第2話マチの入り口


 門番はマチの入り口で静かに本を読んでいた。彼にとってこの仕事はとても楽な仕事だった。

 まずこのマチに立ち寄るヒトは少ない。旅人や行商人以外となれば踊り子などの旅芸人達位のものだ。今日はだれもこなそうだとのんびり本を開いていた。


「………すまない。マチへ入れていただきたいのだが。」


 急に目の前に影が落ち、低い声が降ってきた。


「あぁ、すみません。入場の許可ですね。ちょっと待っていてください。」


 どうやら今日はめずらしく旅人がきたようだ。この霧の時季はあまりヒトは来ないのに、と驚いてしまった。


「待たせてすみません。それではこの紙に必要事項を書き込んで下さい。」


 とりあえず記入をしてもらい男の風貌を見る。

 黒く長い髪を素っ気なく束ね、横に流している。瞳は灰色で肌は日に焼けていた。背は高く全身を藍色のロープで覆っている。典型的な旅人の旅装だった。


「書き終わった。」


 静かに紙を出され、チェックしていく。


「…えー、ルカさんですね。滞在日数は7日間、職種は旅人兼薬師くすりし…、薬師とは珍しい。是非マチで売って下さい。よく売れると思いますから。」


「…なるほど。丁度資金繰りをしようと思っていた頃だからありがたい。」


「そうでしたか、良かったですね。後は………狐ですか?」


「ああ、これだ。」


 するりと影から黒い狐が現れた。獣を連れている旅人はめずらしい訳ではないが、狐というのは初めて見た。まあ主人に忠実なようだし問題は無いだろう。


「はい、大丈夫です。入場を許可します。滞在日数に変更がある場合はこちらに来て下さい。修正しますから。これが許可証です。」


 ルカさんに木の板を渡す。


「これは…面白い。」


 どうやら彼はこの板の特徴に気付いたらしい。


「やはり分かりますか。これがマチでのあなたの身分証明になります。マチで犯罪を起こした場合はこの魔導器に記録がされマチからの追放また立ち入り禁止となりますから気をつけて下さい。」


「もちろんだ。」


 少し苦笑しながら返され自分の口元にも同じように苦笑が浮かぶ。


「ではマチを案内しますね。」


 ルカさんを連れ自分は門へと歩き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る