第10話、戦野の星
夜空を覆う、厚い雲の切れ間から、一掴みの星が瞬いている・・・ 気温は、幾分下がっているが、それでも30度は下回っていない。
ロメルの第1レンジャーは、第3軍・25軍・第109空挺師団の混成旅団、政府軍 第12機甲師団と共に、西進して来た解放軍 第4師団と合流し、クレンメリー渓谷の外れ辺りで野営した。
兵員輸送車のボンネットの上で、仰向けに寝転ぶリック。 わずかに瞬く星を眺めながら、ロメルから配給された、タバコをふかしている。
「 眠れないのか? 」
声のした方に、顔を向けるリック。 デザートパターンのTシャツを着た、デンバー軍曹だった。 手には、ウイスキーの瓶を持っている。
「 眠たくないのさ 」
リックが言うと、ウイスキーの瓶を見せ、言った。
「 ・・どうだ? 」
「 いいね 」
上半身を起こす、リック。 デンバーも、ボンネットの上に登って来た。 水筒の蓋をリックに渡す。 デンバーは、蓋にウイスキーを注ぎながら聞いた。
「 オペレーターだったんだってな、あんた 」
「 ああ。 衛星、専門さ。 ・・・か~~~・・っ! 効くなぁ~、コレ・・! 」
注がれたウイスキーを飲み、少しムセながら、リックは言った。
「 ははは。 色んな酒が、混ざってるからな。 多分、ウオッカのせいだろう。 50度は、あるぜ? 」
「 色は、ウイスキーだが・・ 味は、スピリタスみたいだぞ? 」
「 薬用アルコールを、酒代わりに飲むよりかは良いだろう 」
自分も、蓋に注ぎ、イッキにあおる。
「 ・・んっは~~~っ・・! 確かに凄いわ、こりゃ・・! イッキに、ブッ飛びそうだぜ 」
「 軍曹は、長いのか? 軍歴 」
リックが聞いた。
新たに注いだ酒を、ちびちび飲みながら、デンバーは答える。
「 4年目・・ かな? 」
「 前は、何やってたんだ? 」
「 運送屋さ。 重油を運んでいたんだ。 ビッグ・リム( 18輪トラック )に乗って、女房と一緒にね。 楽しかったなあ~・・ 」
・・・おそらく彼の妻は、もうこの世には、いないのだろう。 そんな雰囲気を察したリックは、彼の妻の事には、触れないでいた。
デンバーは、尋ねた。
「 お前さんの方は、どうなんだ? 女房は? 」
リックは、再び、ボンネットの上に横になりながら答えた。
「 婚約者は、いたよ。 同じ観測基地にね。 だが、戦死した 」
「 ・・悪いコト、聞いちまったな・・・ 」
「 いや、構わないよ。 あいつも、技術士官だった。 3次元レーダーは、あいつの方が得意だったな。 いいセンス、していたよ・・ 」
頭の後ろに両腕を組みながら、リックは答えた。
頬杖を突いて横になりながら、デンバーが言う。
「 いい女だったか? 」
「 ああ、最高さ・・ 」
雲の切れ間から、流れ星が見えた。
蓋に残った酒を、グイッとあおり、デンバーも仰向けになる。
「 オレのビッグ・リムを、ロボ共は、女房もろともフッ飛ばしやがったんだ・・! カタキは、取ってやる・・! このキズが、連中への恨みを忘れさせねえんだ 」
デンバーの頬についているキズ痕は、その時の襲撃によるものらしい。
リックは言った。
「 俺の婚約者は、解放戦線との戦闘で戦死した・・ だが、あんたたちには、恨みは無い。 元はと言えば、アンドロイド軍が仕組んだ、同士討ちみたいなものだったからな・・ 」
夜空を眺めながら言うリックに、デンバーは、少し上体を起こしながら尋ねた。
「 その戦闘は・・ 俺たち、第1レンジャーとなのか? 」
「 いや・・ 違うと思う。 第24軍とは、対敵していない。 確か・・ 西に展開していた第85戦車師団だ。 大戦とやらで、壊滅しているよ 」
「 ・・・そうか 」
それを聞くと、安心したように、デンバーは横になった。
サクサクと、砂を踏む足音が聞こえて来る・・ 誰かが、来たようだ。
「 ・・デンバー、どこ・・? 」
