第4話 チュートリアルその4
カエルの時にも思ったが、そこらじゅうに生えている草がウザい。
草刈り機でもあれば、全部刈って遣りたい気分だ。
まあ、それは良いとして、今回の作戦は簡単だ。いや、今回の作戦もと言うべきか。
それもどうでも良い。今回は豚を二発で撃退したら、一旦逃げる。
これを千九十三回やればいいだけだ。
大したことは無い。俺が一度に行う片手腕立て伏せの回数の方が多いからな。
ああ、因みにステータスはこんなもんだ。
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LV:1
HP:20/20
MP:20/20
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STR:230/0/7
VIT:201/0/1
AGI:251/0/11
DEX:264/0/7
INT:10/0/1
LUK:10/10/0
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EX:-93/1000
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PT:0
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これなら、豚を二発で屠殺できるだろう。
「おっ、豚発見!」
早速、豚を発見した。仲間を呼ばれる前に狩る。
こっそりと豚に後ろから近付きながら、金属バットを持つ手に力を込める。
「俺の痛みを思いしれ!死ね!」
バコッ! バコッ! という打撃音二発で終わらせた。良し、上々だ。
霞が掛かって消えてゆく豚を見ながら、ニヤリと笑みを零す。
そこに在られたドロップアイテムを拾って、一旦下がろう。
「ほ~、オークのドロップはロースハムか!」
オークが霞となった後にはロースハムが落ちていたのだ。
なんか不衛生な感じがするけど、洗えば大丈夫だよな。
カエルの足も少なくなってきたことだし、丁度いい収穫だ。
「三秒以内に拾ったし......問題なし!」
こうしてオークを初めて倒したのだが、以前のような喜びは生まれてこなかった。
ただ只管にオークを殲滅したいという思いだけだが、心の中でメラメラと燃えている。
そして冷静にステータスを確認する。
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LV:1
HP:20/20
MP:20/20
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STR:230/0/7
VIT:201/0/1
AGI:251/0/11
DEX:264/0/7
INT:10/0/1
LUK:10/10/0
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EX:-92/1000 ▲
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PT:0
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「ふんっ、もう驚いてやらね~。どうせこんなこったろうと思ったぜ」
そう、オーク一匹の取得経験値は一だった。
「けっ、千匹でも、万匹でも倒してやるさ。ば~~~か!見てろよ」
この頃には、病もかなり悪化して、被害妄想を抱くようになっていた。
「ネットかなんかで、俺の様を見て笑ってるんだろ?けっ!」
そんな独り言を口にしながら病的な笑みを湛え、次のオークを探すのだった。
オークの斧が振り下ろされる。
即座にそれを躱すと、距離を取ってその場から速やかに離れる。
すると、ぞろぞろとオークが集団で追い掛けてくる。
「ちっ、こいつら、なかなか単独で動かね~~!」
そう、現在の俺は釣りをしているのだ。
どうも、オークは集団で行動する習性があるようで、単独で見掛ける事が少ないのだ。
それに業を煮やした俺は、オークを釣ることで奴等を分散させる作戦に出た。
この作戦で、一日十匹程度だった成果を三倍の三十匹まで引き上げることに成功した。
それに味を占めた俺は、毎日の様にこの作戦で狩っていく。
後ろを振り返ると、追いかてくるオークが二匹になっていた。
「よっしゃ~!死ね~~~!クタバレつ~~~の!」
怒声を撒き散らしながら、金属バットでオークをボコる。
と言っても、二発で死ぬので、二匹なら速攻で始末できる。
「おっ、チャーシューじゃね~か」
オークのレアドロップはチャーシューだった......
