第12話 盗み聞き
「右からシリル・アマリア・パウル・ダニエルの四名になります」
ナタリーは、中庭に待機していた四名をそれぞれ指しながらそう言った。
右二人が女性で左二人が男性であり、それぞれメイド服と燕尾服を着ている事からこの城に仕えてくれている事がわかる。
それにシリルと呼ばれた女性には見覚えがある。
彼女は確か初めてシャルロッテと会った時に一緒に居た……
「……しりる」
俺がそんな事を考えていると、シャルロッテが俺の後ろに隠れるようにしながらそうつぶやいた。
やはりシャルロッテが知っているという事は、初めて会った時に一緒に居たメイドさんで間違いなさそうだな。
だが流石に他の三人は知らないみたいだな。
俺の後ろに隠れながら、チラチラと他の三人の顔を確認している。
さて、どうしたものか?
「シャルロッテ様、この三人ならレオモンド様やナタリー様と同じく大丈夫ですよ」
「ほんとう?」
「はい。本当です」
「しりるがそういうなら……」
シャルロッテはそう言うと、俺の後ろに隠れるのを止め、俺の隣に移動した。
俺達と同じように大丈夫?
一体どういう意味だ?
俺はその疑問の答えを探るようにナタリーに視線をやる。
ナタリーは俺の視線に気づくと、何も言わずただ軽く頷いた。
気づいていながら何も言わないという事は、それ程重要じゃないか、あるは今は俺が知る必要が無いという事だろうか?
どちらにしても今ここで駄々をこねるのが間違いなのはわかる。
「レオモンド様とシャルロッテ様が大丈夫なようでしたら、早速ですがおにごっこ、というものを始めますか?」
「僕は大丈夫だよ。けど……」
けどシャルロッテはもう少し皆と話したいんじゃないかな?
俺はそう言おうとして、シャルロッテの方にチラッと視線をやり、続きを言うのを止めた。
俺としてはシャルロッテが今すぐにというのは嫌じゃないかと思ったから、お互いを理解する為に少しだけ時間をとってもいいんじゃないかと考えたからだ。
だが俺のそんな考えは取り越し苦労だったようで、シャルロッテの表情は先程までの不安そうなものではなく、ウキウキとして今すぐにでも遊びたい。
そう言っているかのような表情だったからだ。
勿論遊びたいんだろうが、やはり先程のシリルの言葉が大きいんだろうな。
内容が気にならないと言えば正直嘘になるが、変に勘ぐって関係を悪化させるのだけはごめんだ。
それでなくても、現状気を許せる相手はナタリーしか居ないんだ。
ここでシャルロッテとの関係が悪化が悪化すれば、良くも悪くも今後に響くのは必然だろう。
それに出来れば俺としてもシャルロッテとは敵対したくないからな。
と言うか色々と理由をつけてはいるが、結局のところそれが本音だろうな。
「レオモンド様? どうかなされましたか?」
「いや、何でもないよ。それよりも鬼ごっこをやろうよ。シャルロッテも早くやりたいみたいだしさ」
俺の言葉に、隣に立っているシャルロッテが頻りに頷く。
「わかりました。どういったものかについては失礼ながら先に話させていただいております。ですので今すぐにでも始められます」
「それじゃぁとりあえず一回やってみようか?」
「かしこまりました」
ナタリーはそう言いながら軽く頭を下げた。
「お待ちください、シャルロッテ様!」
「まちません!」
シリルが言った言葉に、シャルロッテはそう答えながら楽しそうにシリルから逃げる。
若干心配だったが、シャルロッテが楽しんでくれているようで何よりだ。
にしても……
「……うまいな」
俺とシャルロッテはまだまだ子供だ。
だが一緒に遊んでいる他の人は全員子供じゃない。
なのに楽しめている。
これは明らかに手加減されているからだ。
なのにそれを俺達に全く悟らせなかった。
それに俺やシャルロッテには必ず何が起ころうとも対応できるよう、誰か一人が常に側にいる。
「何がですか? レオモンド様?」
そして今俺の側に居るのはナタリーだ。
「いや、皆うまく立ち回ってるなって思ってさ」
「……レオモンド様はこういった行為はお嫌でしたか?」
「好きか嫌いかで聞かれると答えづらいな。何せ俺達の事を思っての行為だろうからさ。これが仮に下心のみでの行動だった場合は迷わず嫌いだ、と答えられたんだけどね」
「それは良かったです」
俺の言葉にナタリーは安心したような表情を浮かべながら、嬉しそうにそう答える。
「このように草影に隠れられているので、てっきりお嫌だったのかと思いまして」
だが次の瞬間には少し残念そうな表情を浮かべながらそう言った。
実際先程から俺はこの草影に隠れている。
だが先程ナタリーに言った通り、俺は手加減されているのが嫌だとかそんな事は思っていない。
ここに隠れているのも理由はあるが、勿論走るのが嫌だとか疲れたとかそう言う理由じゃない。
理由はシャルロッテが伸び伸びと楽しむため……そのために俺はここに隠れている。
