焦る私と驚く娘
カランカラン
「ただいま!」
お店を営業する前の夕方のこと
勢いよく扉が開かれて私は何事かと振り向けば、普段は物静かなルルが珍しくたれ耳が立っていて、感情が昂っているのが分かりました。
「おかえりなさい」
「お父さん、報告があります」
「珍しいですね。どうかしましたか?」
力強い瞳に驚きながらも、ここまで感情を顕にするルルは見たことがなかったので、私は興味深く次の言葉を待ちます。
「ルルイエに友達が出来たかも知れません!」
「何ですって!?」
思わず大声を出してしまいましたが、恥ずかしくなり咳払いをしてからカウンター席に腰を落ち着かせる。
「そそそ、それはめでたいですね」
ビークールです私。
親目線でも社交的ではないと分かるルルにまさかこれほど早く友達ができることになるとは。今夜は赤飯でも炊いた方がいいですかね。
「はい。ルルイエも正直驚いています」
「…………誰かにルルの成長を伝えないと」
まずシエールさんには間違いなく伝えましょう。リオも言った方がいいですね。レレとシェリーさんも伝えたらきっとルルを褒めるはずです。団長さんは……あの人は呑んべぇさんですからどうでもいいですね。
「さ、さっそく電話をしませんと」
「お父さん、落ち着いてください。我が家に電話はありません」
「そ、そうでしたね。はは、私としたことが」
けど、この抑えられない気持ちはどこにぶつければいいのですか?本日はお店も定休日ですからお客様に話すことも叶いません。
「ということがこの前ありましてね」
「その前にヒロトに娘が出来たことすら聞いてないぞ?」
翌日、シンクさんが1番に来店されたのでこの喜びを一緒に分かち合うために私も開店からビールをお供に呑んでいます。
「シンクさんを見たのも最近ですからね」
「あー、昨日まで商人の護衛でここから離れていたからな」
「なるほど、それなら仕方ありませんね」
私は盗賊や魔物に襲われたりするのが嫌でしたから進んで受けることはありませんでしたけど。
「それでお前の娘っていうが、あそこで飯食いながら泣いてる娘か?」
「はい。ルルイエって言うんですよ」
「ゔゔ、濃厚で彩りどりの食材を1度に食べれるなんて、ルルイエは、ルルイエは……幸せ者です」
テーブル席で1人でカレーうどんを食べている。
最近は泣きながらも料理の感想を言うまでになり、今では料理評論家のようになっています。
「ルルも一応冒険者ですので、今度色々教えてあげてください」
「ヒロトにはいつもうまい飯を食わせてもらっているからな。ギルドで会ったら一緒にクエストぐらいなら行ってやるよ」
「ふふ、ありがとうございます。お礼に何かサービスさせていただきますね」
冷蔵庫に何かないか探してみると個人で楽しむために買ってあった魚があったので、それを取り出す。
「生ものは平気ですか?」
「いや、あんまり食べないな」
「では、お試しで食べてみてください」
包丁で鱗を落として水洗いをかけてから頭を落とす。本来ならお腹に切れ込みを入れて内臓を取り出すのですが、私は後の掃除が面倒なので内臓がある部分だけ切り落とします。そして三枚おろしにして、切り分けて刺身にして提供する。
「どうぞ、セイゴの刺身です。今日買ったので新鮮でおいしいはずですよ」
「おぉ、さっそくいただこうかな」
シンクさんは、恐る恐る一口食べるとすぐにビールを一口入れて、また刺身に手をつける。
「これは行けるな!」
「そうでしょう。今度お店に出す予定ですからね」
「魚なお前の娘は猫科の獣人だから行けそうだな」
シンクさんが食べ終えたルルイエを呼ぶと空いた皿を持って、カウンターまでやってくる。
「……どちら様ですか?」
「自己紹介は後でいい。とりあえずこれヒロトが作ったから食べてみろ」
私の方を確認して来たので、頷くとルルも一口食べる。何度か噛んでから飲み込むとたれ耳が立ち上がり、驚いた表情をする。
「初めて生ものを食べましたけど、すごくおいしいです」
「お前も酒が呑める歳になったらもっとうまく感じるぞ」
「それは楽しみです。お父さんは生ものもおいしくするので、まるで魔法使いみたいです」
2人とも刺身をおいしくいただいているのを見て、ついつい笑顔になってしまいます。
やっぱり生ものはあまり浸透していない見たいですし、これはいい発見ですね。
「俺はシンクだ。一応冒険者をしているからよろしくな」
「私はお父さんの娘でルルイエと言います。週末だけですが、私も冒険者をしています」
刺身を食べ終えたので、2人は挨拶を交わしていました。
「お前、ランクはいくつなんだ?」
「Dランクです」
「それなら討伐は行けるな……よし、今度一緒にクエストに連れて行ってやるよ」
「シンクさんは、結構優秀な冒険者ですからとても勉強になりますよ」
一口余計だと怒られましたが、私はシンクさんのフォローを入れる。
いや、いきなりクエストに連れて行くって言ったらルルも遠慮するじゃないですか。
「……失礼ですが、ランクは?」
「Bランクだ」
「素晴らしいですね。私の方こそよろしくお願いします」
カラン
「失礼するぞ」
ルルも接客をやり始めて、少しすると新しくお客様が来店してきました。
「いらっしゃいませ。って、団長さんですか」
「おい、客にする態度じゃないだろ」
「分かっていますよ。何を飲まれますか?」
団長さんはカウンター席に座るとようやくシンクさんの存在に気づく。
「……お前は確か」
「えらい有名人が来るじゃないか」
「まあ、俺はそろそろお暇するわ」
2人は顔見知りなのか、それでも特に会話もすることもなく、シンクは会計を済まして帰宅される。
「じゃあな、また来るわ」
「ありがとうございました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます