1-8


「む!?」


「っんな!?」


 咄嗟に飛び退いた二人の間に、炎の柱が立ち上がる。凄まじい衝撃波が広がり、二人の体を吹き飛ばした。


 な、なんだぁ!? 今度は!?


 俺は辺りを見回し、攻撃してきた相手を探した。すると、百メートルほど離れた場所に、弓を構えた女がいる。


 まさか、さっきのが矢だったとか? いやいや、ほとんどミサイルみたいだったぞ!?


 吹き飛ばされたグラシャとアドラは宙を舞うと、危なげなく地面に着地した。


「てんめぇえ! サタナキア! どーゆーつもりだ、この野郎!」


 歯をむき出すグラシャに、サタナキアと呼ばれた女が矢を放った。その矢は飛んでいる間に、翼竜へと姿を変えた。


 目の錯覚だと思った。


「うおおおりゃああああああ!」


 グラシャの拳が目にも止まらぬ速度で撃ち出される。襲いかかってきた翼竜を、真っ正面から打ち砕いた。


「こんのアマぁ! マジでぶっ殺すぞ!」


「本当に、男とはバカな生き物ですね」


 うわっ! いつの間に!?


 百メートルくらい向こうで弓を構えていた女が、俺の隣にいた。


「あ、言うまでもありませんが、ヘルシャフト様は別です。愛してます」


 クールにしれっと愛の告白をしてのけると、そのドエロい姉ちゃんは優雅に身をひるがえす。輝く白髪が尻尾のようになびき、褐色の胸が大きく左右に暴れた。


 はっとするほど鮮やかな、褐色の肌と白髪のコントラスト。長い髪から飛び出している尖った耳。そして何より、その抑揚の激しすぎるわがままボディに、ビキニアーマー的な露出度の高いコスチューム。その容姿からダークエルフであることはすぐに分かった。というか、こいつはハッキリ覚えている。エロいデザインで、目を引いたからだ。


 サタナキアはアドラとグラシャに近付くと、淡々と話しかける。


「こんなところで仲間割れなど、ヘルシャフト様が呆れていらっしゃるわ」


 アドラとグラシャは、しぶしぶと剣と拳を下げる。しかしサタナキアにダメ出しをされたことに対しては腹を立てているらしい。


「ふん……貴様に指図される覚えはないぞ、サタナキア」


「そうだ、そうだ! てめぇこそ何もしてねえじゃねえか!」


 サタナキアは腕を組んだ。すると大きな胸が組んだ腕に収まらずに逃げだそうとするように形を歪める。


「そうですね……では、良い機会なので我ら『ヘルゼクター』の中で、誰が最も優れているのか決めましょう。人間共をいかに多く殺せたかで勝敗を決める、というのは?」


 グラシャの瞳がぎらりと光った。


「おもしれえ! その案乗ったぜ、サタナキア!」


 アドラもメガネをついと上げると、にやりと微笑む。


「グラシャと同レベルで争うつもりはないが……しかし我らが王城インフェルミアを脅かそうとする者どもには、殲滅をもって報いねばならないのも事実」


「面白そうっ! あたしもやるーっ! 人間なんか、皆殺しにしちゃうんだもん!」


 美しい羽を嬉しそうに羽ばたかせ、フォルネウスも手を挙げた。

 

 ――これがヘルゼクター。魔王の側近である四人の幹部。


 俺は恐ろしくも美しい、一騎当千の部下の姿を見つめた。


 人狼のグラシャ。吸血鬼のアドラ。堕天使のフォルネウス。ダークエルフのサタナキア。


  四人は不敵な笑顔で、押し寄せる数千の軍勢を睨み付ける。


「よっしゃあああ! いっくぜぇえええええええ!」


 グラシャは地面を蹴ると、人間の軍隊に飛び込んでいった。


 その時には、既にアドラの姿は黒い霧となって消えていた。そしていつの間にか、陣形を組んだ部隊の中に現れ、剣を振るっている。二人が演じる殺戮に、フォルネウスも目を輝かせた。白い翼を落ち着きなく動かし、腰の光の輪もぎゅんぎゅんと回転している。


「あたしたちもやろっ! ね、サタナキア!」


「ええ。男共に負けられないですからね。いいところを見せて、ヘルシャフト様のハートをがっちりキャッチ」


 フォルネウスとサタナキアも、人間の軍勢へと向かって行った。

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