たれ耳ドーター
「ヒロトさんは、ここがどのような施設かご存知ですか?」
「いえ、分かりませんが、ミリアさんからは奴隷を雇う気はないかと聞かれました」
「……そうですか」
彼女の悲しそうな目をするも頭を軽く振るとすぐに元の表情に戻った。
「まあ、言い得て妙ではありますがね」
「そうですか。それとここにいる子供たちは全員が孤児とも聞きました」
「それは間違いありませんわ」
シエールさんが言うには、ここの施設は孤児院のような場所で孤児を見つけては一緒に生活をするが、孤児たちもそれなりの年齢になると最低限仕事を覚えたりするらしい。
「最初は簡単な家事から、それから内職をして、外に働きに行くような子たちもいます」
「……もしも反抗的な子供がいたらどうするのですか?」
「それは教えられません」
力強く否定される。この内容は私のような無関係の人間が知るべきことではないのでしょう。
「それは最悪の場合に限りますけどね。そして、ある程度自立できるようになれば、独り立ちしてこの施設を離れたりもします」
「ボランティアと言った訳ではないんですね」
「慈善事業などと誇れるようなものではありませんわ。むしろ偽善なようなものです」
親も子が成長するに連れて、どこかよそよそしくなったり、最悪殺したりもする時代でありますし、血も通ってないこの人たちがここまでしてあげれているのは奇跡なようなものなのでしょう。
「こうやって子供たちを1つに集めていれば、ヒロトさんのような方が来て、手を差しのべて孤児の子やその保護者が幸せになれば、私も少しは救われますわ」
「私、やはりここの子供を引き取らせていただいてよろしいですか?」
「もちろんです!出来るだけ希望に応えれるようにしますわ」
あぁ、こういうところが団長さんが言っていた奴隷扱いされる点なのですね。
私、保護者が品定めするように施設の子供を選べから皮肉の意味も込められているのでしょう。なら、私は引き取った子供が幸せと思えるぐらいに愛情を注いで上げましょう。
「居酒屋で夜も働けて、なおかつ腕が立つ者がいいです」
「そういう事なら、獣人で年齢もそれなりに高い子の方がよろしそうですね」
シエールさんはしばらく考えると席を離れて、1人連れて来ますと言って、部屋から出ていってしまった。
「はぁ、団長さん。もう少し詳しく説明してくださいよね」
1人しかいない部屋で私はここにいない団長さんに愚痴を漏らしていた。
コーヒーを飲みながら待っているとシエールさんは1人の子供を連れて部屋に戻ってきた。
「お待たせいたしました」
「失礼します」
シエールさんが連れてきた子供は小柄で頭に垂れた耳が生えている。
「ルルイエと言います。猫科の獣人で今年で15になります」
「私はヒロト・イトウです」
ルルイエと言われる少女は茶色の瞳と短く切り揃えたおかっぱの髪形で第一印象は落ち着いた雰囲気をしていた。
「ルルイエはギルドで働いていて腕もたちますし、思慮もあってご不便をお掛けしないと思いますわ」
「なるほど。君は私とこれから生活するのに不満はありませんか?」
私はルルイエと目を合わせて問いかける。
「はい」
「……そうですか。シエールさん、彼女を引き取らせていただいてよろしいですか?」
「もちろんです。同意も確認しましたので、書類にサインをお願いします」
それからのことは思った以上にすんなりと進んでいった。
誓約書を読んでから私の名前とルルイエの名前を書くとシエールさんは不備が無いか確認して、満足そうな表情をしていた。
「最後ですが、人間のヒロトさんが獣人を引き取るということは、これから世間から冷たく見られることもありますが、それでも彼女を幸せにできますか?」
「はい。彼女をルルイエ・イトウを世界で1番幸せにして見せますよ」
私の言葉に彼女は満足そうな表情で頷いて見せた。
「ルルイエ、これからヒロトさんの下で生活するのですから荷物を纏めて来なさい」
「かしこまりした。モエさん、永らくお世話になりました」
ルルイエが部屋から出るとまたしてもシエールさんと2人きりになってしまった。
「シエールさん、今度私のお店にミリアさんと遊びに来てください」
「そうですわね。ルルイエの様子も見たいですし、お邪魔させていただきますわ」
「サービスさせていただきますよ」
しばらく会話をしているとリュックに荷物を纏めたルルイエが戻ってきたので、シエールさんに案内されながら施設の外まで出る。
「私も最後に1つ聞いてもよろしいですか?」
「ええ、構いませんよ」
振り返り、玄関の前にいるシエールさんにふと気になったことを話す。
「あなたは孤児たちのことをどう思っているのですか?」
偽善とまで言うこの仕事に彼女はどんな気持ち抱いているのか。私はそれが気になった。
「私の家族ですわ」
「そうですか」
すぐに答える彼女の瞳には曇りひとつなく、それ以上は話さずに施設を後にした。
「ルルイエ、良い人に恵まれましたね」
「………はい」
彼女の頬に涙が流れるのに触れずに会話もないまま自宅へと帰宅した。
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