第5話、緊急電
「 ロメル大隊長! ライトポリスの南、約20キロで、戦闘が起こっていますっ! 」
無線指揮車の上から、無線士が叫んだ。
「 何だとっ・・? ドッチだっ? 政府軍か? 味方か? 」
ターニャの肩を離し、ロメルが聞く。
「 両方です! 自主停戦していた政府軍の第12師団と、味方の東部方面混成旅団に、アンドロイド軍が仕掛けて来たようですっ! 」
片手で、ヘッドホンを左耳に当てたまま答える通信士の応答に、ロメルの表情が、にわかに緊張する。
「 東部方面の混成旅団だとっ・・? ヘインズがいる部隊だ・・! 第109空挺師団に、第3軍と25軍・・ 第6砲兵連隊もいたはずだ。 まずいな・・! 我々の主力部隊だ・・! 確か、5キロ東方には、第4師団も展開していたはずだ 」
「 109空挺のヘインズ少佐から、緊急電が入っていますっ! 」
「 かせっ! 」
指揮車によじ登り、ヘッドホンを奪い取るロメル。
「 ロメルだ! ヘインズかっ? ・・良く聞こえないぞ! もう一度、言ってくれっ! 」
しばらく、無言のロメル。
「 ・・よしっ、我々も行く! 88ミリ自走砲3台に、エアクリーナー( 自動追尾式4連広角砲 )がある! 中距離だが、ランチャーもあるぞ! グレネード? ・・おい、あったか? 」
傍らにいた兵士に尋ねるロメル。
「 25ミリなら、3ダースあります! 40ミリは、50数発ですが・・ 」
「 あるぞ! ・・うん、うん・・ 分かった! 後で、座標を教えてくれ。 射程距離に入ったら、攻撃する! 」
どうやら、移動だ。 しかも、戦闘中の地域へだ。
無線内容を聞いていたペレスが立ち上がり、叫んだ。
「 総員、撤収っ! 援護に向かうぞッ! 敵は、アンドロイドだ! 第1レンジャーの力を、くされロボ共に見せてやれェーッ! 」
「 うおおーっ! 」
ペレス曹長のゲキで、出発準備に入る兵士たち。
無線を切ったロメルが、リックに言った。
「 リック中尉・・! 非公式だが、もう政府軍も解放軍も無い。 これから急行する戦闘区域は、政府軍と解放軍が自主停戦している区域だ。 事態は急を要する。 捕虜としての拘束を解くので、我々の傘下に入る事を要求したい。 いいかね? 」
「 構いません。 非戦闘員ですが、銃くらい撃てます。 作戦が終了したら、捕虜として、再拘束して頂いても結構です 」
ロメルは、ニヤリと笑って答えた。
「 いい心構えだ。 気に入ったぞ、エリート野郎・・! 」
フーパーが、銃脚付きの重機関銃をリックに渡しながら言った。
「 ・・ちょいと重いが、お前さんの銃だ。 オレたちを撃つのに、使うなよ? 」
「 ありがとう。 使わせてもらうよ。 この銃の持ち主は? 」
「 もう、帰って来ねえ。 ライトポリスで死んだ、ハイマンのだ 」
「 ・・・・・ 」
「 軽機銃を持って行ったのさ。 軽くて楽だ~、なんて浮かれて笑っていやがったぜ・・ 」
フーパーのサングラスの下の目には、かすかな涙の存在がうかがえた。 おそらく、戦死したハイマンという兵士は、彼の戦友であったのだろう。
リックは言った。
「 大切に、使わせてもらうよ 」
「 1発残らず、弾をロボ共にブチ込まなきゃ、承知しねえからな・・・! 」
リックに背中を見せ、フーパーは、捨てセリフのように言いながら、指揮車の中に入って行った。
発進する、車両群。 リックは、先頭から3番目の車両に乗り込んだ。 対面式のシートがある兵員輸送車だ。 傍らには、ペレスとターニャ、ベラルスが同乗している。
先行車両が巻き上げる砂塵が視界を遮り、凄まじい。 天蓋の無い兵員輸送車の為、車内は砂塵で一杯だ。 キャビン式の天蓋がある車両もあったが、暑い為、皆、遠慮する。 リックが乗った車両から後は、それら車両だ。 自走砲や、ランチャーがその後に続く。
しばらく走ると風向きが変わり、幾分、楽になった。
ペレスの横に座っていた兵士が、顔に巻いたタオルを解き、言った。
「 曹長。 ターニャは、後方に回した方が、良かねえですかい? 」
防塵メガネを掛けたまま、ペレスが答える。
「 本来なら、そうするところだろうが・・ 事態が、事態だ。 もしかしたら、このままライトポリスに再突入、って事になるかもしれんからな 」
そうなれば、道案内は、ターニャしかいない。
ターニャには覚悟が出来ているらしい。 じっと、無言のまま、ペレスを見つめている。
ペレスが、斜め対面に座っていた下士官に尋ねた。
