エルー


カラン


「いらっしゃいませ」

ドアベルが静かに来訪者を告げた。


夕焼けが差し始めた頃


まだ誰も見えない店内で清掃をしていたのを中断し、白のシャツに黒のパンツの上に薄茶色のロングエプロンを付けて来訪者の近くまで歩み寄る。


「ヒロト、今日も俺が1番乗り見たいだな」

「ふふ、こんな時間に来ていただける方はシンクさんぐらいですよ」


ヒロトとは私の名前です。本名は伊藤広人。5年前にこちらの世界に来て今では21歳になる。相手はこのフラワーの常連で3つ年上の冒険者をしている赤髪・赤瞳が特徴なシンクである。


「今日はクエストは終了されたんですか?」

「まあな。ヒロトがいてくれたらもっと早く終わってここに来れたんだがな」


こちらを茶化しながらも指定席になりつつあるコンロの前のカウンターの席に座る。

この小さなお店を開店するための資金で冒険者をしている時もありましたが、どうやら私自身はあまり才能もなく、営業を開始すぐに冒険者稼業は引退させていただいた。


「それでは店の準備ができませんよ」

「それもそうだな。とりあえずいつもので頼むわ」


畏まりましたと一声入れ、茹でていたエルーと言われる豆を鍋から取り出し、小皿に置き、軽く塩を振る。

そしてジョッキクーラーから1つジョッキを取り出し、ビールサーバーでビールを注ぎ、シンクさんの前に置いた。

ジョッキクーラーとビールサーバーも魔石を理由して作ったされていて原因についてはいまいち把握していない。とりあえずあるから使わしてもらっている。


「くぅぅ、クエスト終わりの一杯は最高だな!」


勢いよく喉に流しこんで飲むシンクさんの姿は見ているこちらも気持ちがいいものがある。

半分程度飲むとお通しのエルーを食べ始める。エルーはまあ枝豆よりも一回り大きく橙黄色の豆である。試作の時に皮ごと茹でてみたが、思いのほか皮が厚く、ここでは豆だけを茹でて提供している。


「それはよかったです」

「それにヒロトの入れるビールは旨いな!」

「ふふ、お世辞を言っても何もサービスはしませんからね」


話しながらもカウンターに背を向ける形で焼鳥器で焼き鳥を焼いていく。


「はい、焼き鳥です」

「これを待ってたんだ。ビールのおかわりも頼むわ」


ほんじりとネギまともものタレで味付けした3種を置き、ジョッキを受け取り、新しいのにビールを注いでいく。


「どうぞ」

「サンキューな」


この世界では18歳から飲酒が可能で私も焼き鳥とビールの組み合わせ試しましたが、焼き鳥についた甘口タレとビール苦味は癖になりますね。父が好んで食べていたのが今なら理解できます。


「今日はヒロトは呑まないのか?」

「まだ開店したばかりですから御遠慮させていただきます」


私も営業の傍らで少量ですが、晩酌ついでにお酒を頂いています。お店のお酒をいただくのは店主権限ですから。


「つれねーな。まあ、ヒロトとはまた今度にするわ」

「そうですね。それよりシンクさん、そろそろ帰宅されないと行けないのでは?」

「やっべ、妻に怒られるな」


いつの間にか焼き鳥を完食されており、最後の一杯を飲み干すと会計をそのまま立ち上がる。


「ごちそうさんヒロト、またよろしく頼むわ!」

「こちらこそありがとうございます。奥様にはよろしくお願いします」


あぁ!と一言を最後にシンクさんは帰宅された。


カラン

シンクさんと入れ替わりで今日もまたお客様が来店される。

いつも通り彼が帰宅されてからが本格的に営業が開始される。


「いらっしゃいませ」

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