第7話 当直室

 院長室、看護部長室、事務長室と、聞くだけで息が詰まりそうな部屋の並びの端に当直室はある。ある意味、めったに人が来ない場所であるのは分かっているのに、掬子はドアの前で、もう一度周囲を確認してしまった。

 やましいことは何もない。頼まれた朝食を届けに来ただけだ。

 掬子自身、嫌というほど、この部屋で当直をしているのに、改めて「訪室」するとなると妙に緊張する。ましてや、そこで結木が待っているとなれば、なおさらだった。

「開いてるよ」

「えっ?」

 なんと掬子がノックする前にドアは開いた。

「足音で分かった」

 結木は当直明けとは思えない爽やかな笑顔で、掬子を室内に引き込み、そのまま後ろ手でカギをかける。

 その音にドキリとしたのと、強く抱きしめられたのは、ほぼ同時だった。

「ゆう‥っ」

 不意打ちの衝撃に、掬子の指から朝食の入った紙袋がすべり落ちる。

 朝ごはんが――

 押し付けられた肩口で言いかけた掬子に、結木は離すまいと首を振った。

「何日会ってないと思ってるんだ…」

 湿った低音の声が心地よく耳をなぶる。

 いつものボディミストに混じった結木の香りに包まれて、掬子は少し大胆な行動に出た。

 空いた両手でゆっくりと結木の腰を引き寄せる。掬子より少し高い体温を感じながら、張りのある骨盤を、引き締まった背筋を、手のひらで確かめていく。

「三週間ぶりです」

 手帳のカレンダーを見て、ため息をついた時間は、考える間もなく口からついて出る。

「…ああ」

 軽く目をみはり、肯定とも否定ともとれない曖昧な返答をした結木は、会えない時間を掬子が同じように感じていたとは思ってもいなかったのだろう。その瞬間、ふわりと結木の体が熱くなる。

「会いたかった…」

 背中を、腰を、さらにはその下まで探ってこようとする結木の手に、掬子は逆らえなかった。


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