トカゲの階段

どんな学校にも七不思議というものがある。

理科室の人体模型、音楽室のオルガン、トイレの花子さん。

どれも全部みんなで怖がって、そして最後には笑って終われるものだ。


しかしこの学校には他にはない怪談が存在する。

それが『トカゲの階段』。


とある時間にその階段の影に包まれると、そのまま異世界に連れて行かれて二度と帰ってこれなくなるというものだ。

正確な時間は分からないが夕方四時から六時の十分だということだ。

だから『ト(十)カゲ(影)の階段』。


・・・

・・


「ぷっ!なにそれ、語呂合わせ?全然怖くないじゃん」

私は彼から聞いた話に声を出して笑った。

うちの学校にしか存在しない怪談だっていうから期待したのに、とんだ笑い話。

しかも今からその階段に行こうというのだ。

現在四時ちょうど。

まぁ暇つぶしにはちょうどいい。


「本当なんだって。トカゲの尻尾切りみたいに、現実から切り離されちゃんだよ」

「はいはい」


そう言ってたどり着いた階段。

うちの学校は天井が高いため、階段もそのぶん長い。

踊り場の窓から差し込む夕日は、ちょうど階段の半分に影を落としていた。


ちょうど四時十分。

私は影に、彼は夕日に照らされていた。

「ほーら。なにも起きないじゃん」

笑う私に彼が振り向いた。

表情は逆光で見えない。


「なぁ。俺たちもう別れよう」

「・・・・・・え?」

突然過ぎて彼がなにを言ったのか分からない。

「異世界に連れて行かれるっていうのは嘘。ここは縁切りの階段なんだよ。別れたい相手と四時十分にここで別れを告げれば確実に別れられるんだ。光と影に分かれていれば。後腐れなくトカゲの尻尾みたいにきっぱりと」

「・・・・・・なに?それ?」

「じゃあそういうことだから」

「ちょっと待ってよ!なに?他に好きな子でもできたの?」

そう言って私は階段を駆け上って彼のもとへ行った。

しかし彼は彼方を向けだけ。

「そうじゃない。でももう終わりにしたいんだよ」

そしてそれだけ言って彼は階段を降りていった。


一方的過ぎる。

こんな別れ、酷すぎる。

理由もなく怪談を言い訳にして、怪談にかこつけて。


そんな別れを告げた彼を、私は階段から突き落とした。


切られたトカゲの尻尾は、不規則で意味不明な動きをするものでしょ?

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