歌うたいの歌

歌うたいは悲しんだりしない。

歌うたいはもう歌うことをやめたから。

今はギターを爪弾くだけ。

それならきっと悲しくない。


歌に魔法を込められる時代。歌うたいは守りたい一人の人のために歌を歌っていた。しかし愛すべきその人に歌を届けることはできなくなってしまった。幸せにすると誓ったのにそばにいる事ができなかった。


その人はまだ生きているのに、その人は歌うたいが幸せを望んではいけない存在になってしまった。


だから歌うたいはもう歌を歌わない。


今日も通り過ぎる人の中でギターを弾いた。

しかしこの曲を飾る歌はない。


ある人が足を止めた。

「それ、歌詞あるんでしょ?唇、動いるよ」

歌うたいは思わず指を止める。

「悲しい、歌だね」

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