第3話一日目


 ルカは門番の後ろにつきながら静かに彼を観察した。

 通常よりもやや高めで少し猫背な背はその穏やかな気質を表しているようだ。くしゃりとした黒髪に薄い翡翠色の瞳は柔らかい印象をあたえる。けれどもその穏やかさが逆にルカには違和感を感じるのだ。

(…まあ今すぐに危害を加えてくることもないだろう。宿に着いたらアイツと話してみるか。)

 ルカは考えていても仕方がないと肩の力を少し抜き、マチの様子を見始めた。


 そんなルカの様子に門番はひっそりと笑う。怪しいと気付かれたのは予想外ではあったが、別にそれで困る訳ではない。あくまでも此方側の要求を突き通すだけだからだ。

(にしても狐か。何か噂を聞いた気がするが………。詳しく調べておこう。7日間で何が出来るかと聞かれれば何も出来ない気もするが。)


 二人は門を離れマチへと向かう。


「このマチは過去に魔物の襲撃にあい崩壊しかけたことがあります。そのため門と集落との距離をひろげ、少しでも時間が稼げるようにしたんです。」


「なるほど、だからか。門番さんはあんただけか?」


「ええ、でも門番さんは固いのでニスラと呼んでください。マチの皆もそう呼んでいますから。」


「…ニスラか。良い名前だ。このマチに立ち寄る奴は少ないのか?門番にマチを案内されるのは久し振りだ。」


「おや?ルカさんはこのマチの伝説 まあ言い伝えみたいなものですが…を知りませんか?[龍人たつびとの玉露]というものです。」


「初めて聞いたな。龍人か…今では殆ど生き残っていないと言われているが。そんな伝説があったんじゃあ逆にヒトがきそうなもんだが違うのか。」


「………とても悲惨な話なんですよ。お話ししますね。」


 ニスラは少し息をつめ、吐き出すようにして口を開いた。髪がやや顔にかかり、暗い影がその端整な横顔を不気味にさせる。彼を包む空気が変わったことに気付いたのは、ルカの影の中で身動ぎをした狐だけか。


 そして物語は紡ぎ出される。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る