第5話 チュートリアルその5
毎度変わらずの熱さで目が覚める。
これにも既に慣れてしまい、今やうっかり灼熱の太陽で目を焼かれることもない。
それを思うと、あの頃が懐かしいとも言える。
別に戻りたくもないが、何も知らなかった頃が幸せだったのだと、ついつい感慨深く思い入ってしまう。
「けっ、どうせ俺は見世物だからな」
いつからか始まった被害妄想は、既に俺の中で現実として存在していた。
だが、そんな事など如何でも良いと思う自分がいる。
さっさと、遣るべきことを済ませろと告げる自分がいる。
「そうだな。まずは宝箱でも拾いに行くか」
俺の感が再び砂浜に宝箱が落ちていると告げている。
結果から言うと、それは正しかった。そう、宝箱が落ちていたのだ。
だが、中身は糞ゴミだった。まあ、糞ゲーだからこんなものだろう。
「テントか、今更いらね~~。叩き斬って服でも作るか」
服を作るのが良いと本気で考えたのだが、アイテム鑑定機能を使ってガックリとする。
それは、説明の最後に破壊不可という記載があったからだ。
だが、このアイテムは実は良い物なのだろう。外見と違って中は普通の六畳間になっていた。
天井も高くて腰を折り曲げる必要も無く、床も板間となっており、快適な空間だといえる。
ただ、それ以外に何もないのは残念な限りだ。
まあ、それでも砂浜で寝るよりは快適だろう。
というのも、中の温度は最適化されるようで、外の暑さを感じることはなかったのだ。
でも、喜んだり騒いだりしね~~。
見ている奴等を喜ばして遣る必要も無い。
「そんな事よりも、まずはレベルアップによる変化の確認だな」
そう、それが一番大事なのだ。
まずはアイテムボックスを確認する。
はい。レベル一の時と同じね。レベルアップでマスが十ほど増えていた。
だから、現在は合計で三十マスとなった。
「次は豚王から出た宝箱だな」
淡々と必要な事を事務的に一つずつ片付けて行く。
宝箱から出てきたアイテムは腕輪だった。
アイテム鑑定機能で調べると『障壁の腕輪』という名前で、ビームシールドが張れるという事だった。ただ、残念なことに継続時間五秒で連続稼働不可、再発動ディレイが五秒となっていた。
要は、五秒間発動させたら、次の発動まで五秒待てということだろう。
それでも盾として使えるので、役に立つと言える。
「まあいい。試運転は後だ。次はステータスだな」
透かさず空中ディスプレーでステータスを表示させるが......
------
LV:2
HP:30/30
MP:30/30
------
STR:294/0/9
VIT:269/0/2
AGI:306/0/12
DEX:319/0/9
INT:10/0/2
LUK:10/10/0
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EX:0/10000
------
PT:10
------
ふむ。予想通りで最悪だ。
取得ポイントも最悪のケースで考えた通りだし、必要経験値も最悪の予測通りだ。
レベル補正も、HPもMPもLUKの補正が無い事も何もかも最悪の想定通りだ。
「死ね!ボケ!もう驚いてやんね~よ!バ~~~~~カ!」
結局、取得ポイントは無条件でLUKに振った。故に、今更ながら再確認する必要も無い。
なんたって、LUKの割振り値が二十になっただけだからな。
さて、次にスキルだ。前回は保留にしたので、今回を合わせて二ポイントあるが、結局のところ、上位スキルは何も見つからなかった。
仕方がないので、魔法を取得する事にした。
その心は、回復魔法があるなら、それを早く取りたかったからだ。
「ほれ!まほう~~っと」
魔法を取得すると、ポイントが一減って、次の項目が現れた。
その項目は、回復、解毒、解呪、火、水、土、風であり、問答無用で回復を取得した。
すると、スキル欄に回復一の文字が表示された。
更に説明を読むと、回復一でMP消費二、HP回復十となっていた。
まあ、HPが三十しか無い事を考えると最高だな。
最終的に全ステータスを確認すると、次の通りとなった。
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名前:高橋 颯太(タカハシ ソウタ)
種族:人間
年齢:16歳
称号:フルチン
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LV:2
HP:30/30
MP:30/30
------------------
STR:294/0/9
VIT:269/0/2
AGI:306/0/12
DEX:319/0/9
INT:10/0/2
LUK:10/20/0
------------------
EX:0/10000
------------------
PT:0
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SP:0
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<スキル>
回復1 MP2/HP10
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<装備>
金属バット
俊敏の靴
屈強のグローブ
障壁の腕輪
------------------
今更ながら、称号のフルチンを見てメラメラと怒りが湧いてくるが、いつかこの怒りを晴らしてやると考えて抑えつける。
