第1話 チュートリアルその1
やけに暑い。いや、この場合、熱いが妥当だ。
余りの熱さに意識が覚醒する。
瞼を開くと......
「うぎゃ~~~~! 目が! 目が! 目が~~~~~!」
灼熱の太陽で目をやられた......
どうやら、この太陽のせいで熱いのだろう。
確かに、夏休み前だからな。日差しも強いだろうけど。
何故、俺はこんな所で寝ている?
ああ、分かったぞ。この暑さのせいで熱中症になったんだな。
謎は全て解けたとばかりに身体を起すが、妙に身体が気怠い。
身体の不調を不審に思いながらも、再び瞼を開いて周囲を見回す。
「ん? 夢かな?」
もう一度目を瞑る。そして、三度目を開ける。
更に黙考すること五分。カップラーメンが出来上がる頃だ。
いやいや、そんな場合ではないだろう。
「ここってどこなんだ?」
俺の目の前には、広大な海原が広がっている。
地面は......今更ながらだが、土では無く砂だった。
あちっ!
灼熱の太陽に曝された砂に置いた所為で火傷しそうになった手の状態を確認する。
しかし、掌には見知らぬものが見える。
「なにこれ?」
視界を上げて、何処までも続く水平線に目を向け、そこで理解する。
どうやら、掌では無く、俺の視界に見知らぬものが映っていることに気付く。
「もしかして、これって、俺の頭がとうとう逝っちまったか?」
自分の正常性に自信を無くした時だった。
俺の眼前にメッセージが表示される。
「うおっ! なんだこれ! ......てか、空中ディスプレーかよ! すげ~~~~!」
そう、それは三十センチ四方サイズの空中ディスプレーだった。
更に、そこには俺の想像を絶する言葉が刻まれていた。
『
ちょっとまてや~~~~~~~~!!!
ゲームと死の二択かよ~~~~!
それに、『アンリ―チャブル』って、確か到達不能って意味だよな?
「えええええ~~~~~~~!!!」
不審に思っていた俺の口から思わず驚愕の声が飛び出す。というのも、選択のカウントダウンが始まったからだ。
それも、スタートが『5』からだ......
「やるやるやる! ゲームスタート!」
慌ててスタートボタンを押す。
すると、カウントは『1』でストップした。
ヤバいぞこれ。てか、なんでこんな事になってるんだ?
そんな俺の疑問をそっちのけで、チュートリアルが始まったのだが、そこには次のような言葉が映し出されていた。
『チュートリアルを終了するにはレベル十になる必要があります。また、あなたは途中でゲームを終了する事が出来ます。但し、ゲーム終了はあなたの消滅を意味します』
「ちょっとまてや~~~! これって、全然ゲームになってないだろ!」
空中スクリーンに向けて叫んでみたが、当然ながら答えてくれる訳もない。
溜息を一つ吐いて、諦めモードでスクリーンの『次へ』を押す。
こうしてゲームのやり方を覚えたのだが、とても面白くなさそうなゲーム内容だった。
まあ、こんな状況だと、どんなゲームでも楽しくないわな。
さて、ガイダンスを軽く流し読みして分かった事だが、俺の視界に見えるのはHPとMPのゲージと値だった。それに、ステータス異常になると視界に異常マークが表示されるみたいだ。
「よくよく考えると、これってVRMMOなんじゃないか?」
誰も聞く者が居ない中、思わず言葉にしてみたが、当然ながら返事がある訳でもない。聞こえてくるのは、打ち寄せる波の音だけだ。
それは良いとして、次にアイテムボックスがあった。
これは中々の優れもので、現在のレベルで十種のアイテムを収納可能で、同じ物が百個まで収納できる。
ああ、レベルの事が出て来たので序に話すと、現在のレベルは『0』だ。
スタートがゼロのゲームとか初めて見たわ。
その次はステータスなのだが、内容は通常のゲームと似たようなものだった。
敢えて説明すると、次のような感じだが、殆ど見ることも無いだろう。
------
LV:0
HP:10/10
MP:10/10
------
STR:10/0/0
VIT:10/0/0
AGI:10/0/0
DEX:10/0/0
INT:10/0/0
LUK:10/0/0
------
EX:0/100
------
恐らく、説明の必要も無いと思うが、スラッシュが二回ある処は、基礎値/割振り値/レベル補正となっている。
これで納得したのは、身体の怠さだ。
どうやら、初期ステータスになったことで、元から低かった筋力まで更に低下したようだ。
それ以外にも、まだまだあるのだが、止めにして早速狩りをする事にした。
しかし、そこで思わぬ現実を思い知らされる事となるのであった。
さて、武器だが......アイテムボックスには水筒しかなかった......
その水筒には『不滅の水筒』という名前が付けられていて、どれだけ飲んでも蓋を閉めると中の水が満タンになるというものだった。
一応、最低限の生命線だけは確保された訳だ。
それにしても......
「普通、ナイフくらいあるだろ! バカ野郎!」
取り敢えず、腹立ちを撒き散らすが、何の効果も無い。いや、俺の気分が五グラムくらい晴れたかも知れない。
「くそっ、なんか武器になるものは~~っと」
周囲を見回すが、片方は海原、もう片方はジャングルだ。
武器は欲しいが、無手でジャングルに入るのは怖い。
しかし、このままでは埒が明かない。
「え~~~い! くそっ!逝ってやるさ!」
意を決してジャングルで棒でも探すことにしたのだが、五メートルも進まないうちにカエルと遭遇した。
それはデフォルメされたカエルで、とても愛嬌を感じる。だが、そのサイズは大型犬くらいあるのだ。
それが決して安全で無い生き物だということは、俺の少ない脳みそでも理解できる。
「あ、そう言えば、モンスター鑑定機能があったんだ」
そう思ったのだが、カエルはそんな悠長な事をさせてくれなかった。
即座に飛び跳ねると、俺に体当たりをカマしてくる。
「いて~~~! って、おい、HPが残り半分じゃね~か!」
その攻撃で地面に尻餅を突いた俺の視界には、半分になったHPのゲージが映る。
それを見て慌てて逃げ出そうとするが、無情にもカエルは
あつ~~~~! 何だこの熱さは!
背中の焼ける感覚で意識が覚醒すると即座に身体を起す。
「あれ?生きてる......もしかして、死に戻りが有りなのか?」
身体を確認するが、何処にも異常はない。
どうやら、死んだらセーブポイントに戻るようだ。
ただ、気になる事があった。それは、上に来ていたシャツが無くなっている。
Tシャツの上にアロハ風のシャツを着てたはずなのだが......
もう一度、ガイダンスを読んでみると、デスぺナについて見落としていた事に気付いた。
『死ぬとセーブポイントに戻ります。デスペナルティは低確率アイテムロスト及び経験値のダウン。但し、レベルダウンはありません』
そんな内容が空間ディスプレーに映し出された。
その内容を理解した俺が即座にステータスを確認すると、EXの値がゼロからマイナス十になっていた。
「行き成りマイナススタートってどうよ」
呆れた俺は溜息を吐くのだが、ゲーム終了は消滅を意味している。
故に、簡単に止めた~! という訳にはいかないのだ。
「そう簡単に死んでやるもんか」
気合と気分を入れ直し、カエルの情報をモンスター鑑定機能で確認する。そして、ぶっ魂消た。
「カエルの経験値が一ってどうなっとんじゃ! 一回死んだら十匹倒す必要があるのか? オマケにHP百とか有り得んだろ! 俺のHPの十倍だぞ!」
あまりの力の差に愕然とし、そのまま砂浜に力無くぶっ倒れる。
オマケに、持ち直した気力が抜け出して行くような気がする。
「くそっ、確かに、平凡な毎日に飽き飽きしてたけど、幾らなんでもこれはないだろ。どんだけ無理ゲーなんだ?」
暫くそうやって自暴自棄になっていたが、空腹を訴えるお腹の音で我に返る。
「もしかして、お腹も空くのか?」
砂浜で転がったままガイダンスを再び開く。
空腹について検索すると、直ぐにその情報を見付ける事ができた。
「何々、何だと~~~~~~! 一週間食わなかったら死亡だと! 餓死でセーブポイントかよ」
駄目だ。無理ゲー決定だ。糞ゲー決定だ。有り得ん。こんなゲーム設定した奴を殺してりたい。
くそっ! そうだ! このゲームに一泡吹かすまで消滅してたまるか!
