2-15

 俺が見ていることに気付くと、フォルネウスは釈然としない顔で微笑む。


「ヘル様ぁ? どうしてヘル様が奴隷如きを気持ちよくさせてるんですかぁ? 奴隷がヘル様を気持ちよくさせないと、ダメなんじゃないかって、フォルネウスは不思議に感じちゃうんだもん」


 うおっ! そもそも、そこから間違っていたのか!


「う、うむ。ただの気まぐれだ。気にするでない」


 苦し紛れにそう答えると、フォルネウスは「はぁい」とつまらなそうに返事を返した。しかし、その視線がどこか冷たい。


 やはり不審に思われているのか? そういえば、さっきの演説の後、アドラ、グラシャ、サタナキアは俺に心酔したような様子だったが、フォルネウスだけは違った。疑問を感じながら、周りに合わせてしぶしぶ手を振っていた気がする。


 さらに言えば、今している行為を見て、不信感が強くなっているのかも知れない。なにせ俺は――多分、哀川さんも、こういったえっちな経験がないのだ。これで大丈夫なのかどうかの手応えがまったくない。ああ、こんなことなら、あのエロいことで有名なライトノベル。主人公がプロ級のエロスな腕前を持つと評判の、あの作品を読んでおくべきだった!


 後悔先に立たず。正直言うと、さっきから立ちっぱなしなアレを何とか隠せないものかと思っているのだが、いい方法がない。さりげなく哀川さんの視線を遮るように、なんとなく手で隠すのが関の山だ。


 自分のことは棚に上げ、俺は哀川さんに要求を下す。


「俺の手を煩わせるな。自分でその胸をさらすのだ。見て下さいと、な」


「え……で、でも」


 哀川さんの顔色がさっと蒼くなった。それくらい覚悟していただろうが、いざ脱ぐという段になると、腰が引けてしまうのだろう。唇を噛み、肩をふるわせている。


 やがて哀川さんは、絶望したように頭を下げると、のろのろと胸を隠す布に手をかけた。そしてゆっくりとずり下げる。引っ張られた布が限界を迎え、ぷるんと胸がこぼれ出た。


 それは予想通り大きかった。形も美しく、実に淫猥で可愛らしい。あのお堅いスーツの下に、こんなにいやらしいものを隠していただなんて。


 しかもこれ、誰にも触らせたことがないって……やっぱり性格のせいなのかな。


 しかし、こうしてしおらしくしている姿は、嫌でも興奮を煽られる。


 俺は我慢出来ず、その胸に直接触れた。初めての生乳。布一枚あるとないとで、感動が大きく違う。感動に打ち震える俺とは対照的に、哀川さんはこの世の終わりのような顔で目に涙をいっぱい溜めていた。


「うぐっ……こんなの、ひどい……あぁん、あんまりよぉ」


 嫌で嫌で仕方がないのだろう。しかし嘆きの声に、少しずつ甘い声が混じってくる。


「く……い、いやっ、ああっ……んぁあっ!」


 体が敏感に反応し、哀川さんの口からは色っぽい声が奏でられる。


 意に反して感じてしまっている事実が、哀川さん自身に自己嫌悪と禁忌と興奮を生み出しているんだ。あごを上げ、喉をそらす。次第に熱い吐息が、ピンクの唇を割って溢れ出してきた。


「あ、ああっ……はん……んうっ! や、そこ、そんなに強く……あぁあああんん」


「さ、さぁ憐れな性奴隷よ。貴様が俺に奉仕をするのだ」


 息も荒く、哀川さんは言葉を切りながら返事をする。


「そ、そんなの……どうしていいか、分からない……わ」


 うむ。俺にも分からない。そういえば、昔哀川さんに罵られた言葉の中に、こんなのがあったな。『納期に間に合わないなら、私の足を舐めて許しを請いなさいよ。それが出来ないなら、死ぬ気で間に合わせなさい』


「ならば、俺の足を舐めろ」


「……っ!?」


 なに言ってるのこの人? という顔で哀川さんが見上げる。しかし、やらざるを得ないということに気付くと、怒りに顔を赤くした。


「覚えて……覚えておきなさいよ……」


 そうつぶやくと、哀川さんは俺の前に四つん這いになった。

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エクスタス・オンライン/著:久慈マサムネ 角川スニーカー文庫 @sneaker

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