それと、いつの間にか、誕生日を過ぎていた事に気付いたが、それも今更なので特に気に留めたりしない。
「さて、それじゃ。鍛錬と腕輪の効果を試すかね。回復スキルはHPが減ってからだ」
最早、独り言なのか心中の思いなのかも解らない言葉を漏らし、テントから出て砂浜へと繰り出すのだった。
水の抵抗は思いの外きついものだ。
だが、それでこそ遣る意味があると言える。
俺は海に入った状態で立ち回り、金属バットを振るう。
精一杯、何度も何度もHPが減るくらいに、水中での鍛錬を続ける。
こんな事をしても、最早ステータスが激変する訳でもないが、少しでも成長することを期待して闇雲に続ける。
俺を見て嘲笑う者、腹を抱えて爆笑する者、涙を流さんばかりにウケる者、そんな者達の姿を想像しながら、それに対する怒りを原動力に変え、身体の苦痛に耐え忍んで鍛錬を続ける。
既にバリアの試運転は終わらせた。
それは思ったよりも良い物で、この糞ゲーの中では上位となる一品だろう。
その耐久性については不明だが、盾があるという事は身体を守れるということだ。
無いより、あった方が良いに決まっている。
そんな地味で、大っ嫌いな鍛錬を続けて一カ月が経つ。
よくよく考えると、半年以上かかってレベル二とか本当に糞ゲーとしか思えないが、それも今更なので口にしない。
「ステータスの方も伸び悩みだな。何かいい方法がね~かな~~~」
ステータスを見ながら溜息を吐く。
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LV:2
HP:30/30
MP:30/30
---------
STR:320/0/9
VIT:284/0/2
AGI:323/0/12
DEX:334/0/9
INT:10/0/2
LUK:10/20/0
---------
EX:0/10000
---------
PT:0
---------
多少はあがっているが微々たるものだ。
この調子だと、チュートリアルが終わる前に、俺の寿命がくるだろう。
「ちっ、いっちょジャングルに行ってみるか。ヤバけりゃ速攻で撤収だ」
鍛錬の成果が芳しく無い事もあり、明日からは狩りをする事を決意して、今日の鍛錬を終えることにした。
翌朝、全く清々しいとも思えない灼熱の朝。
テントから出ると、一気に焼き焦がされるような熱さに見舞われる。
やっぱり糞ゲーだ。陽が登った途端に灼熱地獄になりやがる。
「流石に、半年以上もこの熱さの中をフルチンでいると、身体もこんがりと焼けるよな」
そう、色白だった身体は、まるでイカ墨でも被ったように日焼けしている。
でも、身体つきは信じられない程に屈強なものとなっていた。
それは、ボディービルダーのような筋肉ではなく、ボクサーのような身体つきへと変化していた。
まあ、そんな事は如何でも良いのだ。
色がどうなろうと、身体つきがどうなろうと、童貞なのにナニが真っ黒になろうと、戦いに勝てなければ何の意味も無いことだ。
「さて、狩りにいくか!でも、自分が狩られないようにしないとな」
自分を戒めつつ、ジャングルの中へ入ると、一匹のウサギがいた。
赤い目をしたウサギだ。だが、両手が鎌のような形になっている。
俺は戦わずして、速攻でジャングルから逃げ出す。
別に怖かった訳では無い。ウサギの情報を確認するためだ。
「モンスター情報オ~~~ン!はてさて」
そこに映し出されるモンスター情報は見栄えばかりが立派だ。
何せ、モンスターの見た目が3Dでゆっくりと回っているのだ。
そして、その下の解説が最悪なのだよ。
「何々、鎌ウサギ、集団で行動する事が多い。攻撃力よりも俊敏性が脅威」
何が脅威だ! 全て脅威じゃね~か! ボケッ!
なに笑ってんだよ! くそゴミ共が!
最早、完全に病んでいるのだが、それすらも分からない程に重症だった。
「よし、じゃ、狩りに行くか!」
再びジャングルに入ると、先程と同じ個体かどうかは不明だが、一匹のウサギがウロウロしていた。
「よし、まずあれをターゲットにするか......」
俺は周囲を慎重に見回す。というのも、オークの時みたいに仲間を呼ばれては大変だ。
特に、解説には集団で行動すると書いてあったからな。
しかし、そうこうしている内に奴もこちらに気付いたようだ。
くそっ、隙を突くつもりだったのに......
鎌ウサギは俺に気付くと、仲間を呼ばずに行き成り飛び掛かってきた。
あれ? こいつ、あまり速くないんじゃね?
確かに豚よりも速いが、対応できない程の速度だと思えない。
鎌の振り下ろしをサクッと避けて金属バットで殴り飛ばす。
すると、ウサギは一撃で霞となって消え、そこには兎の肉がドロップされた。
「えっ!?よえ~~じゃん。なんで?」
ドロップアイテムを拾い、一旦砂浜に戻りながらウサギの力を分析する。
もしかしたら、飛ぶから遅いのか...... 飛んでいる間は方向転換できないし、動き回られると厄介そうだが、タイマンなら負ける気がしね~~~。
「いやいや、一匹倒しただけだ。まだ解らん。気を引き締めて行こう」
そう己に言い聞かせて、三度となるジャングルへと入り込む。
暫く進むと、今度は三匹のウサギがいた。
流石に三匹を一度に相手にする気にはなれない。
俺は距離を取ったまま、拾った石を投げつける。
それに気付いたウサギがこちらに振り返り、ジャンプしながら迫ってくる。
そんなウサギたちの相手をせずに、砂浜に向かって全力で走り始める。
オークの時と同じ作戦だ。敵を分散させて狩る方法をチョイスしてみた。
と言っても、他の選択肢がないんだけどな......