「 デンバー軍曹。 第2小隊の残りは、何人だ? 」
頬に古傷の痕がある、厳つい顔の1等軍曹が答えた。
「 ホッジスとハイマン、ミゲルに・・・ ボッブスもやられたから、4人ですね 」
ペレスが言った。
「 小隊長の具合は、どうだ? 」
「 タイラー軍曹ですか? ・・出血は止まり、一命は取り留めたみたいですが・・ 何せ、左足がありませんからね・・! 」
ペレスは、後続の自走砲に目を向けながら言った。
「 ドッチに、乗ってる? 」
デンバーも、後続の車両に目を向け、右手で額に、ひさしを作りながら答えた。
「 確か・・ 1番後続の215号です。 開閉器の調子が良くなくて、傷病車両にしていたはずですから 」
大きく、ため息を尽きながら、ペレスは言った。
「 ・・第2小隊は、機能していない。 第3小隊に組み入れろ 」
「 了解しました。 しかし・・ ここ数週間の遠征で、随分と消耗しましたね・・ もう、袋( 死体を入れる袋 )が、ありませんよ 」
揺れながら、じっと座っている他の兵士たちの表情にも、疲労が見られる。
正面に座っていたリックの顔を見ながら、ペレスは言った。
「 ・・と言うワケだ、お客さん。 もしもの時は、ご勘弁願おうか 」
リックが答えた。
「 死ななきゃ、良いんだろ? 」
真剣だったペレスの目が、段々と笑って来る。
「 ・・ふ、ふわ・・ ふわっ、はっはっはっ! そりゃ、そうだ。 わっはっはっはっ! 」
デンバーも、笑った。
「 ちげえねえや! はっはっはっは! 」
周りにいた、他の兵士たちも、一斉に笑い始める。
「 中尉さんの、言う通りだぜ! エリートとなると、言う事も洒落てるじゃねえか、ええ? どうでえ? 」
「 全くだぜ。 はっはっはっは! 」
ターニャも、笑っている。 笑窪が、何とも可愛い。 やがて、兵員輸送車に乗っていた全員が、大声で笑い始めた。 何が、そんなにおかしいのか判らない。 おそらく、戦闘に向かう兵士たち全員の緊張が、そうさせているのだろう。 百戦錬磨の猛者たちも、やはり戦闘は怖いのだ。 冗談を言ったり、歌でも歌っていなければ、気がおかしくなる。 戦闘経験が無いリックにしても、それは充分、理解出来た。 率直な気持ちから出たセリフだからこそ、緊張している彼らには、おかしく思えたのかもしれない。
兵員輸送車の中は、お祭り騒ぎのような笑い声で一杯になった。
運転席脇の無線機から、先頭を行くロメルの声が聞こえる。
『 3号車、ペレス曹長。 何を笑っているんだ? まるでピクニックだな。 おやつに、笑い茸でも持って来たヤツがいるのか? 1キロ先まで聞こえてるぞ? 』
笑い疲れて、ヒイヒイ言いながら、ペレスが応答に出た。
「 ・・すみませんな、大隊長! お客人が、面白れえ事、言って盛り上げてくれるんでね! はっはっは・・! 」
『 ほう。 じゃ、帰りは、コッチにご招待したいものだな。 ・・もうすぐ、ランチャーの射程距離内だ。 その調子で、ロボ共にも、愉快なプレゼントをお見舞いしてやってくれ 』
「 了~解です、中隊長! 」
『 レーダー拡散電波を放射する。 無線のガイドチャンネルを、4020に合わせろ。 通常交信は、禁止だ 』
「 ・・4020、セット! 」
無線機を操作するペレスの顔からは、笑みは消えていた。 デンバーたちも、各自の銃や、予備弾を点検し始める。
『 GPS誘導は、誰がセットする? 』
ペレスは、助手席に座っていた下士官の肩に手を置き、無線に答えた。
「 クライドが、やります。 ホッジスが、死んじまいましたから 」
『 伍長か・・ 大丈夫か? やった事は? 』
サンドパターンのカモフラージュ戦闘服を着た下士官が答えた。
「 ありません。 自分は、地上波誘導の教育しか受けてませんから・・ でも、やるしか無いでしょう 」
右腕に、技術科2等の科章を付けている。 技術兵らしいが、衛星は専門外らしい。
リックは提案した。
「 ・・俺がやろう。 大隊長。 衛星やコンピュータは、俺の専門だ 」
『 誰だ? ・・リック中尉か? そうか・・! 君は、技術士官だったな・・! 有り難い、頼めるか? 』
「 衛星の座標は、ありますか? 」
『 誘導器のターミナルに、インプットしてある 』
「 了解しました。 やってみます 」
『 頼むぞ! 』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます