1月10日・14日・19日・26日

 今日は成人式なんだって。生田くんは今年、新成人の一人として行ったみたい。今度会ったら、おめでとうって言わなくちゃね。

 わたしは去年、まだ全然元気だと思ってたけど実は体内の知らないところで病気が進行してた時期に、すでに済ませている。

 今思えば、死ぬ前に成人迎えられてよかった。キレイな着物着られたし、お友達にも会えたし。お酒も、飲んだし。

 あれが、最後かな……。


 勿忘草の苗は、ぐんぐん大きくなってる。

 植木鉢、せっかく少し大きめのを準備したのに、もう隙間がないほどパンパンだね。まるで大きくなりすぎて、せっかく買った服がぴちぴちになっちゃった子みたい。

 来てくれたお母さんに話したら、相変わらず結花は面白い発想をするね、って言われちゃった。どういうことかな?


 そのあと、近藤先生が来て、お母さんと一緒に別室へ行った。わたしのことを、話すためだろう。

 多分わたしの寿命が縮まったこと、お母さんの方が早く知ってたと思う。それでも、あの時までずっと、わたしに悟らせないようにしてくれてたんだなぁと思ったら、また申し訳ない気持ちになって。

 みんな、きっとつらいんだよね。

 わたしももちろんすごくつらいけど、でも。

 お母さんに、近藤先生に……他にももっとたくさんの人に、心配と迷惑ばかりかけて。

 どうにもできない自分の身体を、呪った。


    ◆◆◆


 わたしをかわいがってくれていた、入居者さんの一人が、今日亡くなったと知らせを受けた。

 ここに来てたんだから当然だけど、あの人もわたしと同じ、末期ステージの病気だった。ずっと元気そうな笑顔ばっかり見せてくれてたから、普段はほとんどその事実もわからなかったけど。

 最近見ないなぁとは思っていたけど、そういうことだったんだ。

 わたしもいつか……近いうちに、そうなる日が来る。

 そう思ったら、分かってはいたことだけど、突然現実を突き付けられたみたいで、急に悲しくなった。


    ◆◆◆


 お姉ちゃんが、約束通り家族で来てくれた。一気に騒がしくなったお部屋に、落ち込んでいた心も浮上してきた。

 お正月に会ったばかりだけど、それでも子供たちはわたしに会えてうれしいと、抱き着いてきてくれた。

 お正月の時よりまた少しやせた身体を、厚着でごまかして。ウィッグもかぶって。お化粧も、ちゃんと健康的に見えるようにして。口の中には、わた・・を詰めた。それでわたしは健康です、だなんてちょっと無理があるかもしれないけど。

 それでも袖からのぞく手は骨が浮き出し始めていて。腕から伸びる点滴の管も、元気だとは言えなくて。それを目ざとく見つけた子に、また心配の目で見られてしまって。

 頭をなでて、ごめんね、とつぶやいた。


 お姉ちゃんが、代わりに勿忘草へお水をやってくれた。

 倒しちゃダメだよって何回も言い聞かせて、子供たちみたいに日々ぐんぐん大きくなる苗を見せてあげた。何の花? って聞かれたから、勿忘草だよ、って答えて。

 こんな花が咲くのよ、って、携帯電話の画面を見せてあげた。

 結花ちゃんすごいね、だって。ほめられちゃった。

 子供たちも、学校で植物を育てていると口々に教えてくれた。お花だけじゃなくて、野菜や果物もみんなで育てて、日記をつけているんだって。

 今度見せてねって言ったら、うれしそうにうなずいてくれた。約束だよ、って、指切りもした。

 満面の笑みが見られただけで、元気になれそう。


    ◆◆◆


 花が咲くまでには、まだ早いかな。

 そうつぶやいたら近藤先生が、今の成長の調子だと、早ければ三月上旬くらいには咲くかもねって。

 それまで、生きていられるかな。

 しんどいけど、それまでは絶対に、何があっても生きていたい。

 せめて死ぬ前にひと目だけでも、勿忘草が咲いたところを見たいんだ。

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