あはははは。そう警戒する必要は無いよ。と言っても無理だろうけどね。ここにぶち込まれると誰もがそうなるんだ。いや、その前に消滅するかな」


 その言葉を聞いた時、俺の怒りが頂点に達した。


「うお~~~~~~~~!死ねや~~~~~~~~!」


 足に装着しているアンクレットの能力を使い、倍の速度で殴り掛かるが、その声の主は避けもしなかった。

 しかし、俺の金属バットは空を切る。


 何故だ! 何故当たらね~~~! くそ~~~~~~!


「ああ、僕は幽体だから当たらないよ。それに、僕は君の敵じゃない」


 何を言っているんだこいつは。いや、殺してやる。絶対に殺してやる。


 俺は遮二無二バットを振り回す。だが、その黒いローブを纏った者には全く当たらない。


「くそっ!くそっ!くそっ~~~~~~~!」


「気が済んだかい?そろそろいいかな?あまり時間がないんだ。ゴミ共に見付かると拙いからね」


 こいつが誰で、ゴミが誰かなんて解らないけど、俺の精神は既に真面では無かった。

 しかし、次の瞬間、俺は驚きによって精神を落ち着かせる事になる。

 その声の主が、ローブのフードを降ろしたのだ。


「なっ、う、うあ~~~~~!なんだお前は!」


 フードを降ろした声の主は、真面な顔をしていなかった。いや、それを顔と呼べるのだろうか。


「あははは。驚くよね。顔が髑髏なんて。でもね。僕はこれが気に入っているんだよ」


 肉の無い顎をカクカクと動かして、その声の主はそう言う。

 それが、笑っているのか、怒っているのか、悲しんでいるのか、困っているのかすら解らない。


「お、お前は、お前は誰だ?」


「そうだね~~。このチュートリアルの唯一の達成者と言った方がいいかな」


「な、なんだと、このチュートリアルをか?いや、お前もここで過ごしたのか」


 その髑髏の言葉に、俺は驚きを隠せないでいる。


「そうだよ。僕もね、ここで酷い目にあったさ。そして、達成した後も酷い目に遭った。今じゃ、この通りさ」


 それは絶望を植え付けるような話だった。ただただ復讐の為に生きている俺に死ねと言っているようなものだ。

 そんな狂気の世界に入り込みそうになっていた俺を髑髏が押し止める。


「君、このままじゃ死ぬよ?チュートリアルを終わらせるレベル十の必要経験値を理解しているかい?」


 その声で一気に現実に引き戻れされる。


「レベル十の必要経験値は一千億だよ。そして、モンスターから得られる取得経験値は一匹で一ポイントだよ。一千億匹のモンスターを倒す必要があるんだ。それにモンスターも強いしね。もう最悪さ」


 ここまできて、まだ死にたくないのか。いや、死ぬのは構わない。だが、犬死したくないだけだ。


 その気持ちが俺に言葉を与えた。


「じゃ、どうすればいい」


「実を言うとね。これを君に渡しに来たんだ」


「これは何だ?」


 髑髏が俺の言葉に頷くと、骨の手でアイテムを渡してきた。

 見た目からして指輪のようだが......


「取得経験値千倍、基礎値上昇十倍の指輪だよ」


「なんだって!?」


 髑髏は驚く俺に構わず話を続ける。


「このままだと、君は一生掛かってもここから出られない。ある年齢に達すると基礎値も下がっていくからね。だから、その指輪を使ってさっさと抜け出して欲しいんだ。と言っても、かなりの年月がかかるだろうけど......でも、僕を手伝ってくれないか。こんな事をする神に一泡吹かせたいんだ」


「これを遣っているのは神なのか?こんなことを?こんな酷い事を神がするのか?」


「そうだよ。腐りきった奴等だ。こんな事をしてゲラゲラと笑っているんだ。ここで何人の人が死んだか教えてあげようか。僕が知っているだけで一万六千五百二十二人だ。僕は絶対に許さない。でも、僕一人の力では駄目なんだ。僕一人では勝てないんだ。どうか、こんな僕を助けてくれないだろうか」


 俺には痛いほど解った。この髑髏の想いは俺と同じだ。間違いなく酷い目に遭ってきたんだ。そして、これを行っている神を憎んでいるんだ。


「解った。いや、俺も奴等を殺したい。強力するぞ!何があっても、絶対に神を殺してやる」


「有難う。僕はもう涙も流せないけど。本当なら嬉し涙で号泣していそうな場面だ。あはは」


 力無く笑う髑髏。でも、お前は俺なんだな。俺の姿でもあるんだな。


「で、俺は何をすればいい?」


 俺の言葉に髑髏が俯けていた頭を上げる。


「君はまずここを早く突破することだ。ここを抜けると新しい世界が待っている。今度はそこで無理難題を投掛けられるんだ。だから、ここで力を付けて、向こうの世界で力を付けて、神を葬るんだ」


「そうか。解った。兎に角、俺は強くなればいいんだな」


「うん。そうだよ。ただ、君はいつも見張られている。いや鑑賞されていると言った方が良いかな。彼等の娯楽の為に、君に酷い事をして笑っているのさ。だから、僕もあまり近づくことが出来ない。ただ、その指輪には僕との意思疎通能力も付与しているから、強く念じれば僕と話が出来るよ」


 髑髏の話に出て来た指輪の能力で気が付いた。


「あ、経験値千倍になったら、神にバレるんじゃないか?」


 その言葉に髑髏は首を横に振る。


「彼等はね、そんな些細な事など気にしないのさ。だから、与えられるアイテムも時々良い物があったりするだろう?あれは、何も考えずに与えているんだ。彼等の力は膨大だ。だから、僕達のような虫けらの事をそこまで気にしたりしない。ただ、見て笑うだけさ。そう、娯楽なのさ」


 髑髏の言葉で、俺の心中は荒れ狂うような炎で燃え上がる。

 だが、ふと、あることに気付いて髑髏に話し掛ける。


「この指輪、お前が使った方がいいんじゃないか?」


 髑髏は俺の言葉に、再び首を横に振る。


「僕はもう経験値を上げられるような状態じゃないんだ。見ての通りの骸骨だしね」


 その言葉に、俺は思わず胸が痛んだ。髑髏の声がとても悲しそうだったからだ。


「じゃ、お前は何者なんだ?」


「僕かい?僕は死神だ。いや、奴等に復讐する為に死神となったのさ。何もかもを捨ててこの力を得たんだ。だけど、君ならまだ間に合う。生身のまま最強の男になってくれ。神さえも討ち滅ぼす存在と成ってくれ......あ、拙い。そろそろ、結界が切れそうだ。何かあったら指輪に念じてみて......」


「あ、お前の名前は......」


「僕の名前は......薫、そう、カオルだったな。久しぶりに自分の名前を口にしたよ」


 その死神は、自分の名前を忘れていたかのように言い捨てて、霧となって消えて行った。


 俺の被害妄想は現実だった。

 そう、俺を見て笑い転げている奴が居るのだ。

 絶対に、復讐してやる。絶対に酷い目に遭わせてやる。俺はそう死神に誓って狩りへと戻るのだった。

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