1-7


 「あーもー最っ低!」


 髪に付いた砂を払いながら、ギャルっぽい女が体を起こす。


「ったく! うちをこんな目に遭わせるとか、信じらんないんですケドぉ!」


 こいつは毒島ぶすじまメグ。二年A組のトップカーストに所属するギャルだ。金色の髪に日焼け肌。よくこんな装備があったなと思えるほど、派手でビッチっぽいコーディネイトをしている。


「魔王とかダッサ! あんたのせいじゃん。さっさと死んでよ……え?」


 どこからともなく黒い霧が流れてきた。


「わ、ちょっと! なにこれ!」


 一つ一つはコウモリのような形をしている。コウモリの霧は羽ばたきながら、毒島の体を取り巻くようにして集まってくる。数百のコウモリが集まり、霧の濃度が上がってゆき、そしてそれは人の姿を形作った。


「え……やだ、超……イケメン♡」


 黒い霧から、すらっとした長身の男が現れた。黒髪に黒のタキシード風のコスチューム。身にまとう雰囲気と相まって、どう見ても執事にしか見えない。その男はメガネのブリッジを指で押し上げると、突然現れた美形にのぼせ上がっている毒島に、冷たい視線を向けた。


「あ、あの、うち……え、えええっ!?」


 その男は黙って毒島の首筋にキスをした。おいおい! こんなところで何を始める気だよ! 今までと流れ変わりすぎじゃない!?


「ひっ! き、きゃあああああああ!」


 毒島の口から悲鳴が上がった。毒島の首筋から赤い数字が次々と浮かび上がり、それにつれて毒島の体もやつれてゆく。


 吸血鬼……なのか?


 HPを吸い尽くされたのか、毒島の体が力を失い地面に倒れる。


「人間風情の売女がキングに無礼な口をきくとは……その罪、万死に値する」


 冷たく吐き捨てるように言うと、毒島の体が光となって消えた。吸血鬼の冷たい視線は、次にグラシャへと向けられた。


「グラシャ。貴様がしっかりしていれば、キングのお体に下衆な人間共の刃が触れることもなかったのだ。やはり犬畜生の分際ではキングのお側に仕える資格は無いな」


 グラシャはバツの悪そうな、そして怒りの混じった目で、黒髪のイケメンを睨み付ける。


「るっせえな、アドラ! てめぇこそ作戦が全然違うじゃねえかよ! 王様が戦場に出張るだなんて、聞いてねえぞ!」


 アドラと呼ばれた執事風の吸血鬼はぴくりと眉を動かすと、一層冷えた声を出した。


「貴様の不甲斐ない戦いぶりに業を煮やされたのだろう。まったく、己の力不足を棚に上げて、参謀である私の作戦に文句を言うとは。この単細胞が」


「んだとぉ!?」


 アドラとグラシャが至近距離で睨み合った。


「アドラ、てめぇとはケリを付けなきゃならねえと思っていたんだ」


「面白い。私も駄犬には躾をしなければと考えていた」


 アドラはどこにしまっていたのか、タキシードの背中から剣を抜いた。真っ黒な刀身に赤い光が不気味に輝いている。見るからに禍々しい剣だった。


 一方のグラシャは拳を構え、腕の筋肉をバンプアップさせる。すると再び腕が巨大な豪腕へと姿を変える。


 ちょ、ちょっと。これどうなってんの? いきなり仲間割れ?


「いくぜ、陰険メガネ!」


「来い、駄犬!」


 アドラとグラシャが飛びかかろうとした瞬間、二人の間で爆発が起きた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る