これは……無理ですね


「ハイボールを頼む」

「かしこまりました」


団長さんからの注文でハイボールをささっと作って差し上げる。


「はい、どうぞ」

「ふぅ、やはり外で呑めるのはありがたいな」

「何か召し上がりますか?」

「そうだな。おまかせで行こうかな」

「では、2、3品ほど準備致しますね」


浸け置きしてあったキムチを小皿に入れて渡す。次に魚を開き、網の上で焼いていく。

その間にトマトとチーズをベーコンで包む。


「団長さんは、シンクさんと知り合いなんですか?」

「あぁ、そんなことはない。あいつはうちでもそれなりに顔が知れているからな」


やはりBランクほどの冒険者なら上の人の目に止まったりもするのですかね。

私はなんてお店に来るまで知ってすらいなかったみたいですし。


「実力があるのに長いこと同じランクで止まっているからみんな不思議がっているんだ」

「なるほど、何故ですか?」

「それは知らん。大方、Aランクだと執務までこなすのが面倒とかではないか」


それはそれは、私何かが理解できる話ではなさそうですね。それにお客様のことを勝手に聞くのはマナー違反ですし。

開きも出来上がってきたので、切り分けてあるレモンをひと切れ乗せて差し出す。


「アラノの開きです。レモンはお好みでかけて召し上がってください」


ベーコン巻きを同じように網で焼いていく。


「おぉ、引き締まっていたこれはいい。レモンも酸味も足されているし、いいアクセントだな」


そうでしょう。私が市場で出向いて目利きして選んだ逸品ですからね!


「そういえば、今日はおひとり何ですか?」

「いや、シェリーが遅れて来るはずだ。今頃事務仕事で四苦八苦しているだろうな」

「それはお疲れ様ですね」


シェリーさんがひいひいしながら書類をこなして行く姿が容易に想像出来て、私と団長さんは苦笑する。


「次は、ベーコン巻きです」

「これもいいな。その前におかわり頼む」


空いたグラスを受けとる。

ベーコン巻きは、トマトを包んだ方は、噛んだ時にトマトの触感と酸味の効いたトマトの汁が絶妙なんですよね。チーズもトロッと溶けて、濃厚な味わいがクセになりますし。


「はぁ……結婚したい」

「…………はい?」


ベーコン巻きを食べていたら突然口にした言葉に私は一瞬理解が遅れてしまった。


「いや、私だってもう28になるんだぞ?」

「別に年齢のことは聞いていませんから」


この前のときには何にも反応を示さなかったのに、実は誰よりも結婚願望があったんですか?


「それなり容姿には自信はあるし、金もある。私には何が足りない」

「……慎ましさですかね?」

「何だと!これでも今日は抑えているんだぞ!?」


私の発言に少し怒気を込めた声で言い返してくる。


「ちょっと、静かにしてください」

「……すまん、おかわり頼む」


謝りながらちゃっかり追加を頼む辺り、この人は何も反省してはいないのでしょう。

他のお客様に軽く頭を下げながらも新しく入れたハイボールを渡す。


「団長さんは、綺麗な方ですから、そのうちいい出会いがありますよ」

「ふん、君に何が分かる」


人が折角フォローを入れたのにこの態度。追い返していいですかね?

それは冗談ですけど、今はとにかく団長さんの絡み酒をどうにかしませんと。


「君……1回私の名前を呼んでみろ」

「……はい?」

「だからミリアと呼んでみろと言っているんだ」


…………この人面倒くさいですね。

しかし、また騒がれても他のお客様に迷惑がかかりますし、素直に従いましょう。


「ミリアさん」

「ダメだ。さんはいらない」

「……ミリア」


団長さんは、満足したようで、アルコールが待っているほんのり赤い顔で艶やかな笑みを見せる。

本来ならさっきの笑みでドキリとしたり、男性として刺激を受けたりしてもおかしくないのに、さっきのことを思い出して、むしろ冷めた目で彼女を見返す。


「やはり男に名前で呼ばれると私も女性らしさを感じるよ」

「それはそれは」

「よし、これからも私のことは名前で呼んでくれ」


まあ、それぐらいなら構いませんね。

酒も抜けてきた状態で相手にするのに限界を感じてきたので、私も1つグラスをレモンチューハイを作る。


「君も呑むのか」

「ええ。と、その前にルルを引き上げさせないと」


今日は裏でひっそりと食材の仕込みをしていたルルにもう上がっていいことを伝える。


「ルル、もう上がってください」

「分かりました。お言葉に甘えてお先に失礼します」

「ええ、おやすみなさい」

「……いい娘だな」


ルルを見送りながらミリアさんはそんなことを呟く。


「その点はミリアさんに感謝しないと行けませんね」

「そうだろ。けど、説明不足にしまった私が言うことではないけどな」


施設のことを詳しく説明しなかったことをそれなりに気にしているんでしょう。

私も最初はどうかと思いましたが、今はこうして幸せですから問題ないですけど、直接言うと恥ずかしいのでやめておきましょう。


「……今日はもう帰るよ」

「シェリーさんを待たれなくていいのですか?」

「問題ない。電話でシェリーには謝るとするさ」


帰り支度をする姿を見ながら、会計の計算をする。


「6700シエルです」

「思ったより長いしてしまったみたいだな」

「ふふ、ただ飲み過ぎなだけですよ」

今日もほとんどずっとお酒を呑んでいましたからね。


「では、ありがとう」

「こちらこそありがとうございます。夜道には気をつけてくださいね」

「私に手を出す不届き者がいると思うか?」


お茶目に笑う姿にそれもそうかと納得してしまいました。逆に相手がやられてしまいそうですしね。



カラン

「ミリアさん、遅れてしまって申し訳ありません!って、あれ?」


その後、駆け込んでやってシェリーさんを見て苦笑いをしてしまった。

最低ですね。……電話忘れていますよ。

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