2-7
匂いに誘われて覗いてみると、台所では大勢の料理人が忙しそうに働いていた。全員若い女性だが、頭から兎のような耳が生えたり尻尾があったりしている。全員、獣人か悪魔だろう。エプロン姿が意外と可愛かったりするので、その筋の人にはきっとたまらない光景ではあるまいか。まあ、俺はケモナーじゃないんで、欲情したりはしないですよ。そう、耳や尻尾には興奮しないけど、おっぱいやお尻がステキなら別に気にならないだけだ。
「ほら! そこの奴隷、なにやってんの! 早くお皿洗って!」
「はいっ! すみません!」
特にあの奴隷呼ばわりされている人は綺麗だな。胸が大きいのに、しなやかでスレンダーなボディラインが素敵だ。元はワイシャツだったであろう、ボロボロの布を着て、その上からSMっぽい革の拘束具をつけている。あとは、腰に巻いた布が体を隠す全てだ。あれ元はスーツの上着だったのかな? パンツの線が見えないので、明らかにノーパンだよね? 胸もぽっちが浮き出てるし。下着も着けさせてもらえない、そんな立場に涙しつつも興奮を禁じ得ない。
そして奴隷らしいアクセサリーの首輪と手枷、そして足枷。それらのオプションが、この女性キャラの立場を主張している。仕事がしやすいように鎖は外されているが、普段はつながれているのだろう。少し気位が高そうな感じなのに、いやらしいコスチュームを着せられて、蔑まれているところとかたまらん。現実の奴隷だったらシャレにならないけど、ここはゲームだからな。あれも世界観を盛り上げるためのNPCのはずだ。
「奴隷! 何休んでんのよ! 二十四時間働き続けなさいよ」
「はいっ! 申しわけありません! 二十四時間働きます!」
ああ、世知辛いなあ。あの薄幸そうなところが逆に可愛くていいよね。にしても、こんなゲームの世界でも社畜っているんだ。
「食材が足りないよ! さっさと地下の倉庫から食材と酒を取っておいで!」
「え? で、でも、地下倉庫って……変な生き物がいるところですよね? あそこ、うねうねのぐちょぐちょの気持ち悪い触手とか、体に絡んできて気持ち悪いというか、この前もとてもじゃないけど会社の人間に言えないような、大変なことになっちゃって……」
それにしても、どこかで聞いたことのある声だな……元になったサンプリング音声が、誰か知っている人なのだろうか?
「そんなの知ったこっちゃないわよ! 何とかしなさいよ」
「ひいいいいいいい!」
その声の主が、扉から飛び出して来た。前を見ずに走って来たその人は、そのままの勢いで俺の体に正面衝突した。
「きゃっ!?」
短い悲鳴を上げて、奴隷の女の人が倒れる。尻餅をついて、痛みに顔をしかめた。
「あ、いたたた……もうっ、何で廊下の真ん中に突っ立って……」
その女奴隷は、俺の姿を見上げて目をぱちくりさせた。
うん。さっきから気にはなっていたんだけど……この人NPCじゃないぞ。っていうか、俺この人知ってる。けど今は、めくれあがった腰巻きの下に、予想通り下着がなかったことの方が重要だ。目が離せない。いや、そりゃそうだろう。女の人の股間には魔法がかけられているのだから。男ならば誰しも目が離せなくなるという魔法が。だから俺のせいじゃない。
その女奴隷は真っ青になって、唇を震わせた。
「ま、魔王……さまっ!?」
冷や汗を流しながら、瞳が激しく泳いでいる。
女奴隷は顔を引きつらせて飛び退くと、飛び上がったまま着地して正座。頭を地面に擦りつけた。じゃ、ジャンピング土下座!?
「申しわけございません! 卑しい奴隷のわたくしが、魔王様の御不興を買うようなことがありましたでしょうか」
「いやいや! 土下座はいいから! それより、何でこんなところで、こんなことを!?」
女奴隷は顔を上げると、怪訝そうに眉根を寄せた。
「ん?……魔王に、こんなアルゴリズム……あったかしら……」
「ええと、
「……え?」
「あの……俺、
「どうめぐり……くん?」
哀川さんの目がこれ以上はないというくらい見開かれ、そして耳まで真っ赤になった。
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