声の主は、ターニャだ。
「 おう、コッチだ。 お前も1杯、やらんか? 」
「 お酒・・? どうせ、バクダン( 質の悪い酒の総称 )なんでしょ? そんなの飲んでると、寿命が縮まるわよ? はい、防塵マスクのフィルター。 政府軍のものだけど、フィルターは、同じ径なんですって。 12師団の、兵站担当者から貰って来たの 」
箱に入ったフィルターを渡す、ターニャ。
「 おう、サンキュー! コレがねえと、意味ねえんだよな。 助かるぜ 」
リックと目が合い、ターニャは視線を反らした。
『 政府軍の人間とは、友だちになれない 』
ターニャが言った言葉を思い出す、リック。
もう、政府軍も解放戦線も無い。 それは、ターニャも充分理解していると思われる。 しかしターニャには、相容れられないようだった。
リックは、ターニャに尋ねた。
「 ターニャ。 明日の進軍は、何時だ? ロメル大隊長は、何か言っていなかったか? 」
ターニャは、リックから視線を外したまま、少し、戸惑いながら答えた。
「 ・・し、知らない・・ ペレス叔父さんも・・ しばらく駐屯する、としか聞いてないみたいだし 」
デンバーが言った。
「 合流した第4師団も、燃料が乏しいようだ。 補給を受けなきゃ、どうしようもねえんじゃねえのか? 」
リックが、記憶を思い出しながら言った。
「 ・・俺がいた観測基地に、かなりの備蓄がある・・ 数個師団が、長期戦闘に使える量だ。 あの観測基地は、戦略的にも、重要な位置にあったからな。 前線補給基地としての役割も、兼ね備えていたんだ。 燃料タンクは、地下170メートルにある。 多分、大丈夫のはずだが・・」
「 ホントか? そりゃ・・! だとすると、朗報だな。 ・・だが、問題は、そこまでどうやって行くか、だ。 ロボ共が、黙って見てるワケ無いぜ? この野営地は、大規模なレーダー拡散電波を流しているから、そうは簡単に発見されないが・・ ナニも無い砂漠じゃ、たちまち、レーダーに発見される 」
寝転んだまま、顔だけをリックに向け、デンバーが言った。
リックが追伸する。
「 その通りだ。 だが、辿り着けさえすれば、地下補給が可能だ。 このクレンメリー渓谷の手前まで、地下にパイプラインが埋設してある。 大戦前の計画では、ライトポリスまで引く予定だったんだ 」
デンバーは、上体を少し起こすと、言った。
「 ・・おい、リック・・! その話しは、おそらく、誰も知らねえ・・! 今、指揮官たちが会議の真っ最中だ。 お前、出頭した方が良いぞ・・! 」
ターニャが言った。
「 ・・リックが・・ 行くコトになるの・・? その基地・・ 」
リックは答えた。
「 そりゃ・・ そうなるね。 基地内の事は、今となっては、俺しか知らない 」
「 ・・・・・ 」
心配そうな、表情のターニャ。 1度、リックと視線が合ったが、再び、反らしてしまった。
デンバーが提案した。
「 リック・・ 何なら、オレも行くぜ? 第4師団にゃ、弾薬はあるんだ。 燃料さえあれば、ロボ共と戦える・・ ライトポリスに、進攻出来るんだ・・! 今、連中に、1番近い地点にいるのは、オレたちなんだぜ? ヤツらも、その内、警戒を強めて来る。 今後も大規模な作戦は、勿論、立案されるだろうが・・ おそらく各部隊を集結させる時点までだけでも、かなりの被害を想定しなくちゃならん。 ヤルなら、今なんだ・・! 」
「 ・・・・・ 」
無言のリック。
デンバーは続けた。
「 民間登録の複座エアバイクがある。 軍用バギーで行くよか、怪しまれないだろう・・! やろうぜ、リック! 」
デンバーは、いつの間にかボンネットの上に体を起こし、拳を握っている。
リックは無言で、仰向けに寝転んだまま、雲の切れ間から見える瞬く星をじっと見つめていた。
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