力技も出来なくはありません
「今日も悪いな」
「いえいえ、シンクさんはよく来ていただけるので、すごくありがたく思っていますよ」
時計の針が夜の11時を指しているときのこと。
今日はシンクさんにはお店を利用していただいていますが、珍しく夜遅くにこうして入らしてくださっている。
「嫁さんからもヒロトの酒場以外を利用するのは絶対に許さないって言うんだぜ?」
「ふふ、それはありがたいことですね」
「まあ、俺もここは気に入っているから変えるつもりはねーけどよ」
ビール片手に焼き鳥を頬張る姿はお馴染みになりつつある。
お客様の話に耳を傾けるのも私としては立派な仕事ではある。
「にーちゃん、もう一杯頼むわ!」
「少々お待ちください!」
今日はそれなりの賑わいで、忙しくあるが嬉しくある。
「ビールお持ちしました」
「サンキューな。この店は酒も飯も美味いし、何よりそれほど騒がしくないのがいいな」
「それはありがとうございます。お客様がひとりひとりが互いを気づかいながら楽しんでくれているおかげですから」
ここは喧騒とした居酒屋というよりも、個人の時間を楽しむBARのような静けさもある。
お酒一つをゆっくり時間をかけて飲む人や、友人と談笑しながら飲む人までいる。
そしてときには私に、愚痴や相談事をする人など様々である。
「シンクさんもたまには奥さまと一緒に入らしたらどうですか?」
コンロに戻り、今度は私から話しかける。
「あー、それはいいかもな。けど、何か小っ恥ずかしくないか?」
「ふふ、私は結婚していませんので、そういうのは理解しかねますね」
よく言うわなと言いつつ、最後の一口を飲み干しておかわりを注文してくる。
「水割りで頼む」
「了解しました」
ウィスキーを氷に入ったグラスに少し注ぎ、
マドラーでかき混ぜてから、水をウィスキーと8:2の比率ぐらいまで注いでから、もう一度しっかりとかき混ぜる。
「どうぞ」
「ありがとうな」
「レミアンのやつですから、クセが無くて飲みやすいはずですよ」
私のお店では何種類のお酒をキープするというよりは、週替りなどで物が変わることが多々あります。
ボトルキープされている方はまた別ですが、安く買い取るための工夫みたいなところですね。
「焼き鳥と合って美味いな」
「シンクさん、何でも焼き鳥基準ですよね」
「実際合うから仕方ないだろ」
それは分かりますけど。焼き鳥とタレとか塩が、程よく喉を乾かして、無限ループのように両方を味わい続けているんですよね。
「それよりもさ。他に従業員を雇ったりしないのか?」
「どうしてですか?」
「フラワーもある程度顧客が集まって来ているわけだし、店の回転率とかヒロト自身の負担も減って損はないはずだろ?」
シンクさんがそんなことを考えていたなんて。確かに話している間も料理を運んだりはしていますし、仕事が終われば夜中まで片付けをしていることもあります。
「それでも私が皆さんと話す時間が減りますから、それは私には大きな損失ですよ」
「そっか、ヒロトが言うならないも言わねぇよ」
少し無碍に扱ってしまいましたかね。よし、ここは私もグラスを持って一緒に呑むことで機嫌を直していただきましょうかね。
カラン
私がビールを入れようとグラスを取り出そうとしたときに、扉の鈴が鳴るのが聞こえた。
「いらっしゃいませ」
「おい!酒頼むわあんちゃん!」
おっとっと、どうやらだいぶ呑まれた男性が足を運ばれたようですね。
だいぶ出来上がっていて、呂律も上手く回っていないのが証拠だ。
「お客様。申し訳ありませんが、だいぶ呑まれているようですし、本日はこの辺りで帰宅されたらいかがですか?」
忙しいで男性の前まで出向き、これ以上お店に入らないように前に立つ。
「はぁ?おれはぁ!お客様だぞぉ?」
顔を近づけて言ってくるが、案の定口からはアルコールの臭いがきつく、思わず目を細める。
「おい、ヒロト!」
「お客様はゆっくり座ってください」
シンクさんがこちらに向かって何か言おうとするが、私は手でそれを制す。
ふぅ、たまにこうやって酔っ払いが迷い込んでこの店に足を踏み入れてくるんですよね。
……話し合いで解決出来たらそれに越した事はないんですけど、そういう雰囲気でもなさそうですし。
「ふふ、お客様。少し私と外で風に当たりに行きませんか?」
「何だ、あんちゃん。俺とやろうとでも言うののか?」
「ふふ、そう言ったところですかね」
店内にいるお客様にはしばらくお待ちくださいと一言入れて、酔っ払いの男性とお店の前まで出る。
「ちっ、酒も出さねぇし、ちびの癖に喧嘩まで言ってくれるとはなぁ!!」
「あなた大きすぎるだけですよ」
180cmもあるのに見上げるのは正直意外でしたよ。
ガタイも私より一回りも大きく、まるで巨人のようですね。
「くだらねぇことはいいんだよ!」
両手で私の襟を掴みかかろうとしてくる。
「……正当防衛ですよ?」
掴みかかろうとしてくる手を交わし、相手の右腕を両手で掴み、そのまま懐に潜り込み、私の背中で相手の腹を持ち上げて、両脚を一気に伸ばして、背負い投げの要領で地面に叩きつける。
「うげぇぇえええ」
地面に叩きつけた際に男の口から吐瀉物が飛び出し、そのまま自然落下で自らの顔を盛大に汚してみせる。
「……汚い花火ですね」
見回りをしていた騎士団の方にことあらましを伝えて、男を引き渡してから、私はお店の中に戻る。
「皆さん、今回はお見苦しいところお見せして申し訳ありませんでした!」
店に入ってすぐに私は深く頭を下げて、今回のことをお詫びする。
「謝罪と言っては失礼ですが、今いるお客様には本日のお代は半額とさせていただきます」
私の誠意をそれなりの形にして伝える。
……やはり、もう1
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