3夜め 捕食/被食の耽美なカンケイ

 耽美と言ってもボーイスラブの話はしません。

 ですが独りよがりに過ぎる文章になる自信はあります。こだわりどころですから。


 作者も吸血鬼小説を書きますが、特に吸血鬼にする/されるの関係性を書く際は全力投球です。人様の作品を見る際にも、あまりに軽々しく人間が吸血鬼になってしまうのを見ると「これは違う」と勝手に不機嫌になります。

 要は関係性の問題なのです。

 関係の浅いうちにペロッと吸血鬼にしてしまうのはあまりにも味気がなさすぎるとは思いませんか。


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 まずは人間同士として関係を深めていく方法。吸血鬼と言えば謎めいた美男美女。相手に不信感を抱かせないように、仮に抱いたとしてもそれをねじ伏せるほど己に心酔させてからおもむろに、というのがイイ!

 理想は中井英夫先生の「影の狩人」。短編集「とらんぷ譚」に収録されています。吸血鬼ものでありながら吸血鬼ではないのですが、あの単純にして難解な儀式はぞっとするほど耽美的。「とらんぷ譚」は本作のほかにも耽美的・幻想的な作品が多数収録されていますので、おすすめの一冊です。


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 次に、とりあえず手を付けて、ずるずると引きずり込んでいく方法。おそらくこちらのほうが古典派でしょう。かのドラキュラ伯爵もやってくれた手です。いささか乱暴でロマンチックさには欠けますが、抵抗できない絶望感は格別。噛まれた犠牲者は吸血鬼の呼び声に抵抗叶わず、それどころか自らどんな障害をも排して「主人」のもとへ向かう……。

 菊池秀行先生の吸血鬼作品(「吸血鬼ハンター『D』」など)がお好きな方にはおなじみのパターンではないでしょうか。犠牲者本人よりも、周囲の苦しみが際立つ捕食方法です。


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 どちらにしても、「被食者の精神の変容」を作者は推したい!

 身も心も(「血も心も」なる短編集もありました)捧げ、ヒトの倫理を捨て、「鬼」になる、その過程が愉しいのです。最初はネズミの血で命をつないでいたけれど、結局人間を噛むことを覚えたルイ然り。「キスしてアーサー」と鬼女の笑みで迫るルーシー然り。被食者も捕食者になり、新たな犠牲者を生む負の連鎖。

 それこそが吸血鬼の醍醐味ではないでしょうか。

 今晩はここまで。

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