こうして己を鼓舞して頑張ったのが、この日は十回死んでもカエル一匹倒せなかったのだった。
翌朝、夜通し考えた行動に移った。
まずは、流木探しだ。
というのも、カエルを素手で殴っても、ダメージを『一』しか与えられなかったのだ。
「こっちは二発でお陀仏なのに......」
愚痴を溢しながら流木を探したのだが、細木の一本すら見当たらなかった。
よくよく考えると、ここはゲームの世界だ。流木なんて流れ着く筈がない。
しかし、驚く事に何故か宝箱が落ちていた。
「まさか、ミミックじゃないよな?」
不審に思ったが、今更ミミックが出て来てもどうせ死に戻るだけだ。
必要経験値も既にマイナス百だし、今更だな。今の俺に捨てるものはね~~!
死ぬ事の恐ろしさから解放された俺は宝箱を一気に開ける。すると、中には武器らしき物が入っていた。
「おっ! 武器キターーーーーーーーーーーー! って、なんで金属バット?」
中に入っていたのは金属バットだった。
「まあいい。これで、戦える。俺の戦いを」
何処かで聞いたフレーズで景気づけして、金属バットを振り回す。
何故か同時に己のバットも揺れている。
そう、おれはフルチンなのだ。
何が低確率だ! バカ野郎!
昨日の戦闘で十回の死亡を経験し、身ぐるみロストしてしまったのだ。
靴も無ければ、靴下も無く、ズボンも無ければ、パンツも無い。
現在の姿は完全に生まれたままの状態だ。
これで死んだら、金属バットも無くなるんだよな? 気を付けなきゃ!
いやいや、自前のバットは無くならんよ?
「それにしても腹減ったぜ。というか、お腹が空くのに食い物の気配がないよな。ジャングルや海に食い物があるのかな?」
そんな事を考えるが、ジャングルは数メートル進めばカエルに狩られるし、恐らく海も同様だろう。
「まあいい。これでヒットアンドアウェイでカエルを倒すぞ」
すっかり癖になってしまった独り言を口にしながら、ジャングルへと向かう。
やはり五メートルくらい進んだ所にカエルがいた。
しかし、奴はまだこちらに気付いていないようだ。
後ろからゆっくりと近付くと、気合をいれて金属バットを振り下ろす。
ぐちゃっという感触が手に伝わるが、相手がカエルなので甲高い音がしたりはしない。
「よっしゃ、相手のHPが半分減ったぞ!」
喜んだのも束の間、歓喜で緊張感が緩んだ所に体当たりを喰らう。
「やべ~~~!」
もう一発喰らったら死ぬ。ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ~~~~!
「くそっ! くそっ! くそっ!」
必死に金属バットを振り回しながらカエルとの距離を取る。
ここは一旦引くべきだろう。そしてHPを回復してから......いや、もしかしたら、時間を置くと、カエルも回復するかもしれない。
「イチかバチかじゃ~~~~~~~~!」
捨て身で金属バットを振り下ろすと、それがカエルの体当たりをカウンターで殴り飛ばす形となり、襲ってきた奴の方が吹っ飛んだ。
ゼイゼイと息を荒くしながら、殴り飛ばしたカエルを確認すると、ひっくり返ったままの奴は霞の様に消えて行く。
どうやら、なんとか倒せたようだ。
「よっしゃ~~~!」
遂にカエルを打倒し、歓喜の雄叫びをあげる。
感慨深くカエルの消えた場所に視線をやると、そこには何かが落ちている。
しかし、透かさず拾いに行こうとして立ち止まる。
「ここで慌てて拾いに行って、別のカエルに遣られたらアフォだもんな」
己に言い聞かせるようにして、辺りを警戒しながらゆっくりと進む。
周囲を確認して安全であると判断すると、即座にそれを拾って砂浜へと全力疾走で戻ったのだった。
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