3月2日・3日・4日
とおくから、結花……とよばれた気がした。
最近はずっとねてる。勿忘草に、水もやっていない。
あぁそうだ。勿忘草は、どうなっただろう。
そう思ってうすく目をあけると、近藤先生がいた。窓に指をやって、咲いたよ、とくちびるが動いて。わたしはようやく、こんどこそはっきりと目が覚めた。
とびおきたいくらいだったけど、そんな体力なかったから、近藤先生にベッドごと身体をおこしてもらって。日記を書かなきゃだから、サイドテーブルもだしてもらって。
はじめてそれを目にして、ぱぁっときもちが明るくなった。
ぽつり、ぽつり。
みどりの葉っぱの間から、小さな青いお花が咲いている。
夢にまで見た、勿忘草のお花。
あぁ、かわいい。うれしい。
よく、咲いてくれたね。
長い冬をこえて、外は雪がのこってるけど、よく晴れていて。
プランターのお花も見たいなって言ったら、近藤先生がベランダへ出て、持ってきてくれた。植木鉢のより、やっぱりずっと多く咲いている。むらさき色も、白いのもある。あぁ、かわいい。
いきぐるしかったけど、自然に笑みがこぼれて、近藤先生を見上げたら、やさしく笑って頭をなでてくれた。
近藤先生、ありがとう。
わたしはこれまでお父さんのかおを知らないまま生きてきたけど、もしお父さんがいたらこんな感じなんだろうなって、ずっと思ってた。
やさしくしてくれて、ありがとう。いつもあたまをなでてくれて、ありがとう。
かわいいところもたくさんあったけど、おおきな背中もごつごつした手も、やわらかく笑ってくれるところも、安心してすべてをまかせられるくらい、ステキなひと。
あの台を使っていたっていう、娘さんがうらやましいって、心からおもうよ。
つぎは、もっとちがうかたちで会いたいな。
しんどい。でも、もっと。
もっと、たくさんの人に、ありがとうをいわなくちゃ。
◆◆◆
お母さん、お姉ちゃん、ありがとう。
お母さんはしょっちゅうきてくれてたけど、やっぱりあの家にひとりで、さびしかったのかな。そういうおもいをさせてしまったことは、ごめんなさい。
これからは、なにかあったらお姉ちゃんに、おねがいしてあるからね。
長生きしてね。
お姉ちゃん、子育て毎日大変だと思うけど、がんばってね。
お兄さんに、ムリしないでねってつたえてね。それから、家族サービスもたまにはひつようだよってね。
たくさんたくさん、大変だと思うけど、大黒柱なんだから……今のお兄さんはなさけないところがおおくて、ちょっと心配だから、おねえちゃんもできるだけきょうりょくしてあげてね。
わたしのだいすきなおいっ子、めいっ子たち。
ゆいとくん、かなちゃん、りなちゃん。みんな、ありがとう。やくそくまもれなくて、ごめんね。
ゆいとくんはしっかりものの男の子だから、大きくなったらお父さんといっしょにおうちをささえてね。かなちゃんとりなちゃんは、双子でちがいがわからないことがおおかったけど、これからそれぞれちがう成長をするのかな。見たかったな。
三人、みんなでなかよくね。
さみしくなったらいつでも、わたしのところにあそびにきてね。すききらいはダメよ。お母さんにあんまりおこられないでね。
たまきさん、ほかのひとたちも、みんな、ありがとう。
たまきさんのごはん、おおざっぱな手つきのわりにはいつもすごくおいしかったよ。生田くんのこと、もっとビシビシきたえてあげてね。
いつもわたしをかわいがってくれてありがとう。
きたばかりのころは、病気のこともあってちょっとおちこんでたけど、みんなのなにも聞かないでくれるやさしさが、あたたかさが、すきでした。
ながいきしてね、できるだけ。
むこうでまた会えたら、そのときはまたかわいがってください。
それから、なかよくしてくれたお友だち。
わたしのことを心配してくれて、ありがとう。それからとつぜんあんなメール送ったうえに、着拒にしてごめんね。
さやかちゃんも、かおりちゃんも、なつみちゃんも、けいこちゃんも。みんな、大好きだよ。ずっとずっと、ともだちだよ。
元気でね。わたしがいなくなっても、みんななかよくしてね。
◆◆◆
これを少しずつかいているあいだに、わすれなぐさの花がすこしずつふえてきて、うれしい。みてるだけで、げんきがでる。
まんかいはさすがにムリだったけど、それでもこんなにたくさんみられるっておもってなかったから、すごくうれしい。
成人までいきられたし、わすれなぐさもみられたし、とりあえずまんぞくかな。
でも欲をいえば、ことしのたんじょうびまでいきたかった、かも。
かけるとこ、すくなくなってきた。
たぶん、このにっきがさいごになる。だから、いっておかなくちゃ。
ありがとう、みんな。
さようなら。
わたしのこと、わすれないでね。
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