第13話 元騎士団長

 俺達は今、馬車に乗りある場所に向かっている。


「本当にその人は大丈夫なのか? 元騎士団長って話だけど?」

「彼の人は自身の気に入ったものにしか仕えません、そして今まで仕えたのは国王陛下のみです」


 それはつまりもし仮に今でも極秘裏に誰かに仕えているとしても、それは国王だから大丈夫だ、という事か?

 正直、俺はその国王を信用していない。


 俺が王族だという事はつまり国王は俺、レオモンド・エオルド・ダイアーの父親だという事になる。

 だが俺がこの世界に転生してからそれなりに経つが、俺は国王とは一度も会っていない。

 

 自身の息子が死にかけたというのに、一度も会いに来ていないのだ。

 最初はそれなりに立場があるから時間を作れないかとも思ったが、流石に四カ月以上経った今でもとなると、信用できないという考えに至っても不思議じゃないだろう。


 それに城の中であんな話を普通にさせてしまっているだけでも、俺の中では信用に値しない。

 だがしかし仮にそれらが全て俺の命を狙っていた奴らを炙り出す為の行動だったとしたら……それはそれで頭が切れすぎてて怖い。


 まぁ~、現状は国王に対しては信用できない人間というのが俺の中の評価になる。


「そこら辺はまぁ話してみてからある程度判断するしかないだろうけど、腕の方はどうなの? 元って事は怪我か何かで辞めたって事じゃないの?」

「いぇ、そう言った事はございません。イアン様は歳をそれなりにとられておられますが、目立った怪我等は一切ございません。腕の方に関しましても、現在騎士団長であるラリー様よりも数段腕が立つお方です」


 は?

 現役の騎士団長より数段腕が立つって相当強いって事なんじゃないのか?

 そんな人が何故怪我でもないのに現役を引退したんだ?


「そんな人が何故引退を……」

「何でも今の国王は気に入らないとか」


 俺がつい思ったことを口にすると、ナタリーからそんな返答が返ってきた。

 はい?

 そんな理由?


 いや、確かに仕える人間との関係性は非常に重要だ。

 だがそれだけの理由でこの国の騎士団長の立場を捨てられるか?

 ……少しその人物に興味が湧いてきた。


「レオモンド様、間もなくイアン様の屋敷につきますが、他に聞いておきたいことはございますか?」

「そうだな……やっぱり、会うにあたって注意すべきことかな」

「注意すべきこと、ですか。そうですね……強いて言うなら、嘘を言わない事、でしょう」

「嘘を言わない?」

「はい。イアン様は腕も立ちますが、頭も切れるお方です。経験かはわかりませんが、嘘をある程度見抜く事が出来るそうなんです」

「嘘を見抜く……」


 仮にその話が真実なら、益々興味が湧く。

 嘘を嘘であると見抜けるのは、非常に強力な武器だろう。

 使い方も交渉事から戦闘面等、多岐にわたる。


 しかしそれは事実であれば、の話だ。

 ハッタリとしてそう言っている可能性だって十分にあるからな。

 それを確かめる策も考えなくてはな。


 そんな事をかんがえている間に馬車は目的地に着いたようで、揺れが止まり、馬車が停まったことを理解する。

 直後ナタリーが軽く頭を下げてから馬車の扉を開け、先に外へ出て軽く周囲の安全を確認し、馬車へと戻ってくる。


「レオモンド様」

「ありがとう」


 俺はナタリーの言葉にそう答えながら、馬車を降りる。

 そして目の前の光景を見て、少し驚く。

 何故なら周囲を木々で覆われ中に、一軒だけしか家が建っていなかったからだ。


 その家は元騎士団長が住んでいる家とは思えない程質素で一般的なものだ。

 ここに本当に元騎士団長が住んでいるのか?

