1-3

 ついさっきまで一緒に居たのに、妙に懐かしい気がする。だがその姿は見慣れないものだった。制服姿ではなく、軽装な甲冑に身を包み、りりしい表情を浮かべている。


 あの格好は……なんか、この世界に馴染んでる感があるけど……この際どうでもいいや! こんな戦闘の中で再会出来たことの方が重要だ!


 朝霧あさぎりが腰から剣を抜くと、その銀色の刀身がきらめく。明るい色の髪をなびかせ、大きな瞳と剣の切っ先を俺の方に向けた。


「みんな恐れないで! これはチャンスよ!」


 透き通った可愛らしい声は、紛れもなく聞き慣れた朝霧の声。その声に応え、周りの兵士がうおおおおお、と鬨の声を上げる。大多数は見たことのない顔だ。個性のない、どこか量産品の人形のような顔。だがその中に、幾つか見知った顔があった。


 あれは、扇谷おうぎや有栖川ありすがわ


 数人のクラスメートが甲冑を着て、武器を振り上げている。朝霧の隣には、一之宮いちのみやの姿もあった。


 二人並んでいると妙に絵になるな。ファンタジーRPGの主人公とヒロインみたいで、何かむかつく。


「城から出て来た新手の足を止めるんだ! 槍部隊前へ!」


 一之宮が一軍の将のような風格で指示を送る。その指示がどう伝わったのか分からないが、戦場で個々に戦っていた槍部隊が集まり、俺と後ろから迫る魔獣との間に割り込んだ。そいつらは、この戦場にいる大多数の人間同様、二年A組の連中ではない。どこか無個性な表情をした騎士たちだ。そして陣形を整えると、槍の穂先を魔獣へ向ける。


 よし! 一之宮はむかつくが、俺を助けてくれそうなのは褒めてやろう!


 朝霧も、剣を振り上げ凜々しく叫ぶ。


「魔王がこんな前線に、それも単騎で出てくるなんて有り得ないことだわ! このチャンスを逃さないで! いくわよ、みんな!」


 朝霧が剣を構えて走り出した。


 バリケードが次々と倒され、後ろに控えていた連中もその後に続いた。個性のない大勢の兵士に交じって、クラスメートたちが決死の表情で突っ込んで来る。


 みんな、俺のことを心配して、命がけで助けようとしてくれるのか。


 話の流れから察するに、後ろから追いかけてくるケダモノの親分みたいな奴が魔王のようだ。普段俺と話をすることもない連中が体を張って、恐ろしい魔王から俺を助けようとしてくれる。これがクラスメートの絆というやつなのか……友達ってのも、案外悪くないものなのかもな……。


 くそっ、不覚にも涙が込み上げてきた。


「おお――いっ!」


 俺も手を振って、みんなの方に向かって走る。


 朝霧は俺に応えるように、剣を構え――、


「はああああああああああああああっ!」


 俺に斬りかかった。


「な……!?」


 思わず庇うように腕を上げた。


 ――何で!? どうして!?


 そんな思いが瞬間的に頭の中をぐるぐる回る。だが俺は何も出来ず、ただ目をつぶって、訪れるであろう想像を絶する痛みに恐怖した。


 金属がぶつかり合う音が響き、かすかに腕に何か当たった感じがした。


 ――え?


 目を開くと、俺の腕はそこにある。


 分厚い装甲に守られた腕だ。しかも異様にごつい。自分の腕とは思えない太さだった。


 その腕から、ふっと赤い色の数字が浮かび上がる。

 ――20


 ? 何だ、この数字?


「くっ! さすが固いわね!」


 朝霧がもう一度剣を構える。


「でも効いてる。ちゃんとあたしたちの攻撃も通じる相手よ!」


 俺は視線を落とし、自分の体を見つめた。


 何だ、これ?


 俺の体は腕と同様、黒くごつい鎧に覆われていた。


 それともう一つ奇妙なことがあった。


 朝霧の体が異様に小さい。頭が、俺の腹くらいの位置にある。確かに俺より背は低かったけど、いつのまにそんなに小さくなったんだ!?


 そのミニ朝霧の体が青く光る。全身にみなぎる力が、光となって現れているようだ。そしてその手に持つ銀色の剣も青く光る。


「うわ……ちょ、ちょっと、待て!」


 鋭い叫びと共に、朝霧が剣を走らせる。


「ライトニング!」


 美しい光の軌跡を描き、剣が俺の胴を叩いた。激しい光と火花が弾ける。また赤色の数字が浮かび上がった。今度は60だ。


 これって、まさか……俺のダメージ、か?

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