第2話 チュートリアルその2
灼熱の太陽、青い海、南の楽園。
ここはそんな温い世界ではない。
この世界を例えるならば、糞ゲー! 無理ゲー! そう、その二つに尽きるのだ。
そんな糞な世界の二日目、遂にカエルを撃退した。
恐らく、人生で一番喜んだ瞬間だったと思う。
更には、ドロップアイテムもゲットしてきた。
「てか、これって食いもので良いんだよな?」
アイテム鑑定機能で調べると、「カエルの足。とても美味しいが、焼くともっとおいしい」という説明が表示された。
見た目は鶏モモのような感じで、確かに美味そうな雰囲気だ。
焼くと良いと書いてあるが、火がないから焼くことなんて不可能だ。
その事を残念に思いながらも、カエルの足を一旦アイテムボックスに仕舞い、ステータスの確認を行った。
すると、予想外の事が起きていた。
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LV:0
HP:10/10
MP:10/10
------
STR:11/0/0
VIT:11/0/0
AGI:11/0/0
DEX:11/0/0
INT:10/0/0
LUK:10/0/0
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EX:-99/100
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EXは解っていたので良いとして、STR、VIT、AGI、DEXが一ポイント上がっているのだ。
これは如何いう事だろうか。
透かさずガイダンスで確認すると、基礎体力は鍛錬で上昇すると書かれてあった。
「要は、筋トレをするとステータスが上昇するんだな」
それを検証するために、砂浜を限界まで全力疾走することにした。
暫く走った後に足を止め、ハアハアと息を切らせながらステータスを再び確認する。
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LV:0
HP:10/10
MP:10/10
------
STR:12/0/0
VIT:11/0/0
AGI:12/0/0
DEX:12/0/0
INT:10/0/0
LUK:10/0/0
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EX:-99/100
------
すると、STR、AGI、DEXの三種類が上場していてた。
走ったのでAGIが上がるのは解るのだけど、なんでSTRとDEXまで上がっているのだろうか。
色々と考えたけど、答えは出なかった。
故に、足腰が強化されたら、攻撃力や命中率が上がるのだろうと、勝手に決めつけることにした。
ただ、気になったのが、これまでも散々ステータスの確認を行ったのに、ここで初めてステータスの上昇に気付いたことだ。
もしかしたら、今までも上がっていたけど、死に戻りでリセットされたとか?
いや、恐らくそうに違いない。だから、これまで気付かなかったんだ。
「ま、確かめるには死ぬしかないし、でも死にたくないから、保留にしとくか」
結局、良く解らないまま自己解決させて、カエルの足を食べる事にしたのだった。
砂浜とは思ったより体力を削られるところだ。
足は取られるし、照り返しは凄いし、ちょっと走っただけで体力の限界を感じる。
そう、現在の俺は砂浜をひたすら走っている。
カエルの足を食い終わると、狩りに向かうのではなく、基礎体力を上げる事にしたのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、くそっ、これでやっと二ポイントか」
既に何時間も走っているのだが、ステータスの上昇は芳しくなかった。
だが、遣らないよりはマシだと考えて、一番嫌いだった筈の根性論で基礎体力の向上を図っている。
「取り敢えず、チュートリアルの期限は無いようだから、当面は基礎体力向上と食料調達をメインにしよう」
その計画が功を奏したのか、三日に一度のカエル討伐も、当初に比べるとかなり楽になってきた。
そんな日々を二十日ほど過ごしたのだが、そろそろ基礎体力の向上よりも狩りに重点を置くことに決めた。
「よっしゃ!ここまでステータスが上がれば、ジャングルでの狩りも何とかなるだろう」
ステータス画面を見ながら満足気に独り言を発動させる。
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LV:0
HP:10/10
MP:10/10
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STR:40/0/0
VIT:39/0/0
AGI:40/0/0
DEX:40/0/0
INT:10/0/0
LUK:10/0/0
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EX:-91/100
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二十日間で倒したカエルの数は八匹で、一匹一ポイントで各八ポイントの上昇。
更にトレーニングで各二十ポイントを稼いだ。
「これで今日からはカエルをバンバン倒すのだ」
そう意気込んでジャングルへと入ったのだが、狩り始めて暫く経つとカエルの姿が見当たらなくなってしまった。
もしかして、狩り尽くしたのか。いやいや、そんなチュートリアルなんて在り得ないだろう。
そんな事を考えながら奥へと進むと、凄まじいほどのカエルの合唱が聞えてくる。
「くそっ、モンハウかよ。バラケて湧けよな~~。今日は一旦戻るとするか」
それでも、この日は全部で二十匹のカエルを討ち取った。
これで、暫く飯に困ることはない。
オマケに、ジャングルを彷徨っている時に、運良く発火石というアイテムを拾った。
このアイテムは、火を起す事が出来るらしい。ただ、残念ながら消耗品であり、一度使うと消滅するようだ。
「よし、これなら、もう少し頑張れるな」
ジャングルから拾ってきた枯れ木と発火石で起こし、その焚火で焼いたカエルの足を齧りながらステータスを確認する。
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LV:0
HP:10/10
MP:10/10
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STR:60/0/0
VIT:49/0/0
AGI:60/0/0
DEX:60/0/0
INT:10/0/0
LUK:10/0/0
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EX:-71/100
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鍛錬と狩りでいい感じにステータスが上昇しているのだが、VITの上りが悪いのが少し気になる。
というのも、LVが上がっていないので、HPが十のままなのだ。だから、数発の攻撃を喰らうと死に戻ってしまう。
そうなると、恐らくステータスがリセットされて元の木阿弥となるだろう。
「やはり、レベルが上がるまでは、慎重に狩りを進める必要があるな」
もうすっかり癖になった独り言を口走りながら、自分自身に言い聞かせるのだった。
あれから一カ月の時が経った。
「死ねカエル! 俺の経験値の糧となれ! 腹の足しになれ!」
カエルを次から次へと金属バットで殴り飛ばしながら吠える。
今やカエルの数匹なら気にならない程に成長した。
相変わらずLV0のままだが、ステータスの方はかなりのものとなった。
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LV:0
HP:10/10
MP:10/10
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STR:121/0/0
VIT:108/0/0
AGI:114/0/0
DEX:124/0/0
INT:10/0/0
LUK:10/0/0
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EX:93/100
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現状のステータスなら、カエルから一撃を喰らってもHPは減ったりしない。
十発くらい喰らうと一ポイント減るくらいだ。
だが、やはりステータスの上昇はどんどん悪くなってきている。
始めの調子でいけば、二百を超えてる筈なのだが、基礎体力には限界があるのかもしれない。
それよりも気になるのが、LUKが全く上がらないことだ。
INTについては魔法を使っている訳じゃないんで、上がらないのも分かるけど、LUKが全く上がらないのは、気分的に落ち込むよな。
だが、あと七匹でレベルアップだ。気合を入れて行こう。
「てか、よくよく考えると、まだチュートリアルだし、一レベル上げるのに一カ月以上かかるってどうよ」
最早、完全に空気と話が出来るようになった俺は、所構わず独り言を口走りながらジャングルを突き進む。
そして、災厄と出会う事になってしまった。
「に、逃げるか! その方がいいな!」
そう、俺の目の前には巨大なカエルが居るのだ。
そのサイズは、軽自動車くらいあるだろうか。
恐らく数発喰らったら、無情にもスタート地点に戻る事になるだろう。
「ぐっ、はえ~~~! てめえ、ほんとにカエルか?」
逃げようとした俺の眼前に、物凄い速度で移動してきた。
「やべ~! 逃げられそうにない......くそっ、こんな所でボスと遭遇するとか......」
いや、これはそう仕組まれているんだ。ここで初期化させて心を折る気なんだ。
くそっ! 悔しい。悔しい。悔しい。
その時、心中でメラメラと燃え上がるものがあった。
何かは解らないが、巨大カエルの恐怖なんて払拭する程の怒りが込み上げてくる。
「ああ、これは怒りの炎か!」
怒りに任せて完全に開き直った俺は、巨大カエルに向かって金属バットを構える。
まるでホームラン予告のようだ。
だが、奴は俺の行動に動揺する事無く、即座に姿を消す。
いや、消えるはずは無い。神経を研ぎ澄まして察知するんだ。
攻撃をするなら、必ず接点が生まれる筈だ。だから、そこにチャンスがある。
しかし、無情にも奴の動きを捉えることが出来ない。
「くそっ、流石にプチボス、一撃で一ポイント持っていかれる」
諦めるな、絶対に諦めるんじゃない!
絶対絶命のピンチだが、己にそう言い聞かす。
すると、風きり音が聞えてきた。
それに反応して即座に頭を下げと、俺の頭のあった位置を奴の手が通り過ぎる。
透かさず、その手を追うようにバットで殴り飛ばす。
「よっしゃ! ヒットの感触があったぜ!」
喜ぶのも束の間、すぐさまバックステップで後ろに下がると、今度は後ろから風きり音が聞こえてくる。
恐らく、俺よりも速く移動して後ろに回り込んだのだろう。
再び屈みながら、金属バットを振り抜く。
今度はカウンター気味に奴の腕に叩き込めたのだろう。
更にバックステップで距離を置くと、奴は追い駆けてこなかった。
というか、両腕をぶら下げている状態だ。
それを見た時、一気に気分が高揚し、即座に攻撃に移る。
「チャ~~~~~~~~~~ンス!」
だが、その攻撃はチャンスだと息巻いた所為で単調なものとなっていたのだろう。見事に反撃の蹴りを喰らってしまう。
ヤバイ、HPがあと二ポイントしかない。
そんな焦りを感じた時、奴の姿は既に俺の眼前にあった。
それは、もはや逃げることの出来る状況ではない。そう考えた俺は一発勝負の賭けにでる。
「おりゃ~~~! 負けね~~~~~!」
奴の蹴りが襲い掛かって来る。だが、その時の俺はまるで時が止まったかの様な錯覚に陥る。
正面からの蹴りだ。避ける!
うぐっ、意識に身体が付いてこない。
くそっ、もう少し、もう少しなんだ。
意識は敵の攻撃を捉えているのに、身体が付いてこない。その事にもどかしさを感じながらも、必死に身体を捻って避けようとする。
そして、コマ送りのような時の流れが終わると、奴の足は俺を通り過ぎた処だった。
そう、俺は避け切ったのだ。
「喰らえ~~~~!」
今度は大振りにならないように気を付けて、奴の頭に金属バットを振り下ろす。
物凄い感触だった。何か硬い物をぶっ叩いたような感触だ。
その反動は金属バットに伝わり、俺の手を痺れさせる。
だが、チャンスは今しかない。
俺は必死になって金属バットを何度も奴の頭へと叩き付ける。
何度も、何度も、何度も、気が遠くなる程に繰り返す。
気が付くと、いつの間にか何もない地面を叩き続けていたのだった。
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