別に俺が一緒に走り回ったところでシャルロッテが俺に気を遣うとかそう言う事じゃない。
シャルロッテではなく他の人間……ナタリー以外の四人が俺に気を遣い、それを察してかシャルロッテも心から楽しめ無くなってしまうからだ。
と言うか、最初はそうだった。
なのでそれに気づいた俺はある程度参加した後、こうして草影に隠れていたのだ。
俺、レオモン・エオルド・ダイアーがどういった認知のされ方をしていたのかは、未だにわかっていないからな。
まぁ~、ナタリーによって意図的にわからないようにされているような節は感じるが、恐らくそれはあまりいい話ではないだろう事は予想出来ているから何も言わないがな。
「さっきも言ったけど、別に嫌なわけじゃないよ。ただ、鬼ごっこにはこういうやり方もあるってのを実践してるだけださ」
「左様でございましたか」
真意ではないが、嘘を言ったわけでもない。
しかしこれで納得してくれるという事は、俺があまり突っ込まれたくないという事を理解してくれての事だろうな。
ここで真実を話せば、今度はナタリーに気を遣わせてしまう。
俺としては色々としてくれているナタリーにも楽しんでほしいからな。
とは言え俺がこうして隠れているだけだと、俺の側にいるナタリーはあまり楽しめているとは言えないだろうから、ほとんど意味は無いんだけどな。
「……レオモンドが……された……」
俺がそんな事を考えていると、不意に俺の名前が微かに聞こえた。
だが聞こえた声音は決して好意的なものだと断言できるものではなかった。
そしてその声はナタリーにも聞こえており、更に俺と同じように感じたようで、声を殺し、真剣な表情で俺の方を見つめている。
俺はそんなナタリーに向かって自身の口に人差し指をやり、声を出さないように指示を出す。
そうするとナタリーは無言で頷いてくれた。
それを確認した俺は、草影に隠れながら出来るだけ音が出ないようにして、声が聞こえた方へと進んで行く。
「……ですな。アレで死んでくれていれば、こちらとしては楽だったんですがね?」
俺とナタリーは声がギリギリ聞こえる場所まで来て足を止める。
何故ならこの先に俺達二人が隠れられそうな草影が無いからだ。
しかしここからでは話している人間を目視する事が出来ない。
だがここで顔を確認する為に先に進めば、見つかってしまう危険性は非常に高いだろう。
ここは顔の確認は諦め、話を聞く方が良いだろう。
何やら今もかなりきな臭い話をしていたみたいだからな。
俺はそう判断し、ナタリーに向かってここに留まり、話を聞くという事をジェスチャーで伝える。
「そうだな。そうなっていればまだ第一王子派とも張り合えたかもしれんからな」
「しかし今となってはそれも無理でしょうな。流石に神器と契約できた者を消すのは国防的に考えれば不味いですからな」
「確かにな。となれば奴の後ろ盾となる貴族が未だ居ないのは救いだろう」
「こちらに取り込み傀儡として使う事もできますからな」
俺の命を狙っていたのはコイツ等か……
話から推測するに、第二王子であるコルネリウスを支持している連中だろう。
国益を考えられるだけの頭はあるみたいだが、それでもこんな場所でこれ程の事を話すというのは馬鹿としか言いようがない。
取りあえず当分は命が狙われる心配はなくなったみたいだな。
その代わり、今後近づいてくる人間にはかなり注意しなければならなくなったわけだが……
「となるとやはり問題は……」
「第一王女だろう。あそこはまだまとまってはいないが、複数の貴族が後ろ盾になっているからな。まとまられる前に、彼女にはこの世から消えてもらおう」
「では計画通り、第一王子の誕生会に合わせて行う、という事でよろしいですか?」
「あぁ、それで問題ない」
「同じく私も問題ない」
「ではそのように……」
「……おにいさま! どこですか?」
「「「!!!」」」
シャルロッテの声が聞こえた瞬間、そそくさと早足で走り去る足音が聞こえてきた。
……逃げたか。
俺が無理なら今度はシャルロッテを狙うってか?
あんなに幼い子供を、くだらない権力争いの為に殺すってか?
そんなの許せるか? 無視できるか?
俺には無理だ!!
「……ナタリー」
「はい」
「このことはシャルロッテには話さないでくれ。不安がらせたくない」
「かしこまりました」
「後、もう一つ頼みがある」
「何なりとお申し付けください」
「……どこの派閥にも属しておらず、それなりに腕が立ち、尚且つ信用できる人間を出来るだけ多く、出来るだけ早く紹介して欲しい」
「お任せください!」
誰かはわからないが、お前たちの計画が上手くいくことは絶対にない!!
俺が何としても阻止してやる!!
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