第11話、闇夜の中へ・・・
「 燃料だとっ・・? 」
ロメルが、身を乗り出しながら尋ねた。
「 そうです、大隊長・・! リックがいた観測基地の地下に、大量の備蓄が残されているそうです 」
デンバーが答える。
野営用のテントを張った、仮設の指揮所・・・
各部隊の指揮官たちが集まり、作戦会議をしていた。 電池式のカンテラが、薄暗い灯りを照らし出している。 真っ暗な砂漠では、これでも充分過ぎる程の光源だ。 コの字形に並べられた、会議用長机にロメル以下、数人の将校・指揮官が座っている。 その中の1人、ヘインズが言った。
「 地下パイプラインか・・! そんなモノが、埋設されていたとはな。 ホントか? パーク中佐 」
傍らにいた、足に包帯を巻いた将校に尋ねる。 ヘインズの指揮壕内にいた政府軍 第12機甲師団の師団長である。
「 辺境観測基地の事は、私も良くは分からない。 だが、第7管区は、戦略的重要地域だった。 有り得るな・・! リック中尉・・ だったね? 君は、サイトの主任だったのかね? 」
「 はい。 監視レーダーの担当でした、パーク中佐 」
パークの問いに答える、リック。
「 ふうむ・・ だとしたら基地内の事は、当然、熟知しているはずだ。 情報は正確だろう 」
パークの隣に座っていた、比較的若い将校が追伸した。
「 パーク中佐。 自分の部隊は、第7管区の隣でした。 地下パイプラインの話しは、ライネル准将から聞いた事があります・・! 地下施設の事は、存じませんでしたが・・ 」
ライネル准将とは、リックが所属していた第7管区を含む、広範囲の戦域を管轄していた将軍である。
ロメルが言った。
「 ライネル准将か・・ 政府軍の中では、猛将で知られる、数少ない名将だったな。 ワシも1度、対敵した事がある。 コテンパンにヤラれたよ。 その敵味方同士が、今や、同じ机に着いている・・ 何だか、不思議なモンだな。 そう言えば、キミの名を聞いていなかったぞ? ワシは・・ 」
ロメルを制し、その指揮官は言った。
「 第1レンジャーの、ロメル少佐ですな? 武勇伝は、色々とうかがっております。 自分は、政府軍 第46師団 第3砲兵連隊の、ネルソン少佐であります 」
「 ・・おお・・! 我が方の第4師団と交戦せず、自主停戦して一緒に行動を共にしていた、政府軍の砲兵連隊は、キミの部隊だったか。 冷静な判断、感謝する 」
軽く、一礼するロメル。
ネルソンは答えた。
「 貴軍の第4師団のアーノルド少佐も、停戦に快く同意して頂き、感謝しております。 何せ、我が連隊には、歩兵部隊の護衛がおりませんでしたからな。 砲・弾薬は充実しておりましたが、機械化歩兵師団の第4軍に掛かられては、ひとたまりも無いところでした 」
そう言いながら、向かい側の席に座っていた将校を見やる、ネルソン。
アーノルドと言う、その将校は、ヒゲ面の顔をほころばせ、言った。
「 いやいや、もう解放軍も政府軍もありませんぞ? 貴殿の連隊には、最大射程2万3000メートルを越える155ミリの長距離砲を始めとし、野砲・榴弾砲が勢揃いしております。 我が部隊自慢の機械化歩兵と協力すれば、大戦が始まって以来の、最強の機甲師団になりますぞ・・! ロボ共など、あっという間に撃破出来ます。 これからも、是非、行動を共にして頂きたいものですな、ネルソン少佐殿 」
ロメルは言った。
「 アーノルド少佐の言う通り、もう、解放戦線も政府軍も無い。 我々は、一体なのだ。 協力して、この人類の窮地を打開しよう・・! まずは、先立つモノの入手だ 」
そう言いながら、リックを見つめる。
ロメルの視線を受け、隣にいたデンバーを見やるリック。 決死の決意を眼力に秘め、デンバーは、リックに視線を返した。
ロメルが言った。
「 リック中尉・・ 君には、世話になりっぱなしだな。 ・・頼めるか? 」
リックが答えた。
「 喜んで。 ・・ただ、辿り着けなかった時の場合も、想定しておいて下さい。 闇夜に紛れて行った方が良いと思いますので、これからすぐに発ちます。 2日経っても、先程お話ししたパイプラインの終着点に燃料が届かなかったら、我々の事は忘れて下さい 」
ヘインズが言った。
「 ・・我々は、この戦いに、必ず勝利する・・! 君らの名は、人類を壊滅から救った勇士として今後、永遠に語り継がれる事だろう 」
真っ暗な、砂漠の夜・・・
今夜のように、月が雲間から出ていないと、まさに漆黒の闇である。 数メートル先が、全く見えない。
小型レーダーのモニター表示を、ゴーグルに転送させ、エアバイクを走らせる。 サイドカー仕様の、エアバイクだ。 ノクトビジョン( 暗視カメラ )を装備したゴーグルを着けて、リックは、サイドシートに座っていた。
