第19話 好敵手

 対局が終わり、夏実と麗奈は休憩のため一度対局室の外に出る。


 廊下に出たとたんに、緊張感が和らいだのか夏実は大きく息を吐く。


「ああ、もうっ、悔しいっ!」突然、麗奈が声をあげる。


麗奈のストレートな感情表現に夏実が驚く。麗奈が深呼吸をして感情を整える。


「今回は不覚を取りましたが、次は負けませんからね・・・・・・、って何を笑ってますの?」麗奈はにこにこと笑顔を見せる夏実をいぶかしげに見る。


「ごめん、何だかすごくいいなあって思って」夏実の説明に、麗奈は不思議そうな表情を浮かべる。馬鹿にしているわけではないことは伝わったようだ。


「今まで打ってきた中で、そんな風に素直に負けて悔しいって言える人があんまり傍にいなかったから」


「それは私が子供っぽいって、そう言いたいんですの?」麗奈の言葉に、慌てて夏実が否定する。


「子供っぽいのは、どっちかというとあたしの方だよ。そうじゃなくて、おじいちゃんとかが相手だと勝っても褒められるだけで、対等に見てくれる人がいなかったから」


 麗奈がその説明に、得心がいったようにうなずく。


「それなら、私たちは今日からライバルですわね」麗奈が宣言する。


「ライバル? うん、そうだね。今日からライバルだあ」夏実も喜びながら、宣言を繰り返す。


「何回も言いませんこと、こっちが恥ずかしくなってきますわ」マンガのような台詞を言ったことが気恥ずかしくなったのか、麗奈が文句を言う。


「やっぱり囲碁って楽しいなあ、って。次もまたよろしくね、麗奈ちゃん!」夏実が手を差し出す。


「こちらこそよろしくお願いしますわ」麗奈が差し出された手を握り、握手をする。力を出し切った自分と相手を賞賛するかのように。


 戦うのは一度だけではない、と麗奈は思った。勝ったり負けたりを繰り返して互いを高め合うのだと。だから今は勝ちを預けておこう、己を高めるために。

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