 しかしナタリーが嘘をつくとは思えない……


「……何だ? 俺に何か用か?」


 俺がそんな事を考えていると、まるでタイミングを見計らったかのように、家の後ろからガタイの良い男性が現れ、俺達の方を見ながらそう言った。

 恐らくあの人が……にしても想像していたより若く見えるな。


「お久しぶりです、イアン様」

「その声……お前、ナタリーか?」

「はい、その節はお世話になりました」

「おぉ! 元気にしてたか?」

「変わりなく元気にさせて頂いております」

「そうかそうか、それは良かった!」


 ガタイの良い男性はそう言いながら、嬉しそうに笑う。

 話の内容からして、どうやらナタリーはこの男性と知り合いみたいだな。

 と言うかこの男性が元騎士団長なんだろうが、俺が想像してた人物とは全然違うな。


 元とは言え騎士団長なんだから、もっとこうムキムキで威圧的で、更には白髪で髭まで生やしている人物を想像してたんだが……

 なんと言うか、全てが良い意味で違っている。


 ムキムキではないが、遠目でもわかる程鍛えられた肉体。

 威圧的ではなく、非常に友好的。

 白髪は見受けられず、髭も綺麗にそられており、それなりに歳をとっているのは確かだろうがかなり若く見える。


「それで? 今日はどうした? まさかその隣の坊主と結婚、って訳じゃないよな?」


 元騎士団長と思われる男性は、軽く笑いながら、冗談交じりにそう言った。


「そんな畏れ多いご冗談はおやめください」

「……つうことは、やはりそいつが噂の第三王子様、か」


 ナタリーが即座に俺との関係を否定すると、男性は真剣な表情でそう言って、俺の方へと視線をやる。

 俺はその視線に対して、軽く頭を下げて答える。


「ほぉ~、俺みたいなもんに頭を下げるか……面白い」

「王族とは言えこちらからお伺いしたのですから、どなたであろうと頭を下げるのは礼儀ではないかと」

「そんな言葉を王族本人が言うとは思ってなかった。おっと! 王族様相手にこういった口調は失礼だったな。これはこれは失礼を致しました」


 男性はわざとらしくそう言って、深々と頭を下げた。

 これは明らかにわざとやっているな。

 どういう意図があってかはわからないが、俺を試そうとしている。


 意図がわからない以上、ここは俺の個人的な感情で動くべきだろう。

 何せ相手は嘘がわかるらしいからな。

 変に勘ぐって嘘をつくよりも、自身の偽らざる気持ちを伝えるべきだ。


「やめてください、そんな思ってもいない事。それに、俺自身は言葉遣いや礼儀について全く気にしませんから」


 俺は頭を下げる男性に向かって、真剣な表情でそう伝える。

 すると男性はゆっくりと頭を上げ、俺の目をこれまた真剣表情で見つめてきた。

 正直男に見つめられて嬉しい事なんてないんだが……


 ここは甘んじで受け入れるべきだろうな。

 別にやましい事がある訳でもないし……


「……嘘は言ってないみたいだな。良いだろう、話だけは聞いてやろうじゃないか。とは言え、こんな場所まで態々引退した老いぼれに会いに来た理由など、軽く想像できるがな」

「すみませんが、理由を先に話す事は出来ません。貴方が協力してくれると約束してくださるならお話しします」

「内容を話さず兎に角従えってか? それは流石に傲慢過ぎるだろう。せめて内容を先に話すのが筋ってもんじゃないか?」

「無礼は承知しています。ですがすみません。これは内容が内容なだけに譲ることが出来ません」


 俺の言葉に男性の視線は鋭さを増し、俺を睨みつけるような視線へと変わる。

 それと同時に、先程まで俺の一歩後ろに居たナタリーが俺を庇うかのように俺の前へと移動する。


「ありがとうナタリー。けどこれは彼と俺との話し合いだから、今は我慢してくれる?」

「これは出過ぎた事をしました……ですがもしもの時は迷わず割り込ませて頂きます」

「わかった」


 俺がそう答えると、ナタリーは軽く俺に向かって頭を下げてから、先程のように俺の一歩後ろへと移動した。


「勧誘の仕方は無礼なのに、そう言う所はちゃんとしてるんだな」

「それだけの理由があると察して頂ければ助かります」

「フン、よく回る口だな。……だがまぁ~良いだろう。あのじゃじゃ馬だったナタリーが従順に従ってるんだ、それに免じて協力する事を約束してやってもいい」


 ナタリーがじゃじゃ馬だった?

 そんな事初耳なんですが!?

 いや、だが今はそれよりも彼が協力してくれるかどうかだ!

 ナタリーの事に関しては、後で本人にでも聞けばいい!


「で……」

「ただし!! 勿論条件を付けさせてもらう!」


 男性は俺が言葉を発しきるのを遮るように、力強くそう言った。


「その条件とは何ですか?」

「そう怖い顔すんな。別に難しい条件ってわけじゃねぇ。ただ俺と、本気の模擬戦をしてもらうだけだ。お前も俺に協力を仰ぐうえで、俺の実力は知っておきたいだろう?」

「確かにそれはそうですが……」

「なら決まりだ!」


 確かに俺も協力を仰いではいるが彼の実力を知らない。

 なのでそれを知れるなら確かに嬉しい。

 だが俺との模擬戦でそれを調べるとなれば話は別だ。


 俺は別に戦闘経験が豊富なわけでも、戦いの才能がある訳でもないただの子供だと自負している。

 そんな俺が仮にも元騎士団長と戦ったところで、一体何を確かめる事が出来る?


 恐らく軽くあしらわれて終わるのが関の山だ。

 つまりは彼は俺に協力する意思が全くないという事……

 彼がその気なら、俺にも考えがあるぞ!!

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