モーター音を唸らせながら、漆黒の闇の砂漠を、ひた走るエアバイク・・・
「 静かなモンだな・・ 」
エアバイクを運転しているデンバーが、しみじみと言った。
「 まだ、出発したばかりだぜ? そのうち、挨拶があるだろうよ・・ 」
ゴーグルのズームを最大にし、周りを警戒しながら、リックは答えた。
大きな砂丘の稜線をジャンプしたらしく、フワッとした感覚が感じられ、エアバイクの負荷音が、軽くなる。 徐々に下降し、再び負荷音が大きくなった。 また、小さな無重力感・・・
闇の中、エアバイクは、幾つもの砂丘を疾走し、リックのいた観測基地跡へと向かっていた。
デンバーが言った。
「 運送屋をしていた時、オレンジの密輸も、時々やったんだ。 ケッコーな、金になってな。そん時も、こうやって、無灯火で突っ走ってたぜ。 レーダーなんぞ無かったから、ホント、テキトー走ってたな。 よく、脱輪したぜ 」
リックが答える。
「 脱輪くらいで済むなら、良いよ。 今は、ミサイルが飛んで来るんだからな 」
リックのノクトビジョンゴーグルに、苦笑いしているデンバーの横顔が映った。
バイクには、方位レーダーも積んである。 観測しながら走っているので、突然、ミサイルを食らう事は無い。 だが、ミサイルが飛んで来た場合、退避はしなくてはならない。 何も無い砂漠で、どこに退避すると言うのか・・?
方法は1つ。 着弾まで、ギリギリに引き付けておき、急転回するしか無いだろう。ミサイルの速度を計算し、距離と被弾範囲を考慮に入れなくてはならない。 しかし、1発ではなく、時間差を置いた次弾付きだったら・・?
行動は、最悪の事態を考えておいた方が良い。 リックは、真っ暗な砂漠を監視しながら、様々なパターンを、シミュレーションしていた。
30キロほど、行っただろうか。 サイドシートのパネルに、小さな赤いLEDが点灯した。
「 レーダー波を、キャッチしたぞ・・! おそらく、ミサイルが来る・・! 」
「 ど、ど・・ どうすりゃ良いんだっ? 」
動揺する、デンバー。
リックが答えた。
「 落ち着け・・! まだ方位レーダーには、何も映っていない。 向こうも、発射していないだろう。 動体感知のレーダー波をキャッチしただけだ。 バイクを止めてくれ。 11時の方向に、廃墟があるようだ 」
左手前方に、崩れたビルの一部が、砂から顔を出していた。 その脇にエアバイクを止め、ガレキの下に、バイクごと入り込む。 大きな、ビルの一部だ。 下部の空間はかなりあり、隠れるには最適だ。
リックが言った。
「 連中は、動体検知を開始しているはずだ・・ 動くなよ? 」
「 ・・屁、コイてもいいか・・? 」
「 スカすなよ? クサイから 」
闇夜の砂漠に、小さな異音が響く・・・
LEDは、点灯したままだ。
「 再度、動体感知レーダー波を放射しているようだ。 ・・判断しているな・・ 誤検知か、廃墟が崩れたのを感知したのか・・ 迷ってるんだ 」
デンバーが、再び、小さな放屁を連発しながら言った。
「 衛星で、のぞかれたら・・ イッパツだな・・ と・・! 」
体内に残っていた最後のガスを、ひねり出すように放屁しながら、デンバーが言った。
「 よく出るな? 軍曹・・ 」
「 さっきの酒が、効いたらしい 」
LEDが消えた。
それを見たデンバーが言った。
「 ・・お? 諦めたかな・・? 」
「 まだ、分からん・・ ミサイルを発射したかもしれん・・! このまま、待機だ 」
じっと、方位レーダーを見つめながら、リックは答えた。
・・・静かな、砂漠の夜。
頭上に覆い被さっているコンクリートの壁に、インターホンを見つけたデンバー。 適当にボタンを押し、彼は言った。
「 あ、ジェーンかね? 午後からの予定は、キャンセルだ。 しばらく休ませてくれ。 君も、帰って良いよ? 」
ゴーグルに転送させたレーダーを監視しつつ、寸劇に苦笑いしながら、リックが言った。
「 社長室で、ナニしようってんだい? 」
「 決まってんじゃねえか。 バーボン飲みながら、ファイヤーボウルを観戦するのさ。 大画面の、サラウンド3Dテレビでな 」
「 ごひいきチームは、ブルー・ソックスかい? 」
「 おい、おい・・ カンベンしてくれ。 そんなブルジョアなチーム、性に合わねえ。 オレは、シアトルローズの生まれだぜ? ジョニー・ブロンクスに決まってらぁ~ 」
「 ・・まあ、酒は無いが、タバコくらいだったら良いぞ? あまり大きく動くなよ? しばらく休憩がてら、様子を見よう 」
ポケットからタバコを出し、リックは、火を付けた。
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