走りながら後ろを振り返ると、追い掛けてくるウサギが一匹となっていた。
「よっしゃ!死ね!肉になれ!」
身体の向きを変え、透かさず金属バットでウサギを殴り飛ばす。
すると、二匹目が現れた。即座に体勢を立て直し、二匹目の攻撃を避けると金属バットの餌食にする。
更に、三匹目、四匹目、五匹目、六匹目、次々と現れるウサギを一撃で粉砕していく。
ここまで来ると、俺にも余裕はない。ひたすら襲って来るウサギを叩きのめすだけだ。
だが、そこで気付いた。全力で殴らなくてもウサギが死ぬことに。
その事に気付いてからは、随分と楽になった。なにせ、コンパクトな振りで相手を倒せるのだ。どれだけ襲って来ようと、コンパクトに金属バットを振れば、体勢は崩れないし、次の敵の対応も早く出来るのだ。
「おら!死ね!肉!肉!肉!うら!うらうらうら!」
しかし、流石に体力が続かなくなってきた。
周囲はドロップアイテムでいっぱいだ。一体どれだけのウサギを狩ったのだろうか。
そんな事を考えたのが拙かった。
金属バットが空を切り、ウサギの攻撃が俺に向かって来る。
「拙い!バリア!」
すぐさま左手を突き出してバリアを発動すると、ウサギの攻撃はそれに跳ね返された。
その隙を逃さず金属バットを叩き込む。
「やべ~やべ~~!気を抜かないようにしないとな」
そうやって、どれだけ戦いを続けただろうか。
無意識にウサギを叩き飛ばすと、ウサギの攻撃が止んだ。
警戒を解かずに、周囲を見回すがウサギの姿は見当たらない。
あるのは、肉となったドロップアイテムだけだった。
どうやら、全てのウサギを倒したらしい。
俺はそそくさとドロップアイテムを回収して砂浜へと戻るのだった。
砂浜に戻ると、直ぐに飯の用意をする事にした。
ウサギの肉を拾って来た枝に刺し、発火石で火を起して焼く。
見るからに美味そうな肉だ。涎が止まらない。
結局、ドロップアイテムを全て拾ったのだが、その数は百十八個だった。
ステータスを見ると、取得経験値も百十八となっていたので、恐らくドロップアイテムは簡単には消えないのだろう。
「しかし、あれだけ倒してEX百十八か......十日で千、三カ月で一万に届くか如何か」
糞ゲーとはいえ、流石に気が遠くなってくる。
これは少し無理してでも一日五百くらいは狩る必要がある。
こんがりと焼けたウサギの肉を齧りながら、明日からの目標について考えていたのだが、ウサギの肉の美味さに声を上げてしまった。
「うめ~~~!塩分が要ると思って海水に付けてから焼いたけど、程好い塩加減で最高に美味いや。こりゃ、沢山狩る必要があるな」
本来なら調味料が必要なところだが、それが無いので海水の塩分を利用してみた訳だ。ロースハムも美味かったが、この肉の美味さには到底勝てないだろう。
俄然やる気が増してきたぜって、ここで喜んでいるところを落とす作戦なんだろうな。
よし、淡々と、粛々と狩り続けるぜ。誰にも笑わせね~~~!
こうしてこの日はウサギの肉に満足して寝るのだった。
あれから一カ月の時が経った。
当初の目標の一日五百匹は無理だったが、一日三百以上の成果を上げることができた。
更に、二つだけ良い事があった。
それが何かと言うと、アイテムボックスの個数制限が一マス二千個になっていたことだ。
特に確認していなかったのだが、ウサギの肉を収納している間に気付いたのだ。
これまで分母の百が表示されていたのだが、いつの間にかそれが消えていたのだ。
恐らく、その変化が起きたのは、レベルが上がった時だと思うのだが、俺が見落としたのだろう。
てか、そこまで確認する気もなかったしな。
それともう一つの良かった事は、ウサギが時々団子を落とす事だ。
米が無い現状で、団子はとても嬉しかった。
甘い訳では無いので、ご飯代わりにウサギの焼肉と一緒に食べるのだが、その組み合わせが最高に美味かった。
てか、今はそれ処ではなかったのだ。
眼前にはボスウサギが居るのだ。と言っても、向こうは既に虫の息となっている。
俺の方も結構喰らったのだが、回復魔法でなんとかHPを維持している状態だ。
「キューーーーーーーーーー!」
ボスウサギが怒りの声を上げて飛び掛かってくる。
かなり早いが、それを躱して、奴の次なる攻撃をバリアで弾く、そして、止めの一撃を奴の頭部に炸裂させるのだ。
「しね~~~~~~~~!」
こうして今回は一度も死ぬ事なくレベルアップしたことに、満足げな表情となるのだった。
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