俺は呆れながらもチャーシューを齧りつつ、分散されたであろうオークを狩りに戻るのだった。
オークを狩り始めて一カ月、やっとEXが九百九十になった。
それを確認した俺は、狩りを止めて砂浜に戻る。
「ふんっ、どうせあと少しの処でボスが出るんだろ?ネタは割れてんだよ。ボケっ!」
いつの間にか、最悪のケースを考慮して行動するようになっていた。
これが意外に成果を上げていて、ここ最近では死ぬような目に遭う事はなかった。
砂浜に戻り、海に入って汗を流すと、そのままトレーニングを開始する。
もう砂浜でのトレーニングでは、基礎値が上がらなくなってきているのだ。
だから、海の中で走ったり、飛んだり、スクワットをしたり、金属バットを振ったりと、様々な方法で鍛錬を続ける。
こうして一カ月のトレーニングを終わらせて、明日はいよいよボスとの一戦だ。
砂浜に寝転がって星の輝く夜空を鑑賞する事無く、ステータスの確認を行う。
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LV:1
HP:20/20
MP:20/20
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STR:292/0/7
VIT:264/0/1
AGI:303/0/11
DEX:314/0/7
INT:10/0/1
LUK:10/10/0
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EX:990/1000
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PT:0
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かなり頑張って鍛えたのだが、基礎値の上昇度合いは芳しくなかった。
でも、これ以上を求めるなら、何年も鍛錬をするしかない。
だが、それだと食料がもたないのだ。
どうせ、ボスを倒してレベルアップしたら、また強い敵が現れるのだ。
そうなると、今のままでは太刀打ちできないから、また鍛錬することになる。
だったら、ここで勝負を懸けるべきだ。
「あと、食料の在庫は~~。ロースハムが七百二十個か。一日で約三個食べて二百七十日分だな」
カエルの足は既に消費し終わっていたし、チャーシューは全部で四個しか出ていない。
確かにロースハムより美味しかったが、別に心惹かれる程では無かったので、速攻で食べてしまった。
俺はこのゲームで一番気の利いたアイテムである水筒を取り出し、徐に水をがぶ飲みする。
「さあ、明日のお楽しみだな。いや、見ている奴の度肝を抜いてやるぜ」
そんな事を口にしながら、熱くも無く寒くも無い夜を砂浜に転がって過ごすのだった。
俺の動体くらいありそうな斧が振り下ろされる。
即座にバックステップでそれを躱すと、斧を持つ手を金属バットで殴り付ける。
その衝撃で怯んだ処を狙い、懐に入って短く太い足に金属バットを叩き付ける。
「ブヒッーーーー!」
一度、離れて周囲の状況を確認しつつ、再び襲い掛かって来たオークキングの後ろに回り込む。
どうも、オークキングの動きは俺よりも遅い。だが、攻撃力と耐久力が半端ないぜ。
さっきから気合の攻撃を何度も叩き込んでいるが、ヒットポイントの減りが微妙だ。
現状で、四分の一ほど減ったくらいだろうか。
「糞豚王が~~~!さっさと死にやがれ!」
罵声を浴びせながら、奴の死角に回り込みながら殴り続ける。
くそっ、向こうの一撃で、恐らく俺は死ねる。だから一発も当たる訳には行かないのだが、それがプレッシャーとなって襲ってくる。
だが、俺は生まれ変わったのだ。こんな事でビビったりしね~。
あの、甘く弱虫な俺はもう居ない。ここに居るのはクソッタレな奴等をぶっ殺すまで耐え抜く事を誓った変態なんだ。
「おりゃ!死ね!喰らえ!これでもか!」
ヒットアンドアウェイを繰り返し、遮二無二、豚王を殴り続ける。
豚王はブヒブヒ叫びながら巨大な斧を振り回すが、俺の移動速度はそれを上回る。
空振った処を見逃す事無く殴り掛かるのだ。
「くそっ、こんだけやって、やっと半分か。HP多過ぎるだろ!まあいい。死ぬまで付き合ってやるさ」
ところが、豚王が急に動きを止めたかと思うと、変なポーズを取りながら奇声をあげた。
「ぷぴ~~~~~ん!」
なんだ。このポーズと奇声は。まるで売れない漫才師じゃね~か。
その事を不審に思っていたのだが、笑えないのはそのポーズと奇声だけでは無かった。
次の瞬間、豚王が俺の後ろに高速で回り込んだ。
くそっ、なんだこのスピードは。さっきまでと全く違うじゃね~か!
何を遣ったかは解らなかったが、豚王の動きが一気に倍増したのは解った。
後ろに回り込んだ奴の攻撃を避けるために、必至で飛び退る。
だが、奴の攻撃速度は俺を上回っているようだった。
「ちくしょう~~。ここまで来て攻撃力アップとか在り得んだろう。いや、これは糞ゲーだ。こんな事はお茶の再々か」
弱気になる気持ちを無理矢理に抑え込んで、奴の振り下ろしてくる斧の軌道を見定める。
そう、速けりゃいいってもんじゃね~~。
戦いは経験や度胸も必要なのさ。ああ、あと運もだな。
奴が振り下ろしてきた巨大斧を紙一重で躱し、奴の手首を思いっきり金属バットで打ちのめす。
すると、今までに無かった感触が伝わり、異様な音が響き渡る。
そう、豚王の腕の骨が折れる音だ。
「おおお~~~!死ねや~~~~!」
苦痛に呻く《うめ》奴の頭に、渾身の一撃を見舞う。
最早、奴のHPを見る余裕なんてない。必死に金属バットを振り下ろすだけだ。
「死ね!死ね!死ね!死ね~~~~~~~~~~~~~!」
そんな無様な攻撃で、奴は霞となって消えて行く。
本来なら、まだまだ死に至る程ではない筈なのだが、恐らく奴の手首を折った攻撃がクリティカル攻撃だったのだろう。
HPを見る暇も無かったが、そうとしか思えなかった。
まあいい。俺が勝ったことには変わりない。
さて、宝箱を回収して退散するか。
消えて無くなった豚王の代わりに宝箱が落ちていた。
それを見た俺はこれまでと違い、大して喜ぶ事も無くその宝箱を回収する。
すると、巨大カエルの時の様に意識に霞が掛かるのが分かった。
ふむ、次はレベル三の壁だな。見てろよ。絶対に完遂させてやる。
「絶対に、絶対にお前等を始末して遣るぞ!」
その言葉を最後に、俺の意識は真っ白な世界に包まれるのだった。
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