1月4日
とりあえず無事に、年は越せた。
年末年始には外泊許可をもらって、実家へ帰った。久しぶりだから用意に気合入っちゃって、思い切ってウィッグも新しくしちゃった。似合うって言ってもらえたよ! すごくうれしい。
実家までは近藤先生に車で送ってもらった。
先日の件もあり、わたしを見て少し気まずそうにしてた近藤先生。こうなっちゃったのは先生のせいじゃないし、余命が縮まったからって先生のこと嫌いになんかならないから安心してねって言ってあげた。それから、取り乱したことはもちろん謝った。
近藤先生は困ったように笑って、いつもみたいに頭をなでて……じゃなくて、頭をポンってしてくれた。ウィッグがずれないように気を付けてくれたみたい。優しいな、やっぱ。
家に帰ると、お母さんと、ちょうど帰ってきてたお姉ちゃんたちが迎えてくれた。特にお母さんは、わたしが年末ぎりぎりまでふさぎ込んでたこと知ってるから、顔を合わせるなりすごく心配されちゃった。
ホント、ごめんね。こんな娘で……。
さっきも言ったけど、先日の件があってから、わたしはずっと一人で落ち込んでた。だけどなつかしいおうちに帰って、久しぶりにみんなでお鍋を囲んだら、ちょっとだけ気が紛れた。
もちろん事実は変えられないけど、これまでと何ら変わらない、ありのままの日常がそこにはあって。なんだか、すごくホッとしたんだ。
誰かがそばにいてくれるって、本当に心強い。
以前から考えていた通り、お兄さんには仕事ばっかりしないでたまにはリフレッシュしてねと言っておいた。結花ちゃんは相変わらずしっかりしてるね、って苦笑いされてしまった。
病人に、しかも末期患者に心配されるんだから、ホントお兄さんは相変わらず情けないよなぁ。お姉ちゃん、頑張って!
おいっ子やめいっ子たちはみんな純粋で、まだ小さいし難しいことなんて分からないだろうっていうことで、わたしの病気のことは一切打ち明けていない。
でもみんなが一斉に抱き着いてきたときに、大きな丸い目がいくつも不安そうに揺れて、結花ちゃんやせた? 顔色悪くない? なんて口々に聞かれたものだから、つい口ごもってしまった。
お姉ちゃんがわたしのために、話をそらしてくれたけど、それでちょっと、子供たちにいやな予感は抱かせてしまったと思う。
まぁ、仕方ないことなんだけど。いずれは、知るだろうし。
それで、年越しにはジャンプしようだなんて、ベタなこと言って。結局子供たちも含めて、みんなでやったんだよね。
ふふ、これで自慢できるよ。わたしたち家族、みんな年越しの瞬間は地上にいなかったんだって。
帰っている間、勿忘草のお世話は近藤先生にお願いした。わたしより植物に詳しい先生だから、安心して任せることができる。
年末年始の間に、施設の方は大雪が降ったらしくて、戻ってくるのがちょっと大変だった。ここまではお兄さんに車で送ってもらったんだけど、途中でスリップしちゃったりして。まぁ、何事もなくてよかったけど。
大雪のせいで、ベランダにプランターを置けないから、一時的にプランターは部屋の中に入っていた。いくら寒さに強いとはいえ、雪の重みで枯れちゃったら嫌だもんね。その辺の判断は、さすが近藤先生としか言いようがない。
さて。
今日からまた、いつもの日々が始まる。
勿忘草に水をやって、成長を見守って、近藤先生やお母さんとお話をして、食堂でたまきさんたちと美味しいご飯を食べる。
……あ、そうだ。生田くんにまだ会ってないや。実家に帰ってるらしくて、今日はまだ戻ってなかったから。
そのことも、おいおい考えておかなくちゃ。
ともかく、この日々がいつまで続くか。
死ぬまでにもう一回くらい、実家に帰っておきたいけど……勿忘草が咲くのも、見たい。だって、あんなに毎日大事に育ててるのに、その成果が見られないなんて悲しいもん。
でもまた落ち込んでみんなに心配かけちゃうから、出来るだけ、そういうことは考えないようにしよう。
ようし。
みんな、今年もよろしくね。
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